第97話

 「纏い……――夜又ノ大蛇」


 見下ろす剛鬼の身体から、八頭の蛇のように影がうねり出している。その中の一頭に攻撃を防がれて、剛鬼への攻撃が通らなかった村正は口を開いた。


 「拙者の予想が外れたでござるな、これは」

 「予想とは?」

 「拙者の予想では、貴殿の攻撃は腕っ節だけかと思っていたでござるよ。何か裏があると読んでも、その体術を補わせる為の物だと思っていたのでござる。しかし、当てが外れてしまった」


 村正は肩を竦めながら、八頭の蛇が届かないであろう場所まで下がった。距離を取り、どれぐらいの範囲が剛鬼の守備範囲かを定める為に。

 そんな村正の行動の意味を理解しているのか、剛鬼は距離を詰めて八頭の蛇を村正へ攻めさせた。八頭の蛇が押し寄せる中、村正は回避行動を取りながら一匹ずつ確実に対処していく。


 「っ……!」

 「ほぉ、この程度は耐えうるか。ならば、これならばどうだ!」

 

 八頭目の蛇を切り裂いた村正だったが、すぐにまた影は蛇を再生させる。斬り応えがあるにもかかわらず、剛鬼には大したダメージにはなっていないのだ。それを悟った村正だが、剛鬼は再び蛇を全て攻めさせた。

 上下左右、八方向全てから迫る蛇を斬り村正は下がる。森の中という不安定な足場という状況で、村正は木々の枝を足場にしたりしながら回避行動を続ける。


 「っ……キリが無いでござるな」

 「何処まで逃げ回れるかな?我にもっと可能性を見せてみろ!村正とやら!!」

 「ぐっ……なんのこれしき!!!」


 迫り来る影蛇えいじゃを切り伏せながら、なんとかして村正は剛鬼へ接近する方法を模索する。回避行動をしながら移動し続け、剛鬼の背後に回っても影がそれに対応する事が理解出来ている。

 だがしかし、このまま回避に徹していたら勝負がつかずにジリ貧になる。徐々に妖力も体力も消耗しているのだから、現状では村正が不利な状況だ。それを分かっているからこそ、村正は勝負を焦っていた。


 「どうした?村正。我はまだ一歩も動いておらんぞ?」

 「そうでござるな。では……そろそろ大蛇以外で攻撃を誘ってみる事にしよう!」


 そう言った村正は、迫る影蛇を二、三匹と切り伏せてから剛鬼との間合いを詰め始める。詰め始めた村正に対し、剛鬼は残りの影蛇を村正へ向かわせるが臆す事なく接近する。


 「むぅ……その勇姿、素晴らしいなぁ!!村正ぁ!!!」

 「お褒めに預かり光栄。……だが、貴殿の余興に付き合える程、拙者は強くないでござるよ。――雷光!!」

 「その技は先程見させてもらった!同じ技は二度は通じぬと思え!」

 

 懐で着地した村正は雷光を放ったが、剛鬼は片腕のみでそれを防ぎ切った。それを見た村正は表情を強張らせたが、狼狽ろうばいせずに剛鬼の背後に回り込んだ。

 

 「いくら動きが速かろうとも、我の大蛇からは逃れる事は不可能だ!」

 「分かっているでござるよ。……だから」

 「ん?ならば何を……まさか!?」


 剛鬼の背後へ回り込んだ村正へ、剛鬼の放った影蛇が八頭に再生して噛み付く。肩、腕、腰、足、首……それぞれに噛み付かれた村正だったが、ニヤリと笑みを浮かべる村正に剛鬼はゾクッと寒気を感じた。


 「――やっと、的が絞られたでござるな」

 

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