第92話
――時は遡り、数十年前の事。
当時、ある村では鬼童丸と呼ばれる侍が存在した。その者は人間でありながら、鬼の如く罪人を切り伏せる事で名を爆ぜていた。善き人間から正義の味方と謳われ、悪の人間には邪魔者と称される。
『てめぇが鬼童丸かっ?野郎ども、やっちまえ!!』
「悲しいでござるなぁ。無用な殺生をせねばならんとは……」
その者は刀を鞘から微かに抜き、接近してくる彼らを切り伏せた。目を細め、悲しそうな眼差しで流れる赤い血を眺めながら。
『ぐぅ……て、てめぇ、ば、ばけもんかっ!』
「初対面の相手に向かって失礼でござるな。拙者は人間でござるよ、これでもな」
『チッ、ついてねぇな。――いやぁぁぁぁぁぁ!!!!』
上段の構えをした罪人が、気合十分の声を上げてその者に斬り掛かった。だがしかし、上段で構えてしまえば中段や下段で対処されてしまう。それを理解していない訳でも無いだろうが、その者は素早い一閃で刀を振るった。
罪人の腹部からは血が溢れ、ゆっくりと倒れていく。その者はその様子を眺めながら、刀を鞘に納めて両手を合わせて顔を伏せた。
「……願わくば、あの世でまた会おう」
骸となった罪人にそう告げると、その者は再び歩を進める。
「……」
「旅をしてるのか?お侍」
「ん?」
しばらく歩を進め、もうどれくらいの陸を渡り歩いたか分からない場所でそんな言葉を投げられる。その者は振り返り、団子屋に座る一人の男を見た。見たところ子供にも見えるが、どこか雰囲気が子供とは別物と感じた。
「まぁ座れよ。三本までなら出してやる」
「……かたじけないでござる」
「遠慮するな」
そう告げる男に対し、微かな警戒心を抱きながらもその言葉に従った。やがて団子が出され、それを食えと男に促される。若く、だがしかし大人びている。そんな少年だとその者は感じた。
しばらく隣で団子を食していると、男は口角を上げてその者に問い掛けたのである。
「――あんた、鬼童丸だろ?」
「っ……!」
「あぁ、勘違いするな。オレはあんたに提案しに来たんだ」
「提案、でござるか?」
「あぁ、……あんた、オレの部下にならねぇか?」
それが彼――鬼組幹部が一人、村正が焔と出会った
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