第十夜「黒騎士・剛鬼」
第91話
「拙者はただの――侍もどきでござるよ」
そう言いながらは、村正は剛鬼の能力である断鎧鬼を斬った。斬られた事に驚きを隠せなかった剛鬼は、訝しげな視線を村正へと向ける。軽い反撃で拳を振るった剛鬼に対して、村正は距離を取って刀を鞘に納めた。
「我の断鎧鬼を切り裂くとはな。正直に言って驚いたぞ、妖怪」
「お褒めに預かり光栄でござるな。して、その驚きに免じて退散してくれたりはせぬか?」
「悪いがこちらも命令でな。そう簡単に退く訳にはいかぬ、許せ」
「良いでござるよ。そのおかげで、そなたのような強者に会い
村正は手を振りながらそう言い、剛鬼も腕を組みながらニヤリと口角を上げる。互いに無駄話のような余談を交わしていると、村正の背後に居た鬼組の妖怪たちは不思議そうに眺めていた。
それもそうだろう。敵である剛鬼と村正が、冗談混じりの雑談をし始めたのだから。先程まで剛鬼と戦っていた妖怪たちからすれば、間の抜ける光景だろう。そんな不思議な光景を眺める視線に気付いた村正は、肩を竦めて言った。
「どうでござろうか?このまま無駄話を続けるというのは」
「ふむ、悩ましい提案だな。正直に言えば、我もこの戦いには疑問が残っている」
「ほう。ならば良い機会。拙者と共に酒でも交わしながら、今後の流れを語らないでござるか?」
目元の仮面があっても、笑みを浮かべていると分かる村正。酒を酌み交わしたいというのは本音である事は、恐らく目の前で対面している剛鬼が一番分かっている事だろう。
だが剛鬼は腕を組んだまま、溜息混じりに首を左右に振った。
「そうしたいのは山々だが、それは出来ない相談だ。先程、貴様の仲間が我らの連れて来た部隊を一掃してしまった。それにより、我はその仲間である者たちの
「ふむ、背に腹は変えられぬという訳でござるな。互いに苦労する身でござるな」
「全くだ。同情、痛み入るぞ」
村正と剛鬼はそう言葉を交わし、互いに少し距離を取って構えた。村正は刀を鞘から数センチだけ抜いた状態で構え、剛鬼は再び断鎧鬼を生成し直して突撃の姿勢へと移った。
互いに視線を交わしながら、衝突する前に口を開いた。
「――黒騎士が一人、剛鬼!」
「――鬼組幹部が一人、村正!」
「「……――いざ尋常に勝負!!」」
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