第66話

 「……」


 非常に不可解な出来事だ。いや、夢だという事を思えば、そんな可笑しい事では無いのだろう。だがしかし、オレにはこの状況が不可解な状況でしかないのだ。


 「ねぇ、ほーくん」

 「……」


 先程、頬をつねってみたが夢が醒める様子は無い。それどころか、オレの意識が現実世界に戻る様子が無い。理由は分からないが、オレはこの夢の世界で何かをしなければ戻れない状態となってしまったらしい。

 

 「ねぇねぇ、ほーくんってば」

 「……」


 しかし現状、『らしい』というだけで確定した訳では無い。現段階で推測した結果、それが一番妥当だという結論を出したまでに過ぎない。

 この夢の世界の中で、オレがすべき事は何かは不明だ。だが、それでもそのをしなければ現実世界に戻る事は無いという状況なのは間違いない。

 まぁ、どれも全て仮説に過ぎないのだが……


 「ねぇ、ほーくんってばっ!!」

 「痛っ……人の頭をいきなり叩くな」

 「いきなりじゃないもん!ちゃんと何度も呼んだし、返事しなかったほーくんが悪いんだもん!!」

 「大体、その『ほーくん』って呼び方、止めろって言わなかったか?」

 「止めないって私は言いましたぁ!はっはっは~」

 「何が『はっはっは~』だ。今すぐにその呼び方を止めないと、燃やすぞ?」

 「良いよ~、やれば?私知ってるからね?って事」

 「……チッ」


 本当に数十年の歳月が戻った気分だ。現代の茜の記憶には無いが、オレの記憶にだけ残っている彼女の話し方と性格。それがそっくりそのまま同じで、この上なく面倒なのもそのまんまだ。

 オレはそんな事を思いながら、オレの前の席で後ろを見る彼女に視線を向けた。


 「お前、相変わらず元気だな。何か良い事でもあったのか?」

 「ん~、別に無いよ?……あぁでも、一つだけあるかも」

 「参考までに聞こう。何だ?」

 「ほーくんに朝から会えた事かな♪なんちゃって」

 「……」

 「あぁ、止めて落ち着いてほーくん!!を教室で出さないで!!」

 

 椅子に座ったまま手の平の上で紅い炎を出すと、焦った様子で彼女はオレの行動を制止し始めた。やはり知っているのか、オレが半妖である事を……。

 だがこの夢の世界がいつの時代なのか、なんとなくだが曖昧だ。それを確定する事が出来る問いが、あるにはあるのだがオレは言いたくない。

 しかし聞かなければならない以上、オレは聞かない事を諦めて彼女に聞いた。


 「茜…お前に聞きたい事っていうか、確認したい事があるんだが良いか?」

 「うん?何かな」

 「お前にとって、オレは何なんだ?」

 「なぁに今更そんな事を聞きたいの?えへへ~――へ?」


 だらしない表情を浮かべながら、オレへと手を伸ばそうとする彼女。オレは彼女のその手を取り、少しだけ身を乗り出してもう一度問い掛けた。

 

 「もう一度聞くぞ。お前にとって、オレは何だ?」

 「(か、顔近っ)っ……い、許嫁いいなずけでしゅ。はひ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る