第67話
――許嫁。
それは人間の世界で、家同士が決めた結婚相手である。だが焔と茜の間にあるのは、家が決めたという訳でも、ましてや誕生した頃からの決められた関係ではない。
何を隠そう。彼女……由良茜自身が勝手に決めた間柄である。
「……も、もしかしてほーくん。私と結婚するの嫌なの?」
「くだらない事を言ってないで、しっかりと授業受けろよ。先生が呆れてるぞ」
焔がそう言って指を差した先を見れば、溜息混じりに肩を竦めている先生の姿があった。だが茜はそんな事はどうでも良いという雰囲気で、焔の方へと視線を戻して先生に背を向けた。
「いやいやいや、くだらなく無いから!!私にとっても、ほーくんにとっても死活問題でしょ!?二人で身を隠す為に必要な事じゃないの!?」
「身を隠す云々って話をここで大きな声で言うなよ」
「あいつらが追って来るとも限らないし、今は様子見で良いだろ。もし追って来るってんなら、お前と結婚して身を隠しても良いから今は大人しくしてろ」
「むぅ~、なんか誤魔化された気がする」
そう呟きながら、渋々彼女は前へ向いた。そんな渋々な様子を眺めつつ、焔は腕を組んで窓の外の景色を眺めた。やがて今の状況整理をする為、周囲の様子も確認する必要があると判断した焔は手を挙げて言った。
「――先生。オレ、今から早退します」
「え、ほーくん、具合悪いの?だ、だったら私も」
「お前は授業に出ろ。頭悪いだろ、お前」
済し崩し的に了承された早退となったが、滞りない様子で焔は校舎から外へと出る事に成功した。周囲を確認する事を最優先にして、自分の記憶の中の物と照合していくのを繰り返していく。
しばらく周囲を徘徊した結果、焔は一つの結論を出していた。
「……ここは、ざっと六十年前だな。茜と許嫁の時点で予想はしていたが、オレたちが奴らから無事に逃げ切って数日ってところか」
そう言いながら焔は、大樹の上から小さな町を眺めていた。いや、小さな町というのは語弊がある。この町は現代と同じ、六十年前の幽楽町なのだから――。
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