第63話
オレが屋上で本を読んでいた時、屋上に続く扉が勢い良く開かれた。やって来たのは彼女、由良茜である。肩で息をしていた様子だったが、どうしてそこまで焦っていたのかが予想出来ない。
「……良いお天気ですね」
「?……そうだな」
突如としてやって来て、天気の話とはどういう脈略なのだろうか。彼女が何を考えているのかが分からない以上、オレが頭を捻っても無駄な事だろう。そんな労力を費やすのは好かない。――単刀直入に聞く事にしよう。
「お前、何しに来たんだ?昼休みが始まったばかりなんだから、飯でも食いに行けば良いだろ」
「あぁ、えっと……(どうしよう。特に理由が無くて、単に居るかもしれないって思ったから来たって言ったら変人みたいになるかな?ストーカー疑惑とか)」
オレが質問を投げてみたが、少し考えてから彼女は頭を抱え始めた。何を考えているのか分からないままだが、ここで立ち尽くしている時間は無駄でしかない。彼女には、自分の時間とやらを謳歌してもらおう。
「お前、昼飯はどうした?」
「あ、ええ、まだ食べて、ませんけど」
「なら今から食堂に行けば間に合うはずだ。今日は確か日替わりランチの他にサンドイッチが並んでいるはずだぞ」
「そうなんですか?詳しいですね」
「そりゃあな」
数十年間、この町で暮らしているのだ。日々同じ事を繰り返しているのだから、日替わりランチや他のラインナップを覚えるのは必然だろう。嫌でも覚えてしまうというものだ。
オレはそう思いながら、本を片手に先程買って来たパック飲料のストローに口を付ける。本へと視線を戻していたが、何故か未だに屋上を出ようとしない彼女の視線が突き刺さる。
「じー……」
「何だ?」
「……じー」
「……?」
何だ?と問い掛けた瞬間、彼女はすぐに隣までやって来てオレの顔を覗き込んだ。じっと見つめて来ているのは、一体何なのだろうか。そんな事を感じていたら、彼女は小首を傾げてオレに問い掛けた。
「あの……私たち、何処かで会った事ありませんか?」
「――!?」
その言葉を聞いた瞬間、オレは隠しつつも動揺をせざるを得なかった。
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