第七夜「過去の襲来」

第61話

 ――オレの身体なかに流れる血は、ひどく、とてもよごれている。


 それは、半端な存在であるオレだから感じる事だがオレだけ感じる物ではない。だがそれでも、確かにオレの血は汚れているし、けがれているのだ。

 

 『……行きなさいっ……そして、生きなさい!!』


 耳に残った声と頭に残り続けるその言葉は、今でもまだオレの内側なかを巡り続けている。何度払拭しようとしても、何度振り払おうとしても……ずっと残り続けている言葉は、オレを縛る鎖となっているのだろう。

 そして数十年、数百年と流れた月日と経て……オレはこの場に、幽楽町ここに足を踏み入れた。過去との鎖である血を全て――断ち切る為に。


 「……そろそろ、動くとするか」


 魅夜の事を誑かした奴には心当たりがある。いや、確実にだという事は分かっている。だからこそ、奴らの臭いを覚えている杏嘉に魅夜が誑かされた場所へと向かってもらったのだ。

 そして結果、杏嘉の表情には強張った空気が包まれていた。近い内、オレへと報告が来るだろう。今は一先ずの休息をさせておくが、すぐに忙しくなるだろう。

 

 「クク……いや、忙しくはならないか。で戦えば忙しくなるが、で戦えば深く考える必要は無いんだ」


 そうだ。奴らはこちら側へ来る事が出来るのは、人間が寝静まる深夜だけだ。あるいは、その場所に憎悪という感情に包まれた時に限る。奴らの侵攻を留めている間、戦力を整える必要がある。

 そう思ったオレは、袖の中から携帯を取り出してある人物へと連絡を取り次いだ。


 ――プルル……プルル……ガチャ。


 『もしもし、相模さがみだ』

 「オレだ」

 『オレオレ詐欺なら、他を当たってくれ。今は忙しい』

 「お前の退屈に付き合う義理は無いぞ、相模」

 『……はぁ、相変わらずノリが悪いなぁお前。久し振りだってのに挨拶も無しか?薄情者が』

 「誰が薄情者だ。先月の捜査に協力し、犯人を逮捕出来たのは誰のおかげだ?あぁ?そういえばあの件の謝礼金がまだ振り込まれてないが、これは直接そっちに乗り込んだ方が良いか?」

 『俺が悪かった。物騒な冗談は止してくれ』

 

 電話の相手の名は相模、職業は探偵である。都内の警察署からの依頼を受け、密かに行動をする隠密行動を得意とする諜報員のような存在だ。

 だが性格は大雑把で、依頼には多くの文句を言う事がある。しかし、仕事振りには目を見張る物がある事で、オレ自身は結構当てにしている部分もあって意外に役に立つ男だと思っている。


 『――それで?お前さんが電話してくるってこたぁ、何か用事なんだろ?』

 「あぁ、お前じゃなきゃ出来ない事だ」

 『ったく、こっちも暇じゃねぇんだがなぁ』

 「そうか。なら先月の請求をお前の実家に送っておくとしよう。源十郎げんじゅうろうの小うるさい説教の餌食が好みなんだろ?」

 『あぁ、あぁ、分かった。親父に言うとか洒落にならねぇから!』

 「なら仕事の話だ。――過去の餓鬼の出現場所を教えろ」

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