第48話

 ――村に滞在して三日目。

 

 ハヤテと烏丸が森の奥へと向かってから、オレと刹那は少女の事を監視・保護する為に廃寺の中と外で待機していた。

 村の住人も数人が外に出ていて、少し遠くにある村の中で松明たいまつの灯りが見える。その数個の灯りを眺めながら、廃寺の中に居る刹那と少女に焔は声を掛けた。


 「……刹那。周囲を警戒しておけ」

 「畏まりました。……この子はどう致しますか?」

 「どう、とは?」

 「戦力として考えますか?それとも引き続き保護対象でしょうか?」

 「後者だ。現状、妖力が安定してない奴を当てにするつもりは無い。まぁ、本人の意志は尊重するが……おそらく無駄だろう」

 「……?」


 焔は少し間を空けてそう言った。その間に疑問を抱いた刹那だったが、寝息を立てる少女の髪を撫でる。短い期間とはいえ、食事を取ったおかげなのだろう。衰弱していた様子から、随分と顔色が変わっている。


 「村の奴らの話では、数年前に現れたという巨大な獣は山へ逃げた。しかし数年に一度のペースでこの村に現れ、その獣は建物を破壊して去って行くらしい」

 「建物?……人的被害は出ていないのですか?」

 「建物破壊時にあらがった村の住人が居たらしいが、数人喰われたと言っていたな。だがそれ以上は被害は出ていないって話だ」

 「……それは奇妙な話ですね。どんなに知能の高い獣妖怪だとしても、所詮は獣です。本能のおもむくままに行動しているとは到底思えない程、その獣は理性的なのですね」

 「どうだろうな。……案外、かもしれないぞ?」

 「はい?……それはどういう……――」


 ――カンカンカンカン……ッッ!!


 焔と刹那が交わした会話を遮るようにして、村の方向から手動の鐘が鳴り響く。奇襲を受けた時に使用する警報で、村全体に危険を知らせる為の手段である。

 その警報が鳴り響いた瞬間、寝息を立てていた少女は刹那の膝の上から勢い良く起き上がった。キョロキョロと周囲の何かを確認する素振りを見せた後、少女は焔を見つけると縋るような表情を浮かべて言った。


 「――お、お願い!皆を止めてっ!」

 「突然どうしたんだ?」

 「早くしないと、村の皆が死んじゃうっ!」

 「……(やはり、何か知ってるのか)」


 そう思った瞬間だった。オレの目の前にハヤテと烏丸が現れ、微かに負傷しながらも報告をしに来た。内容は、すぐに視界の中に姿を現した。


 「報告っス。見つけましたっスよ、アニキ!」

 『――――――!!』

 「あれがオレの探してた奴で、この村の衰弱原因か」

 「はいっス。名前は分からないっスけど、あの見た目は白虎びゃっこ!獣妖怪最強の妖怪っス」


 白い身体に一定の間隔で引かれたような黒い模様。村に向かって走るその獣は、とても力強く咆哮ほうこうを響かせる。まるで何かを怒っているかのように。

 そんな様子を眺めていた焔の隣で、服を掴んでいた少女は小さい声で呟いた。


 「……行かないと」

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