第38話

 『焔様……』

 「烏丸からすまか。どうした?」


 襖越しにシルエットが見えた瞬間、そのシルエットが誰なのかを理解した焔。寝息を立てている茜を眺めつつ、背後で跪いている者へと問い掛ける。


 『焔様にご報告が御座います』

 「聞こう」

 『ハヤテ様のご活躍により、魅夜様の沈静化に成功。周囲に居た人間含め、我々には怪我人は一人も出ておりません』

 「そうか。魅夜の様子はどうだ?」

 『魅夜様は現在、気を失って眠っております。ですが……』

 「また暴れる可能性がある、か?」

 『はい。可能性の話ではありますが、沈静化はあくまで一時的。起きてすぐに暴れるという可能性も否定する事は出来ません』


 烏丸は襖越しにもかかわらず、凛々しく透き通っている事で女性だと理解が出来る。焔は目を細めながら、烏丸の言葉に耳を傾けた。

 彼女の言う通り、沈静化した魅夜が再び暴走する可能性は高い。焔は顎に手を当てながら思考を働かせ、魅夜の暴走の原因について思案を巡らせる。


 「……(魅夜は決して弱くはない。だが、暴走するキッカケがあったのは確かだ。誰かに操られるという事は、魅夜の記憶と心に残っている物があったからだろう。あいつに落ち度は無い)」

 『焔様……?』

 「なんでもない。烏丸、幹部連中のみをこの場に招集してくれ」

 『幹部のみを、で御座いますか』

 「あぁ……ハヤテの事だ。それ相応の情報を持ってくる可能性もある。幹部連中にも共有した方が良いだろう」

 『畏まりました。この烏丸、謹んでお受けいたします』


 翼を羽ばたく音が聞こえ、徐々に遠くなるのを確認する。焔の指示通り、烏丸は鬼組の幹部を呼びに行った。それを理解した焔は、目の前で寝返りをする茜に視線を向ける。

 寝顔と手が焔の方へと向き、布団の中から少しはみ出ている。溜息混じりに布団の中へと茜を戻しながら、口角を上げて彼女の髪に焔は触れた。


 「……――、怖い思いをさせてしまったな。茜」

 「すぅ……すぅ……」

 「茜。――オレを許さないでくれ」

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