第19話

 部屋に戻ったオレは、薄暗い四角い部屋の様子を見つめた。何も変化は無いし、誰かが無断で入ったという形跡も無い。畳の香りを感じながら、オレは部屋の中心で胡坐で座って目を閉じた。


 「……」


 目を閉じてから数秒後、オレの周囲でバチバチと火花が散る音が聞こえた。そのまま待機していると、うねうねと周囲を徘徊してから火花は一つの束となった。

 オレが目を開けた頃には、火花は炎となり、蛇のような姿と変わっている。


 『……』

 「おいで」


 オレが小さくそう告げると、炎の蛇は差し伸べた腕に絡み付いた。やがてオレの首へ移動し、巻き付きながらオレの頬に擦り寄って来た。まるでペットが甘えるように。


 「……今は安らかに眠ると良い。また次が来る」

 『……』

 

 そう告げた瞬間、炎の蛇はオレの前から姿を消した。再び周囲が薄暗くなり、オレは部屋の端にある机の前で座った。餓鬼の情報を纏める為だ。

 餓鬼の出現頻度はそれ程に頻繁ではない。だがしかし、明らかに人間を喰らおうとしたのは間違いないだろう。これまで出現した餓鬼は人語を話す者は居なかったが、今回の餓鬼は人語を話していた。

 そして明確に人間である『由良茜』を喰らおうとしていた。数年間の間に餓鬼は出現していても、今まではお世辞にも強者と呼べる存在では無かった。今回も決して強くは無い。


 「……そろそろ本格的に動いた方が良さそうだな。奴らが動く前に」


 オレは一人でそう呟き、机の上で広げていた書記を閉じた。常に敷かれている布団へと身体を入れ、静かに瞳を閉じて眠りの世界へと誘われる。流石に連続して力を使った所為で、微かな疲労感も溜まっていたらしい。


 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ………。


 焔が仮眠を取っている頃、会合の途中で部屋へ戻った茜は考えていた。疲労感が溜まっているのに眠れず、先程までの光景を思い出して考え込んでいたのだ。

 焔という少年を含め、あの場に居た者たちはでは無かった。普通ではないというのは、という意味である。


 「あの人とか人間に見えたけど、少なくてもよね?」


 茜の疑問も無理も無い。何故なら、焔の前に居た者たちの容姿は人間に似ている者も居れば、人間ではないと分かる程の容姿の者の姿もあったのだ。一つ目、鴉天狗、ろくろ首、人狼……様々な姿をした者たちが居れば、普通ではないと嫌でも理解出来るだろう。


 「あの人は、どういう人なんだろう。初めて会う気がしなかったなぁ……何だか、懐かしい感じ、で…………すぅ」


 寝転がった茜はそう思考を働かせたが、やがて睡魔に負けて目を閉じた。寝息を立て始める茜を監視しながら、少女は溜息を吐いて呟くのである。


 「由良茜。……ボクはお前を信用しない。だって

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