第15話

 「……着いて来て」


 着替えが終わった茜を待っていた少女は、平坦な口調で廊下を進んで行く。木造建築なのか古い家なのか、年季を感じざるを得ない雰囲気が伝わっている。 

 茜は庭が見える廊下を進みながら、少女の後を着いて行く。薄暗くて分からなかったが、茜よりも身長は低く髪も短い。見た目がボーイッシュだが、その体型や微かに見える肌はとても艶やかなのが分かる。


 「(綺麗な子。……こういう子が将来美人になるんだろうなぁ)」

 「……」


 少女の見た目から将来を想像する茜。そんな茜の様子を後ろを見ずに背後へ注意を向け、警戒をしている様子だった。


 「(こんな人間を護るなんて、焔はどうかしてる)」


 そう思考を働かせていた少女だったが、やがて目的地に到着したのだろう。廊下が途切れた場所で足を止め、ふすまの前で正座をして口を開いた。そんな少女から緊張感が伝わったのか、茜は生唾を飲み込んで襖の向こう側へ意識を向けた。


 「――、例の者を連れて来ました。入っても宜しいでしょうか?」

 『……あぁ、構わない。丁度、話が終わった所だ』

 「畏まりました。……さぁ、入って」


 正座をしたまま襖を少し開けた少女は、隣に居た茜へと視線を向けてそう言った。腕を伸ばして「自分で入って」と言うように促した。

 茜はコクっと小さく頷き、緊張気味のまま襖をゆっくりと開けた。その瞬間、茜は目を疑う事となった。何故なら、その襖の入り口からは想像も出来ない程に中は広く、まるで別の時代へとタイムスリップしたのかと錯覚してしまう程に人影が並んでいた。

 そしてその奥には、頬杖をしながら胡坐で座っている黒い髪の少年の姿があった。そして並んでいる人影は、その少年を中心にしているようにして列を作って座っていた。まるで仁侠映画のワンシーンを見ているようだと茜は感じた。


 『ほぉ。ただの人間ではないか』

 『あの者を助けたのか、若は』

 『ふむ、人間にしては良い顔立ちをしているのう』


 反応は様々だったが、その場に居る殆どの者が茜を見て呟いた。そんな呟きを気にする余裕も無く、真後ろに居た少女から声を掛けられるのであった。


 「さっさと入って」

 「……は、はい」


 茜は緊張気味のまま、冷や汗を頬に伝いながら襖の奥へと足を踏み入れた。これが彼女にとって、これからの人生に大きく左右される分岐点とも知らずに。

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