焔鬼 ~Enki~

三城 谷

第一夜「炎を纏う少年」

第1話

 「はぁ、はぁ、はぁ……っ」

 『ヌオオオオオオオオオオ――――!!』


 誰もが寝静まった真夜中。肩で息をしながら大樹に背中を預け、片手に持った剣を抜かずに握り締める人影があった。その人影が身を潜めてから数秒後、森の奥から鋭い眼光の双眸が現れる。

 額には角が生え、豪腕と呼べる程の二本の腕を振るって大樹を薙ぎ倒した。力の限りで折られてしまった大樹はミシミシと悲鳴を上げ、やがて砂埃を撒き散らして人影の目の前で倒される。


 『ヌオオオオオオッッ――――!!!!!』

 「月が昇り切る。……時間だ」


 人影は小さくそう呟くと、散り散りになった砂埃を払った。そして角の生えたそれの前に姿を現し、月の光を浴びながらゆっくりと剣を鞘から抜いた。

 

 「待たせたな、餓鬼ガキ。テメェを斬らせてもらう」

 『ヌアアアアアアアアッッ―――――!!!』

 

 雄叫びを上げながら、豪腕な腕を振るって人影を捕まえようとする。だが人影はそれの前から姿を消し、一瞬で頭上へと飛び跳ねていた事を示した。

 そしてそれの眼前で剣を構え、横一直線に薙ぎ払おうと身を捻る。


 「騒ぐな、うるせぇ」


 やがて躊躇いも無く振るわれた横斬りは、それの首を足元に落とした。音も無く、ゆっくりとそれの後ろで剣を鞘へと戻した。すると、まるで肉体から首が離れた事を自覚するのが遅れたようにして、溢れんばかりの血飛沫が人影を覆い尽くしたのであった。


 「オレの町で、好き勝手に暴れるんじゃねぇ」


 そう言い残して――人影は姿を消した。

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