第27話 8/29 呼び方

 彼女と出会って二十九日目。着々と別れのときが近づいてくる。意識しまいと期限のことを頭の隅に追いやろうとするが、上手くいかず、逆に強く意識してしまう。逆効果だった。


 昨日は二人で映画を観にいった。僕の部屋で観たことはあったが、映画館で観るのは初めてだった。切ない恋愛映画を観たが、どうしてそのジャンルをチョイスをしてしまったのか、今になって悔やまれる。その映画では病気のヒロインが最後は亡くなってしまい、彼氏と別れることになってしまうものだった。別れ方は違うが、僕たちも似たような感じだ。

 観終わった後、栞は、「秋太くんはあんな感じで号泣しないでね。私を笑顔で見送ってね」と言った。自信はなかったけれど、頷くしかなかった。


 別れを経験したことがなかった僕でも、こんなにも好きになってしまった彼女と別れることが辛いことくらいもうわかっている。ただその程度がどれくらいのものなのかはまだわからない。僕がどれだけ引きずるかも定かではない。でも、そんな一週間やそこらで立ち直りたくはないな、と思う。もっと時間をかけて、何ヶ月、何年もかけて、彼女との別れを乗り越えたい。


「秋太!」


 僕の部屋でトランプをしているとき、栞が言った。

 普段と違う呼ばれ方をして、少し戸惑う。


「どうしたの、急に」

「昨日の映画観て、なんかいいなーって思ったの。ダメ?」


 映画で出てきた二人は、互いのことを呼び捨てで呼んでいた。それに感化されたのだろう。


「全然。むしろ、そっちの方が嬉しい」

「やったー。これから、秋太って呼ぶね」


 新しい呼び方にこれから先慣れることはない。そのことに寂しさを覚えながら、二十九日目が終了した。

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