02 王子との出会い



 夜の闇の中、忍び足で移動していたアメリアは、一息ついた。

 アメリアが移動していたのは、国の要所中の要所、城の屋根上だったからだ。


 緊張に次ぐ緊張に、アメリアは呼吸を忘れていた。

 眼下、城の敷地には、行きかう警備が数名。


 職務に忠実なだけでなく、己の想定以外の出来事にも柔軟である彼らは、時折り建物の外壁や屋根などにも目を向けている。


 そのため、アメリアはかなり疲労していた。


 しかし、彼等の死角となる場所を見つけたため、ようやく体を休ませる事ができたのだった。


 一呼吸ついたアメリアは、手短な場所へともぐりこむ。


 忍び込んだ部屋の中を見渡す。

 そこは、やんごとなき人々が暮らす部屋なのだろう。


 豪華でみやびやかな調度品が、これみよがしに並んでいた。


 しかし、かといって下品ではない。

 調和が保たれていて程良い品を演出している空間だった。


 そんな部屋に一歩踏み込んだとたん、鋭い男性の声が耳をうった。


「誰だ!」


 声がした方へ反射的に視線を向け、己の武器である短剣を構える。


 しかし、声の主へよく目を凝らそうとした瞬間。

 部屋の中が明るくなった。


 暗闇に慣れた目に、急激な光の刺激。

 視界が白くそまり、世界を認識できなくなる。


 目に頼るのは危険と判断したアメリアは、自ら目をつむり視界からの情報をシャットアウト。


 相手の気配を探るのだが、なぜか声をあげた男性は近づいてこなかった。


 いぶかしく思う間に、部屋の明度に目がなれてしまう。


 警戒しながらゆっくりと瞼を開いたアメリアは、目の前にいる男性の姿をようやくはっきりと見た。


 部屋の照明からこぼれる光をキラキラとはじく、金色の髪。

 透明度の高い海の色を思わせる、透き通った青の瞳。


 幼さを残す顔つきは整っていて、恋愛小説に出てくる王子様そのものといった相貌だった。


 その男性の事を、アメリアは知っている。


「クラン?」


 彼の名前はクランベルン・ディ・マナトリアス。

 この国では知らない者などいない人間。


「お前、王子だったのかよ」


 そして、アメリアが世話になっている施設……孤児院によく遊びに来る男性だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る