第4話 だれが王都にいくべきか
ヘンリーはあのあとパトリックとともにしばらくのあいだアマンダをなぶり続けた。
『ほら、ヘンリー。アマンダを好きにしていいぞ』
ある程度のところで満足したのか、パトリックはベッドを下り、少し離れた場所からふたりの行為を眺めていた。
何人もの男にアマンダを抱かせ、魅了し、動かしてきた。
こうやって自分の女が犯される姿を見るのも、彼は好きだった。
「ぐぅ……あああっ……!」
一方のヘンリーは、アマンダとの行為にふけりながらうめき声を上げていた。
そうしてしばらく続いた行為も、ようやく終わりを迎えた。
「はぁ……はぁ……すごく、よかったわよ、坊や……」
「ア……ア……」
行為の終了とともにだらしなく表情を緩めたヘンリーは、快楽に溺れながら力ない声を漏らし続ける。
「さぁ、坊や……。旦那さまの言うことを、ちゃんと聞くのよ」
「うう……」
うめくヘンリーの
「ヘンリーよ。何度も言っているが、今度こそ父の罪を認めよ。そしてお前が家督を継ぐのだ」
「でも……父上が……叛乱など……」
「はぁ……まだそんなことを言っているのか」
反論するヘンリーに、パトリックはわざとらしくため息をついた。
「いいかヘンリー、事実はこの際どうでもいい。問題はすでに疑いをかけられ、王がその疑いを事実ではないかと考えていることなのだ」
『王』という言葉が出たとき、一瞬だがパトリックとアマンダの視線が交錯し、ふたりの口元にかすかな笑みが浮かんだ。
しかし、いまのヘンリーではその小さな変化に気づけなかった。
「もし王がウィリアムを断罪するとなれば、サリス家は取り潰しになるのだぞ? そうなる前にお前が父の罪を認めれば、少なくともサリス家だけは存続させ、忠義に厚いお前が家督を継げるよう私が口添えしてやる」
「僕が……家督を……でも……」
「いいかヘンリー。お家が取り潰しになるということは、サリス家に連なる者も罪人として罰を受けるということなのだぞ?」
「罰を……?」
「お前ひとりくらいは私がなんとかしてやれるかもしれんが、ほかの家族はどうなる? お前の大好きな姉は? アラーナも首を落とされかねんぞ?」
「ねえ、さま……? うぅ……ダメだ……ねえさまも、助けて……」
アラーナの名を聞いた瞬間、ヘンリーの態度が変わった。
それと同時に、アマンダはニタリと笑い、パトリックに笑いかける。
パトリックは彼女を見て大きく
「ほら、坊や……そんなに怖がらなくてもいいわよ。すべて旦那さまに任せておけば、うまくいくんだから」
「ふぁ……ぁ……」
少しうつむき加減に嘆いていたヘンリーが、顔を上げて恍惚とした表情を浮かべる。
それと同時に、彼の身体がピクンピクンと震え始めた。
「うふふ……いやなことはぜーんぶ出しちゃいなさい」
「そうだ。お前とアラーナを助けられるのは私だけだ。だがこのままだとアラーナの命は救えても、奴隷落ちは避けられまい」
「奴隷……ねえさまが……? いやだ……そんなの……」
「いいのかヘンリー。アラーナがどこぞのヒヒじじいに買われ、夜ごとに犯されるやもしれんぞ?」
「ううう……ねえさまが……犯され……いや……だぁー……!」
「私ならアラーナを救えるぞ? お前が父の罪を認め、家督を継ぐというのなら、家族に
「ねえさまを……助ける……!」
「そうだ、アラーナを助けてやるのだ! だがそのためにはお前の決断が必要だ! お前の意志が、姉を救うのだ!!」
「僕が、ねえさまを……」
ヘンリの目に、狂気が宿る。
「助けるんだぁー!」
叫び声とともに、彼は感情のすべてをアマンダにぶつけた。
「ねえさん……助け……」
すべてを出し尽くしたヘンリーは膣内へ身体をガクガクと揺らしながらぼんやりとした表情で呟く。
「もう一度言うぞ、ヘンリー。父の罪を認めるのだ。そして、お前が家督を継げ」
「うぁ……ぁぃ……」
「そうだな……アラーナをこの地に呼び出すというのもいいかもしれん」
「ねえさま……を……?」
「そうだ。先んじてアラーナを保護しておこう」
「ねえさま……たすけ……」
「ああ。私がお前の姉をかくまっておいてやる。この屋敷に、アラーナを……そして彼女を私の手に……」
「にい……さま……?」
ふとパトリックの顔に浮かんだ
「おっと、勘違いするなよヘンリー。私の手で、彼女を護ってやろうという話だからな」
その言葉にヘンリーは、少し安心したようにうなずいた。
「ただし、セレスタンとオルタンス、それにフランソワは間違っても呼ぶなよ。彼らには領主代行すらいなくなった辺境の監督をしてもらわなくてはならないからな」
「わかり……ました……」
そう言い言い終えたところで、ヘンリーの身体から一気に力が抜けた。
「あら……よしよし……」
アマンダは倒れそうになったヘンリーへ振り向くと、彼を優しく胸に抱いた。
「うう……すぅ……すぅ……」
やがて、ヘンリーはアマンダの胸に抱かれて寝息を立て始める。
「ふふ……いい子ね」
その様子を見て、パトリックはため息を漏らした。
「今度こそ、大丈夫なのだろうな?」
「ええ……、もちろんよ……」
そう言ったアマンダだったが、言葉にはあまり力がなかった。
○●○●
王都の状況はある程度共有できた。
となれば、次はどう動くか、という話になる。
「もちろん、私はいくわよ?」
最初に声を上げたのは、ウィリアムの妻、オルタンスだった。
「気に食わんやつではあるが、あれでも
そう言って、セレスタンも立ち上がる。
「お待ちなさい」
そこへ、新たな人物が乱入した。
セレスタンの妻にしてオルタンスの母、そしてアラーナの祖母でもあるフランソワだった。
「お母さま?」
「む、フラン……」
娘は首を傾げ、夫は少し苦い表情を浮かべる。
そんなふたりのもとへ、フランソワは優雅な足取りで歩み寄った。
「あなたたちふたりがここを離れたら、町の運営はどうなるのです?」
柔らかでありながら、どこか鋭さのある声で、フランソワは夫と娘に尋ねた。
「それは……アラーナがいれば――」
「待ってください母上! 父上の危機に町でのうのうと過ごすなど、孝にもとる行為ではありませんか!!」
苦し紛れに出たオルタンスの案に、アラーナは異を唱えた。
セレスタンはどこか諦めたようにため息をつき、椅子に座り直している。
フランソワはそんな夫の姿に薄く微笑んだあと、表情をあらため、娘を見据えた。
「うぅ……」
母に見つめられたオルタンスは、居心地の悪そうな表情を浮かべ、視線から逃れるように顔を逸らした。
続けてフランソワは、孫に視線を移す。
「いまは、アラーナが領主代行でしたね?」
「はい、お
「ならばあなたが決めなさい」
祖母の言葉に、アラーナの表情が少し硬くなる。
「アラーナたちが王都へいくというのなら、ギルドマスターのふたりはこの町で留守番です。ふたりがいくというなら、アラーナが残りなさい」
そこでフランソワは、セレスタンとオルタンスを一瞥し、すぐに視線を戻した。
「ふたりがいくというなら、もちろんわたくしも同行します」
そう言った瞬間、アラーナの顔が軽く引きつったように見えた。
「よくお考えなさい。わたくしたちが王都にいくということがどういう――」
「――いきます!! 私どもがいきますから、お祖母さま方は留守番をお願いします!!」
アラーナが祖母の言葉を遮るようにそう言うと、セレスタンは鼻を鳴らしてそっぽを向き、オルタンスはため息をついた。
そこへ、執事のヴィスタが進み出てくる。
「わ、私からもお願い申し上げます。セレスタン様、フランソワ様、そしてオルタンス様。ご心配とは存じますが、メイルグラードにて旦那さまのお帰りをお待ちくださいませ……!」
そう言って頭を下げるヴィスタの肩が、小刻みに震えていた。
陽一と実里、シーハンは、意味がわからないながらも、その状況を見守っていた。
「ふっ……」
そんななか、ふと鼻息のようなものが聞こえた。
陽一がそちらに目を向けると、花梨が
「ふふ……」
張り詰めた空気が漂うなか、フランソワが笑みを漏らし、場が少し緩む。
「わかりました、わたくしたちは町に残ります。あなたたちも、それでよろしいですね?」
「……まぁ、いいだろう」
「はぁい……、仕方ないわね」
セレスタンとオルタンスの答えに、アラーナとヴィスタはほっと胸を撫で下ろした。
「アラーナ、パパのことお願いね」
「ええ、おまかせください、母上」
娘の答えに、オルタンスはにっこりと微笑んだ。
「時間がかかるようなら、いつでもお手伝いにいくからね? うふふ……」
明るい表情のまま放たれた言葉に、アラーナとヴィスタの表情が再び凍りつく。
「お、お嬢さま! すぐに準備を整えましょう!!」
「あ、ああ、そうだな! ヨーイチ殿! それにほかのみんなもなにをしている!? さっさといくぞ!!」
「え? あ……お、おう……」
慌てた様子で部屋を出ていく領主代行と執事に、陽一らも慌ててついていくのだった。
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