第6話 安全で安心な街

「じゃあ、あとはアラーナに任せて大丈夫?」

「ああ。昼にはここに戻っておくようにしよう」

「うふふ、お世話になるわね、アラーナ」

「ごめんなさい、面倒かけて……」

「なんの。あちらではどうせ私が面倒をかけることになるのだ。気にするな」


 翌朝、陽一はみんなを連れて『辺境のふるさと』に来ていた。

 午前中は別行動ということで、女性たち3人は認識阻害の魔道具の調達と、花梨と実里ふたりの冒険者ギルド登録を済ませることにし、陽一は元の世界に戻ってパスポートの提示を求められない宿を探すこととなった。


「じゃあお昼には迎えにくるから」


 そう言い残して陽一はカジノホテルに【帰還】し、そのまま町中に繰り出した。


「おう、朝なのになんか薄暗い気がする……」


 陽一は町の裏通りを歩いていた。

 【鑑定+】を使ってパスポートの提示を求められないホテルを探したのだが、このご時世この町でそのような営業をしているホテルというのは、まぁそれなりの場所にしかないのである。


 この町は、じつのところこの国で最も治安がいいのではないかといわれている。


『メインストリートなんかは、この国で唯一“女性が夜ひとりで歩ける通り”といわれてるからね』


 とは花梨の言葉である。


 しかし有名カジノが並ぶメインストリートを外れるほどに、どんどん治安が悪くなっていくのはいうまでもないことであった。


「おいにーちゃん、とりあえず金出しな」


 なので、午前中の爽やかな時間帯であるにもかかわらず、こうやってろくでもない事態に巻き込まれるのも、仕方のないことのなのかもしれない。


「日本人か? 観光客か? とにかくこんなとこに来ちゃいけねぇよ」


 と、3人組の男が陽一の行く手を遮るように半包囲するのだった。

 うちふたりはナイフを手に、ひとりは拳銃を手にしていた。


 【鑑定+】を使えばある程度の危険は回避できるのだが、とにかくここはが多すぎた。

 90年代のシンボルエンカウント式RPGよろしく、すべてをかわして目的地に到着するのは困難だったので、比較的楽な相手を選んで遭遇したといったところだ。


「とりあえず授業料で金とパスポートな」

「あと、ケツもな」

「おう、日本人のケツは柔らかくて締まりがいいからなぁ」


 男たちはそれぞれ手にしたナイフや拳銃をもてあそびながら、好き放題しゃべっていた。


「ってか、おめぇ英語わかる?」

「お前らよりはな」

「あぁ!? なんだおめぇ、なめてんのか?」

「いや、お前らこそなめてんのか?」

「んだとコラァ!!」


 このあたりの反応は日本のチンピラと変わらんなぁ、などと呆れながら、陽一は【無限収納+】からロシア製の突撃銃を取り出して構えた。


「そんなちんけな装備で俺に勝てるとでも?」


 せっかくなので米軍御用達の突撃銃でもよかったのだが、こういう連中にはわかりやすいものを見せてやったほうがいいだろう。

 わかりやすさという点では、このロシア製の突撃銃は一見して“ヤバさ”が伝わる素敵な銃である。


「うわぁっ!」

「い、いつのまに……?」

「ば、ばか言ってんじゃねぇ……。モデルガンに決まってらぁ」


 陽一は3人から狙いを外して引き金を引いた。

 ダダダッ!! と野太い銃声とともに放たれた3発の弾丸は、50メートルほど先にあるブロック塀を無慈悲にえぐった。


「ほ、ほんもの……?」

「ひ、ひいぃっ……」

「あわわ……」


 陽一が再び3人に銃口を向けると、彼らは一斉に武器を捨て、特に指示されたわけでもないのに手を頭のうしろに回した。


「か、かかか勘弁してくれぇ、命だけは……」

「悪かったっ! 俺たちが悪かったよぉっ!!」

「たのむっ……、ケツならいくらでも出すから、それで勘弁してくれぇ!!」

「はぁ……」


 認識阻害の魔道具を買ってから訪れるべきだったかと少し反省しつつ、陽一は盛大にため息をついた。


「とりあえずうしろ向け」

「「「はいーっ!!」」」


 慌てて回れ右をした3人のうち、拳銃を持っていた真ん中の男の背中に銃口を当てる。


「ひぃっ……」

「なぁ、このまま背中にぶっ放されたらどうなると思う?」

「へ……? じょ、冗談、ですよねぇ……?」


 男の言葉を聞き流し、陽一は淡々と続けた。


「いいか、放たれた銃弾は濡れた指でオブラートに触れるようにお前の皮膚を簡単に破り、その奥の筋肉もやすやすと引き裂いていくんだよ」

「あ……やめ……」

「そして背骨を粉々に砕いたあと、内臓をかき回しながら進んでいく銃弾は、裏側から腹筋を引き裂いて、最後に腹の皮膚をぶち破るわけだ」

「ごめんなさい……ゆるして……」

「知ってるか? コイツは射入口より射出口のほうが傷が大きくなるんだぜ? 破れた腹からは盛大に内臓がまき散らされるんだろうなぁ」

「もう悪いことしません……真面目に生きますから……」

「致命傷だが即死にはならんだろうから、しばらくは内臓まき散らしながらのたうち回るんだろうなぁ」

「お尻好きにしていいからもう許してぇ……」

「気持ち悪いこと言うなよ……。さて、コイツの有効射程は600メートルくらいだそうだ。ま、当たれば1キロ先でもヤバいけど」


 もう3人の男たちは例外なく失禁し、涙と鼻水で顔はボロボロである。


「10秒やる、走れ」

「へ、む、むり――」

「よーい、ドンッ!!」

「「「ぴゃあぁー」」」


 3人の男は情けない悲鳴を上げながら、陽一から離れるように走り出した。

 そして10秒経つか経たないかのところで、角を曲がって姿を消した。


「お、意外と賢いな」


 とはいえすでに陽一には最初から追撃の意志はなく、突撃銃を収納しているのだが。

 男たちが落としたナイフと拳銃も収納し、陽一は再び歩き出した。


「これでちょっとは歩きやすくなったかな?」


 このあたりをテリトリーにしているのは小悪党ばかりである。

 なので、先ほどの様子を見ていた者は多数いたのだが、彼らは陽一と一切関わらないことに決めたようだ。

 通報もしないし、上にも報告しない。

 ただ、近所の連中には“ヤバい日本人がいるから関わるな”くらいの情報は回してやるか、といったところか。

 というわけで、その後はとくに何事もなく陽一は目当てのモーテルにたどり着くことができた。


「うーん、小汚い」


 とりあえず寝具や調度品など、収納できる物はすべて収納し、【無限収納+】のメンテナンス機能を使って分子レベルで汚れを分離したところ、雰囲気はそこそこよくなった。


「あとは、ホームポイントか」


 【帰還+】のホームポイント変更は1ヵ所につき24時間に一度という制約がある。

 ホームポイントは全部で5ヵ所設定でき、『グランコート2503』と『辺境のふるさと』は極力変更しないようにしている。

 残り3つのホームポイントを適宜変更してやりくりしていた陽一だが、昨日設定したカジノホテルに関してはまだ変更できない状態だった。


「どっちにせよ昨日のホテルはそのままで……、南の町はもういいかな」


 陽一はこの安モーテルをホームポイントに設定したあと、一度カジノホテルに戻り、ギリギリ朝食ビュッフェに間に合う時間だったので、レストランで遅めの朝食を取ることにした。


「お、エッグベネディクトって結構いけるな」


 ひととおりメニューをさらって朝食を終えた陽一は、部屋に戻ったあと『辺境のふるさと』に【帰還】した。


「みんなは、まだか……」


 そのまま安宿の固いベッドに寝転がった陽一は、アラーナと花梨、実里の3人が帰ってくるまでひと休みすることにした。


――――――――――

おかげさまでコミック1巻が無事発売されました!

もう全国の書店に行き渡っているかと思いますので、お見かけの際は手に取ってくださいませ。

また、電子書籍版にはポンコツ駄女神こと管理者視点でコミックス1巻の舞台裏を描く書き下ろし小説を掲載しています。

原作で明かされていない設定などもチラ見せしてますので、そちらも合わせてよろしくお願いします。

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