第5話 姫騎士を保護
女性、すなわち姫騎士の息は荒く目は虚ろだったが、それでも表情は緊張しているようだった。
(や、やばい……。なんだよこの……)
陽一は申し訳ないと思いながらも、女性の肢体から目を離せなかった。
肩と首周りは装甲に覆われているものの、胸甲は外されて脇に置かれ、その下に着ていたワンピースは開かれている。
ワンピースの下に着ていた黒いインナーは無残に切り裂かれ、そのせいで本来隠れているはずの双丘が露わになっているのだが、驚くべきはその大きさであろう。
(F……、いやG……。待てよ、仰向けでこの膨らみは……もしかするとH超えの逸材か!?)
仰向けであるにもかかわらずその膨らみは大きく、そして素晴らしい形を保っていた。
(たしか、あのゲンベルって奴が媚薬を塗ったんだったか)
姫騎士本人は【鑑定】していないが、ほかの男の行動から彼女の状態をある程度推察するのは可能だ。
強力な媚薬を塗られた彼女はいま、強い催淫状態にある可能性が高い。
姫騎士の目は虚ろで、顔は上気し、荒い呼吸のせいで胸が大きく上下している。
(いかんいかん……!!)
陽一は
おそらくあと1秒でも彼女の身体を見てしまっては誘惑に勝てないだろうと判断した陽一は、【無限収納+】からバスタオルを取り出して姫騎士にかけてやった。
「ひぃぅっ……!!」
タオルがこすれ、姫騎士は思わず声を漏らしてしまった。
「あの、大丈夫ですか?」
相手の思わぬ反応に、陽一は心配になって声をかける。
姫騎士のほうは陽一の行動から敵意はないことを悟ったのか、若干表情が緩んだ。
「ん……はぁ……はぁ……すまない……んぐぅっ……!!」
姫騎士はなんとか答えることができたが、それが精一杯だった。
(いや、全然大丈夫じゃないね、これ)
一応男たちの行動を確認していたので、あらかたの事情は察している。
一刻も早く対処する必要があると思い、申し訳ないと思いつつも眼の前にいる女性の状態のみを【鑑定】した。
状態:全身拘束/四肢麻痺/魔封/催淫/避妊
現在姫騎士は『全身拘束』により身体の自由を奪われ、さらに念入りにかけられた『四肢麻痺』によって手足の感覚を奪われ、『魔封』により魔法を封じられている。
(たしか、スクロールとかいったっけ? ゲームでもよくある魔導書みたいなもんかな)
実物を見たわけではないが、男たちがスクロールなるものを使ったことは【鑑定+】によって確認しており、そのスクロールが状態異常を引き起こしたことに間違いはないようである。
(えっと、対処方法は?)
『全身拘束』
時間経過、高位魔道士による『解呪』により解除可能。
(ふむふむ。『解呪』ってのは無理だから、待つしかないか。えっと、約20時間で解除されるんだな)
このあたりの情報も【鑑定+】を駆使すれば確認が可能である。
時間経過の残り時間は、彼女の状態や能力を加味したうえで算出されたものだ。
『四肢麻痺』
時間経過、高位魔道士による『解呪』により解除可能。
(こっちも同じかー。でもこっちはあと時間40~60時間もかかるんだな。えーっと40時間くらいから徐々に感覚が戻り始めて60時間ぐらいで全快ね)
『魔封』も同じ結果であり、解除までの残り時間は20時間程度だった。
『催淫』
インキュバスの媚薬を粘膜から吸収したことにより発症。時間経過による媚薬の分解および体外排出、もしくは『解毒』によって回復可能。
(インキュバスとはまたベタな……)
『インキュバスの媚薬』
インキュバスの体液を主成分に、錬金術で錬成し、作成された媚薬。女性に対してのみ強力な催淫効果がある。
(あと、『避妊』……か)
これはどうやら今回の件とは関係ないらしい。
女性でありながら鎧に身を包んでこのような場所にいるのだから、いろいろあるのだろう。
「なぁ……君……」
姫騎士が息を荒らげながらも陽一に声をかける。
「なんでしょ?」
「すまないが……私を、助けてはくれないだろうか?」
「まぁ、ここで見捨てるほど鬼畜じゃないんでご安心を」
「そう、か……。礼は、先払いで、いいか?」
「礼?」
「あぁ……私を、この場で、好きにしていい……」
「はぁ?」
絶世の、といっても過言ではない美人に、好きにしていいと言われて危うく理性が飛びそうになる陽一だったが、なんとか踏みとどまった。
「いやいや、とにかくいまは回復するまで待たないと」
「だめだ!! もう……我慢、できない……」
先ほどはまだキリッとした戦士のような表情だったが、助かったことがわかって緊張がほどけたのだろう。
彼女が陽一に向ける目は、男を求める女のそれだった。
「私では……不満かもしれないが……、頼む……」
「不満だなんてとんでもない!!」
常時であれば喜んで飛びかかるところだが、いまは異常時だ。
こういう状態で行為に及ぶと、必ずあとで後悔するに決まっている。
助けたお礼を身体で払うと言われて、無条件に突っぱねるつもりはないが、それでも支払いはあと払いのほうがいいに決まっている。
「お願いだ……、もう、おかしくなりそうなんだ……」
姫騎士の呼吸はさらに荒くなり、目は潤み、口からはよだれが垂れていた。
(うーん、とりあえず媚薬を洗い流そう)
陽一は【無限収納+】から携帯シャワーを取り出した。
適温のお湯で洗い流している最中はなかなか大変なことになったが、とりあえず姫騎士はほんの少しだけ落ち着いたように見えた。
(そうか、体外排出)
汗であれなんであれ、体外に媚薬を出してしまえば少しは楽になるようなので、陽一はスポーツドリンクを取り出して姫騎士に飲ませることにした。
ぐったりと仰向けに倒れている姫騎士の頭を抱え起こし、スポーツドリンクの飲み口を彼女の口に当てた。
「さ、飲んで」
虚ろに半目を開いた姫騎士はなんとか意識を保っているようで、陽一はペットボトルのスポーツドリンクを流し込んでやる。
口に含んだ瞬間、姫騎士は目を見開き、驚いたようだが、すぐにゴクゴクと飲み始めた。
もしかすると初めての味だったのかもしれない。
水分を摂取し媚薬の血中濃度が下がれば、もう少しマシになるはずだと、陽一は素人ながらに考えている。
姫騎士はびっしょりと汗をかいており、そのせいでのどが渇いていたのか、500ミリリットルボトル2本のスポーツドリンクを一気に飲み干した。
「さて、どうすっかな……」
できれば彼女を安全な場所で休ませてあげたい。
しかし、森の中でテントを張っても、魔物の脅威がある。
警戒に関しては陽一でもなんとかできそうだが、そうなると看病が
「あ!!」
名案を思いついたとばかりに声を上げた陽一は、近くに転がっていた姫騎士のものであろう鎧を【無限収納+】に収めたあと、彼女をお姫様抱っこの要領で抱え上げた。
ホームポイント4に現在地を登録した陽一は、姫騎士を抱え上げたまま【帰還+】を発動した。
「おっし!!」
陽一は腕に姫騎士を抱えた状態で、自宅マンションへと【帰還】することに成功したのだった。
姫騎士を抱えた陽一は靴のまま部屋へと上がり、寝室のベッドに姫騎士を横たえた。
「ここは……?」
まだ息の荒い姫騎士だったが、多少思考力は戻っているようだった。
「俺んち。あんま気にしないで」
姫騎士は少し戸惑ったような表情を見せたが、考えるのをやめたようだ。
「とりあえず、鎧脱がすよ?」
姫騎士が無言で頷くのを確認した陽一は装甲を外そうとしたのだが、外し方がわからなかった。
(このまま収納できねぇかな?)
そう思って念じると、触れていた装甲が【無限収納+】に収まった。
「お、便利」
思わずそう口にしながら、残りの装甲も収納していく。
検証の結果、他者の装備品に関しては10メートルという効果範囲であっても直接触れなければ収納できないことがわかった。
逆にいえば触れさえすれば武器だろうが防具だろうが、それこそ下着であっても自由に収納できるということだ。
切り裂かれていたインナーやワンピースもそのまま収納した。
(もはやイリュージョンだな)
自分のスキルの異常な効果に呆れつつ、陽一は【無限収納+】から大量のバスタオルを取り出した。
先ほどまでの格好もかなり卑猥だったが、全裸になったらなったで見事なプロポーションが明らかとなり、陽一は再び情欲と戦う羽目になった。
力なく横たわる姫騎士の肌には、玉のような汗が浮かび上がっている。
(こりゃ汗も拭いといたほうがいいかな)
陽一は【無限収納+】から新しいバスタオルを出すと、姫騎士の身体を拭いていった。
姫騎士はなにか言いたそうな表情だったが、特に文句を言うでもなくされるがままになっていた。
(ああ、こうやってたら
初めて実里と出会った夜、インフルエンザでダウンした実里にスポーツドリンクを飲ませ、身体を拭いてやったのを思い出す。
それで、陽一は少しだけ落ち着くことができた。
(にしても無茶苦茶いい身体してんなぁ……)
豪壮な鎧を着ていたわりには華奢な身体で、バランスよく筋肉はついているもののほどよく脂肪もまとっており、女性特有の柔らかさは失われていなかった。
実里のことを思い出したことでほんの少しだけ落ち着いていたのだが、姫騎士の魅力的な肢体や彼女の淫猥な反応によって、陽一の理性は再び失われつつある。
ひととおり彼女の身体を拭き終えた陽一は、再び全身に浮かび上がった汗を無視してタオルケットと少し厚手の布団をかぶせた。
「暑いかもしれないけど、汗いっぱいかいたほうが早く治まるから……たぶん」
姫騎士は陽一の言葉に無言で頷いた。
「ここは安全だから、気にせず休むといいよ」
「……ありがとう、すまない」
布団をかぶせ姫騎士の肢体を隠したことでギリギリのところで踏みとどまった陽一は、姫騎士にスポーツドリンクを飲ませた。
汗を始めとする体液を大量に分泌したせいでのどが渇いていたのだろう。
姫騎士は500ミリリットルのスポーツドリンクを2本、一気に飲み干した。
「ふぅ……。ほんとうに……、ありが……とう……」
姫騎士はわずかに微笑んだあと、力尽きるように意識を失い、すやすやと寝息を立て始めた。
その笑顔とそれに続く穏やかな寝顔に、陽一はドクンと鼓動が跳ねるのを感じた。
(お礼は、先払いって、言ってたよな……)
礼は先払いで、彼女の身体を好きにしていいという姫騎士の言葉を思い出す。
姫騎士は見れば見るほど美人だった。
そして布団の下に隠れている見事な肢体を思い出す。
(こんないい女が、してもいいと言ってくれているのに、それを無視するのは馬鹿なんじゃないだろうか?)
すでにタオルケットはかなりの汗を吸っている。
この調子でいけば、あと何回かは身体を拭いたり、タオル類を交換したりする必要があるだろう。
そのたびに露わになる姫騎士の肢体を前にして、陽一は理性を抑える自信がなかった。
(もう、限界……。申し訳ないけど1回だけ……!!)
陽一は姫騎士に向けてゆっくりと手を伸ばした。
――ピンポン
指先が彼女の身体に触れるかどうかというところで、ドアチャイムが鳴った。
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