第24話 そして異世界へ
ワンアイドベアーの死体を【無限収納+】に収めた陽一は、その後も森を歩きながら、各種銃を試しつつ狩りを続けた。
陽一としては2丁拳銃スタイルに憧れていたのだが、思いのほか使い勝手が悪く、結局のところ拳銃をメインにすることにした。
相手に合わせて38口径か44口径を持ち換えるのがいまの段階ではもっとも現実的なスタイルとなった。
威力だけを考えるなら45口径や50口径の拳銃、あるいは突撃銃を使うのがよさそうだが、いかんせん弾薬の確保が困難なのである。
弾薬の入手しやすさのみで考えるなら35口径がダントツなのだが、やはり威力の面で不安が残る。
結局のところ35口径の次に弾薬を入手しやすい38口径、なぜか意外と入手しやすい44口径の拳銃を使う以外に、いまのところ選択肢はない。
ちなみに44口径の弾のほとんどは、威力の大きいマグナム弾だった。
最初のうちは大口径銃の反動に四苦八苦していたが、小口径の銃から慣らしていくことで、半日経つ頃には片手で50口径の拳銃を撃てるようになった。
ちなみにこの50口径の拳銃は、素人が片手で撃つと手首や肩が外れるといわれるほど反動が強い。
それをわずか半日で片手撃ちできるようになったのは、ひとえに【健康体+】の効果といえるだろう。
少し気になったのは米国製の突撃銃が軍用だったことだろうか。
その突撃銃は軍用と市販用で仕様が異なり、フルオート機能がついているのは軍用のみということが【鑑定】の結果判明した。
当時最新式だった米国製の軍用兵器を、南の町の連中はいったいどこから手に入れたのだろうか?
(あんま知りたくねぇなぁ)
【鑑定+】を使えばそれぞれの入手ルートも確認できるのだが、陽一はあえて調べなかった。
その日から3日ほど続けて異世界へと足を運び、戦闘訓練を続けた。
拳銃のみで魔物を仕留めることにも随分慣れてきた。
普通なら困難だが、陽一の場合【鑑定+】があるので、行動の先読みと弱点を突くということで、射程の短さや威力の弱さをカバーできるのである。
中距離で突撃銃、長距離の場合は的に合わせてライフルを使い分けるという練習もしておいた。
まぁ対物ライフルや重機関銃を使う機会はほとんどないだろうが、一応使えるようになっておいて損はないだろう。
ただ、拳銃以外の装備に関してはあくまで弾薬面を気にしなければ、ということにはなるのだが。
ちなみにフルオートで重機関銃を使うと、ワンアイドベアーも数秒で肉片になった。
この重機関銃は対物ライフルとしても利用可能なほど命中精度が高いらしいのだが、さすがに大きすぎる。
一応試射のため、広い場所を選んで設置したが、正直個人で扱うには荷が勝つのだった。
そもそも南の町の連中はなにを思ってこんな
グレネードランチャーとロケットランチャー、そして手榴弾に関しては森で使ってどんな被害が出るかわからないので自重した。
いまのところ刀を使うつもりはない。
銃以外の武器を使った戦闘方法については不要だと切り捨てた陽一は、あとで痛い目を見ることになるのだが……。
弾薬に関してはいずれ供給源を確保せねばなるまい。
先述したがメインで使っている38口径と44口径の弾薬は、比較的容易に確保できるが、突撃銃あたりは気兼ねなく使えるようになっておきたい。
ショットガンの弾は合法で手に入るせいか裏社会の方々は意外と持っておらず、入手は困難だった。
そして合法で手に入るということは足がつく、すなわち目立つということになりかねないので、陽一が自分で買うというのは控えておいたほうがよいだろう。
そのほかの弾薬に関しては、海外の反社会組織や武力集団あたりから奪えばいいだろうと考えていたが、残念ながら陽一はパスポートを持っていない。
一応パスポートの申請をしておいたが、それができるまで異世界に行かないという選択肢はない。
いまはとにかく、新しい世界での冒険に没頭したいのだ。
異世界でなにを成すか、という明確な目標があるわけではない。
しかし、そこで繰り広げられる魔物との戦いや、異世界人との出会い、未知の社会との触れ合いが、自分にとっての新たな世界を切り開くことになるに違いないと、陽一は期待していたのだった。
(なんか自分探しみたいでかっこ悪いな)
陽一は自分を
○●○●
翌日からはデパートやホームセンターを周り、サバイバルに役立ちそうなものを片っ端から買い揃えていった。
以前にも数日かけてホームセンターを回ったが、足りないものや新たに思いつくものというものはいくらでも出てくるものだ。
すべて現物購入現金決済で、配送などは頼まない。
急に金遣いが荒くなって、国税局あたりに目をつけられてもつまらないと思ったからだ。
なので、個人を特定されるようなカード決済や配送、ネット通販は使わなかった。
その後も思いついたものを買い揃えつつ、暇を見ては異世界へと行き、訓練を積んだ。
さらに数日間の訓練を経て、陽一は44口径以下の拳銃のみでDランク程度の魔物であれば楽に倒せるようになっていた。
ただ、ワンアイドベアーを始めとするCランクの魔物に対してはどうしても拳銃では威力が足りず、突撃銃を使う必要があった。
突撃銃であっても、闇雲に打って倒せるということはなく、比較的近距離から適切に弱点を撃つ必要がある。
対物ライフルを使えばイチコロなのだが、高威力で入手が困難な弾丸は節約しておきたい。
幸いCランクの魔物は出現数が少ないので、突撃銃を単発で使うぶんには問題なさそうであった。
【無限収納+】を使った武器の素早い持ち替えもかなり練習しており、状況に合わせて銃の種類や口径を使い分けることも可能だ。
いまのところBランク以上の魔物にはまだ出会っていないが、そのあたりになると対物ライフルでないと厳しくなってくるのかもしれないが。
ただ、陽一がせっせと弾薬を頂いてるせいで、近辺の裏社会界隈がなにやらちょっとした騒ぎになっているようだが知ったこっちゃない、といったところか。
文句があるなら窃盗の被害届でも出せばよかろう。
にしても随分とたくましい精神に育ったものだ。
失恋(?)が男をひと回り成長させたのか、はたまた【健康体+】のおかげか……。
以上のような経緯で異世界行きの準備が整ったのと同時に、引っ越しの日が訪れた。
古い部屋の荷物は家具家電調理器具食器類まとめて業者に頼んで廃棄した。
ただ、寝具類だけは捨てるに忍びなく、【無限収納+】に入れてメンテナンス機能を使わずに保管していた。
いずれときが来たら実里の匂いが染みついた寝具類を捨てられるだろう。
それまでは時間を止めたまま、異空間に置いておけばいい。
(我ながら女々しいなぁ……)
新しい部屋にはすでに家具や家電が配置されていた。
これに関してはマンションコンシェルジュに相談したところ、有料ではあったが問題なく請け負ってくれた。
(これ、全部実里ちゃんと一緒に選んだんだよなぁ……)
部屋に入り、配置された家具家電類を見て、陽一は実里と過ごした短い日々を思い出した。
そして実里のことを思い出すと、先日自分を慰めてくれた花梨のことも思い出してしまい、余計に胸が締めつけられるのである。
陽一は先ほどから新しい部屋のダイニングテーブルに座ったまま、スマートフォンをじっと見ていた。
花梨に連絡すべきかどうか、かれこれ半日以上迷っていたが、結局新しい住所のみを記したショートメッセージを送信した。
再び紡がれた花梨との縁を、自分の手で切る勇気がなかったのである。
「ほんと、我ながら情けない……」
陽一は自嘲気味に呟いた。
○●○●
新しい部屋の慣れないベッドで目を覚ました陽一は、寝室の片隅に置かれている姿見の大きな鏡の前に立った。
陽一は特に姿見の必要性を感じなかったが、実里に押しきられるかたちで購入したのだった。
服を脱いだ陽一は、鏡の前にあらためて立った。
(おう、随分とたくましくなったな)
森を駆け回り、獲物を見つけては銃を構えて撃ちまくるという生活をしばらく続けたせいか、陽一の身体はかなりたくましいものになっていた。
胸筋は適度に盛り上がり、腹筋はきれいに割れ、腕も脚もひと回り太くなっている。
(うーん、いまはいい感じだけど、これ以上マッチョになるのはちょっと嫌だなぁ)
この思いが今後【健康体+】の効果に影響を与えていくことになる。
筋力というのは筋繊維の肥大によって増大する。
筋繊維の断面積が広いほど、筋力というのは大きくなるのだが、今後陽一の筋肉は筋繊維の太さという量ではなく、質の変化によって増大していくようになるのだった。
簡単にいえば、体型を維持したまま筋力が増大するということだ。
もはや人外である。
姿見の前でひとしきりボディビルダーっぽいポーズを取って満足した陽一は、とりあえず下着を身に着けたあと、用意していたコンビニ弁当5つを平らげた。
洗面台で歯を磨きつつ身だしなみを整えたあと、異世界探索用の装備を身に着けていく。
以前購入したもののうち、ステンレスメッシュの上下に関しては、著しく動きを阻害するため分解してローブの裏に縫いつけておいた。
ヘルメットはいつでもかぶれるように【無限収納+】へ入れたまま、最後にローブを羽織った。
その格好でもう一度姿見の前に立つ。
(うん、決まってるな)
玄関でハイカットの安全靴を履いた陽一は、数回深呼吸をしたあと、異世界へと【帰還】した。
――――――――――
これにて第一章終了。
ここまでがオシリス文庫版1~2巻、ビギニングノベルズ版1巻、そしてコミックス1巻の内容となっております。
書籍、コミックも合わせてよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます