第17話 熱いサービス
「シャワーは早く終わらせようか」
できるだけ短い時間でシャワーを終わらせ、アカリを長く休ませてあげたいと思っている陽一が提案する。
それを聞いたアカリが軽く頷いた。
なんやかんやでふたりは浴室を出た。
事前に暖房の温度を少し上げ、加湿器もつけていたので、浴室と寝室の温度差は特になかった。
「髪、乾かしとこうか」
「あ……いえ、べつに」
「まぁまぁ。風邪ひいてもつまんないしさ」
風邪どころかすでにインフルエンザを発症しているのだが。
髪を濡れたままにして症状が進行してもつまらないので、できることはやっておくべきだろうと思い、陽一はドライヤーを準備した。
「あの……自分で……」
陽一からドライヤーを受け取ろうとしたアカリを制し、陽一は彼女の髪をとかしながらドライヤーの温風を当てた。
アカリはどこか所在なげな様子だったが、気にせず髪を乾かしていく。
毛先にはまだ少し水気が残っていたが、そこまで完璧に乾かさなくてもいいだろう。
「あの……ありがとうございます」
ドライヤーを適当に片づけた陽一は、アカリの隣に座った。
○●○●
寄り添うアカリの身体は、まるで火がついたかのように熱かった。
「……ってやばくね!?」
【鑑定+】で体温を確認すると、39℃を超えていた。
「ちょ……アカリちゃん、大丈夫?」
「はぁ……はぁ……すいません……少しだけ……休憩……」
「ああ、いいよいいよ。ゆっくり休んどきな」
陽一はそう言うと、服のポケットからスマートフォンを取り出して店に電話し状態を説明し、陽一が朝まで面倒を見ることになった。
スポーツドリンクなどを、あとで差し入れしてくれるみたいだ。
「アカリちゃん、休んでていいからね」
潤んだ目をじっと陽一に向けていたアカリの口が、わずかに動く。
「……サト……」
「ん?」
「……ミサト……って、呼んで……」
「ミサトちゃん……?」
陽一がそう呼ぶと、アカリ――、ミサトの口元が軽く緩み、小さく頷いた。
「そっか、ミサトちゃんね。じゃあミサトちゃん、無理しなくていいから休んでて」
ミサトは軽く頷くと、すっとまぶたを閉じた。
陽一は店に電話をして事情を説明し、スポーツドリンクなどの差し入れを依頼した。
それから数分後にドアがノックされる。
まだミサトの意識は残っているらしく、その音で薄く目を開いたが、陽一は気にせず立ち上がり、ドアへと向かう。
「お待たせしました」
先ほどと同じ中年男性スタッフが、コンビニ袋を片手に現れた。
「あ、じゃあこれ」
コンビニ袋を受け取ったあと、陽一はスタッフに追加料金を渡した。
「お釣りいいからね。おつかれ」
スタッフが無言で深く頭を下げたままその場を離れようとしないようなので、陽一はドアを締めた。
コンビニ袋の中には500ミリリットルのペットボトルに入ったスポーツ飲料が4本と、ゼリー飲料がいくつか入っていた。
なかなか気が利くスタッフである。
ミサトはすでに目を閉じていたが、意識は保っているようだった。
かなり汗をかいていたので、一旦布団をはがし、上体を抱え起こしてガウンを脱がせた。
その後、タオルで全身を拭き、陽一は自分のガウンを脱いでミサトに着せてやり、代わりにミサトの汗で湿ったガウンを陽一が羽織る。
一度【無限収納+】に入れしまえばガウンもタオルもきれいになるのだが、ミサトが見ている前でうかつに使うわけにもいかない。
いったん仰向けに寝かせたあと、布団を被せ、スポーツドリンクを手に取り、フタを開ける。
「何回もごめんね」
そう言いながら、陽一はミサトの背中に手を回して上体を起こすと、フタの開いたペットボトルをアカリの口元に当てる。
「飲める?」
陽一の問いかけに軽く頷いたミサトは、少しずつスポーツドリンクを飲んでいった。
いまいちばん怖いのは脱水症状だ。
そこにさえ気をつければ、今夜くらいは問題なく過ごせるだろう。
明日になっても症状が治まらないようなら、病院に連れていこうと考えていた。
幸いタミフル服用のリミットである48時間にはまだ余裕がある。
ゆっくり5分ほどかけてミサトがペットボトル1本ぶんのスポーツドリンクを飲み干したことを確認した陽一は、彼女をベッドに横たえた。
「今日はゆっくり寝な」
「……ごめんなさい」
消え入りそうな声でミサトが呟く。
「いいのいいの。美女の看病なんてできるもんじゃないからね。気にせずゆっくり休みな」
その言葉を聞いたミサトはかすかに笑みをたたえたあと、目を閉じた。
ほどなく、寝息が聞こえ始める。
しばらくその様子を見ていた陽一だったが、【鑑定+】でミサトが完全に眠ったことを確認し、彼女の顔からメガネを外してサイドテーブルに置いた。
その後、自身もスポーツドリンク1本とゼリー飲料1袋を飲み干した。
(ホントはひとりでゆっくり寝てもらったほうがいいと思うんだけど……)
シングルサイズのベッドなので、ふたりが横になるとどうしても狭く感じてしまう。
通常であればそれはご褒美なのだが、病人であるミサトをゆっくり休ませてやりたいといういまの状況ではどうしても気を遣ってしまう。
しかし、彼女が起きたときに自分が隣にいないと、逆に気を遣わせてしまうことになるだろう。
しばらく
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