第3話 スキル確認

 翌朝、病室で目覚めた陽一は、朝食を終えたあとさっそくスキルを確認した。

 これは自分自身に【鑑定】をかけることで確認できた。


【鑑定+】

 視界にある任意のもの、または使用者を中心に設定範囲内(デフォルト値:半径100メートル)にあるものの情報を『知識の宝庫』から適宜引き出すことができる。

 いかなる隠蔽いんぺいスキルをも看破し、相手に気取られることなく使用可能。

 検索、逆引きに対応。

 検索鑑定はイメージした語句や固有名詞の鑑定が可能。

 鑑定結果や履歴は保存可能(保存件数は無制限)。

 保存した鑑定結果に関しては最新の情報を随時閲覧可能。


(……なんか性能上がってんね)


 明らかに最初に与えてもらったものよりも効果が上がっていることが確認できた。

 スキル名のあとに『+』がついているが、これが加護の力ということであろう。

 効果範囲だが、半径100メートル以内なら見えてなくてよく、視界にさえとらえていれば半径100メートルを超えていてもいいということだろうか。

 検索と逆引きというのも気になるところだ。

 試しにいま視界に入ってない『俺のスマホ』で検索をかけてみる。


(お、なんか矢印出たな)


 視界に対象の場所を示す矢印が表示され、同時にスマートフォンのスペックなども表示された。

 矢印を追うと、陽一の鞄の中を示していることがわかった。


 次は窓の外の、少なくとも1キロメートル以上は離れているであろうビルに【鑑定+】をかけてみると、しっかりとビルの名前や所有者、テナントの情報を見ることができた。


(やべぇ、すげー使えるぞ、これ! 設定範囲ってのはどんな感じだ?)


 初期値が半径100メートルと決まっているらしい設定範囲だが、念じれば範囲の変更は可能だった。


 最大値は『∞』と出た。

(……やべぇな。とりあえず100メートルに戻しとこう。あと気になるのが……)


『知識の宝庫』

 過去から現在に至るまでのあらゆる知識が収められている。

 意味はよくわからないがアカシックレコード的なものとして認識しておけばいいだろう。


(なんでもわかるんだよなぁ)


 そこで、イメージした語句や固有名詞の【鑑定】を試してみる。


(たとえば……『ジョン・F・ケネディ 暗殺』で……うわー出た出た)


 米国政府が隠しているであろう情報が、つらつらと表示される。

 ひととおり目を通したあと、安易に国家機密などを覗き見るものではないな、と陽一は少し後悔した。

 気を取り直して次のスキル確認に進む。


【無限収納+】

 使用者を中心に半径10メートル以内のものを異空間に出し入れできる。

 収納物は原則時間が止まった状態だが、収納物ごとに任意で時間経過を設定可能(ただし時間の逆行は不可)。

 収納物は無生物に限る(死骸・採取済みの植物は可)。

 獣や魔物の死骸を収納した場合の解体オプションつき。

 収納物を最善の状態に維持・修繕するメンテナンス機能あり(欠損再生・消耗品の復元は不可)。

 収納物の体積、重量は原則無制限。


 これも随分と性能が上がっているようだ。

 たしか元の効果範囲は半径1メートル以内で、時間経過などのオプションもなかっはずだ。

 試しにサイドテーブルの上にあるショルダーバッグを収納してみる。


「おお、消えた」


 目の前から消えたショルダーバッグだが、【無限収納+】にちゃんと入っていることが、不思議とわかる。

 今度は収納したショルダーバッグを取り出してみた。


「お、出た!」


 これも使い道はいろいろとあるはずだ。

 しかし、解体オプションやメンテナンス機能については、こちらの世界での使いどころがあるのだろうか。


(魚を3枚におろしたり、とか? 包丁研いだり?)


 このあたりも後日検証が必要だろう。


【言語理解+】

 あらゆる言語を母国語レベルで理解。

 読み書きにも対応。

 会話時には相手がもっとも得意とする言語を使用。

 使用者が意識して使用言語を変更することも可。


 これに関しては特に変化がなさそうではあるのだが、名称のうしろに『+』がついているので、もしかすると細かい仕様が変わっているのかもしれない。

 試しにスマートフォンの英語サイトを確認してみる。


「(……とその前に)あの、すいません」

「はい?」


 病室から顔を出すとちょうど看護師がいたので、声をかけた。


「スマホって、使ってもいいですか?」

「ええ、どうぞどうぞ。あ、これよかったら」


 と看護師はポケットから紙切れを取り出した。

 渡された紙にはWi-FiのSSIDと暗号化キーが書かれていた。


「あ、どうもです」


 それはスマートフォンの通信量を少なめに設定している陽一にとって、ありがたい心遣いだった。

 スマートフォンを起動しブラウザから適当な英語サイトを表示。


「よ……読める」


 それは不思議な現象だった。

 明らかに英文字なのになぜか日本語と同じ感覚で読めるのだ。

 いままで一度も目にしたことのないベンガル語やスワヒリ語も問題なく読めた。

 動画サイトから適当な動画を開いてみたが、聞き取りも問題なかった。


(最悪、通訳で食っていけるな)


 一応【言語理解+】に関してはある程度効果を確認できたものの、結局のところ名称のうしろの『+』について、どのような変化があったのかいまの段階では確認できなかった。


【帰還+】

 いかなる状況下、いかなる場所からであってもホームポイントへ瞬時に移動可能。

 ホームポイントを変更すると、翌0時を越えるまで変更できない。

 ホームポイントへ帰還後、1時間以内であれば元の場所へ戻ることが可能。

 ホームポイントは5ヵ所まで設置可能。

 ホームポイントの新規設置および変更は、現在位置でのみ可能。

 設置したホームポイント周辺の状況は、遠隔地から確認可能。


 これに関してもかなり性能が上がっている。

 設置可能なホームポイントはひとつから5つに、再変更に必要な期間も10日から24時間未満になっている。

 このスキルに関しては一度帰宅してから検証することにした。

 さて、『定番スキルセット』はこれだけなのだが、じつはもうひとつスキル(?)が表示されていた。


【健康体+】

 管理者が対象の肉体の損傷を復旧した際に付与された加護。

 心身ともにベストコンディションを維持する。

 怪我や病気、状態異常に強くなり、回復も早くなる。


 事故のあとからやたらと体調がいいのは、これのおかげのようだ。

 長年の不摂生で悪くなってたところがすべてよくなっていたのだろうと考えられる。


(正直これだけでもすげーありがたいけどね。そういや最近つらくなってきてた腰痛がすっかりよくなってるわ!)


 ベストコンディションの維持、怪我や病気に強くなる、回復が早くなる云々うんぬんは魔力供給が始まってからの効果ではないかと思われる。

 管理者の焼き土下座後、目覚めてからの異常な回復力はこれのおかげだろう。


 能力の確認がある程度終わったので、陽一は退院手続きをしてさっさと帰ることにした。


 退院手続きを終えた陽一は、とりあえず家まで歩いて帰った。

【帰還+】を使うという選択肢もなくはないが、ホームポイントを設定していないのでおそらく意味はあるまい。

 仮に、能力授受後の場所が設定されていると、昨夜のお店に転移してしまう可能性もあるのだ。

 そのあたりのことは確認できなくもなさそうだが、とにかく身体が軽くて気分がよかったので、陽一は歩きたい気分だったのである。

 家に着いたあと、昨夜のリナと過ごした時間を思い出しながらぼんやりしているうちに、陽一はそのままウトウトと眠ってしまった。

 その後目覚めたり寝たりを繰り返してゴロゴロしていると、夕方近くになっていた。

 退院したばかりで休んだほうがいいことに違いはあるまいが、ダラダラしすぎたことを少し後悔した。


(……あれ、なんか忘れてね?)


 ………………。


(あ! 葬式!! そうだ、今日は東堂くんの葬式だ!!)


 事故のことが夢ではないとわかった以上、東堂の存在をあえて確認する必要はなくなったのだが、あそこで一緒に死んだのもなにかの縁だと思い、陽一は斎場へ向かうことにした。


(できればご家族に東堂くんの言葉を伝えてあげたいしね)


○●○●


 急いでシャワーを浴びた陽一は、新聞で見た 葬儀場に急いだ。

 到着したときにはすでに17時を過ぎており、別の人の通夜の準備が始まっていた。


「あの!」


 葬儀場のスタッフを呼び止める。


「今日の東堂さんの葬儀ですが……」

「ああ、それでしたらもう終わりまして、ご家族、ご友人の方々もお帰りになられましたよ」

「そうですか……。香典を包みたいのですが、ご自宅などは……?」

「申し訳ございませんが、個人情報に関わることですので……」

「あー、ですよねぇ」


 なんとか住所を確認する方法はないかとあたりを見回すと、片づけられていく案内板などの備品の中に『東堂洋一』の名を見つけた。

 これを【鑑定】すればいいのではないか?

 世に『東堂洋一』なる人物は何人もいるだろうが、今日ここで葬儀を行なった『東堂洋一』は彼ひとりだけのはずだ。


(……よし、確認できた! あとはこれを保存して、と)


 葬儀場をあとにした陽一は、とりあえずコンビニで香典袋と薄墨の筆ペンを買い、イートインでコーヒーを飲みつつ香典を用意する。

 運送会社から貰った封筒からお金を取り出したところ、すべてピン札だった。

 とりあえず札に折り目をつけ、香典袋に入れたあと、残ったコーヒーを飲み干してコンビニを出た。


 さすがにスーツやらを用意するのは難しいが、いま着ている作業服が制服のようなものだから問題ないだろう。

 ちなみに陽一の勤める工場には、制服というものがない。

 作業服ふうの上着やシャツを着ていれば問題ないということで、いまの陽一はホームセンターで買った薄いグレーの作業服の上からダウンジャケットを羽織っていた。

 作業服というのは普段着として着ていても他人からとやかく言われることはあまりないし、公的な場でも通じるという、あらゆるTPOに対応した便利な服装だと、陽一は考えていた。

 さすがに恋人との待ち合わせに着ていくというのはありえないが、ここ10年以上恋人などいない30代半ばのワープア男には関係のない話である。


 目的の住所に到着。

 あまり広いとはいえないが、庭つき一戸建ての分譲住宅のようだ。

 ひと家族が暮らすには充分だろう。


(まあ、35歳独身の1K暮らしから見れば雲上の環境だけどな)


 呼び鈴を押してしばらくすると応答があった。

 疲れたような若い女性の声で。

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