CIVIL LIBERTIES

ごるごし

第1話 ログイン談話

「VRMMOと銘打っているけれども,なんとも皮肉なタイトルだなぁ」


 地方自治体が軒並み倒産し,かと言って日本で維持するのも難しいから自治権は地方自治体に委譲された未来.首都圏は人口過密で一部屋(カプセルホテル程度で言うところの一部屋)数万もかけなければならない未来,人類(日本)は自由を求めてVRMMOという仮想空間に逃げた.


 CIVIL LIBERTYというVRMMOも所詮はその一つだった.現実世界の格差を忘れるため,庶民にはVRMMOという自由な空間と圧縮された濃密な時間が与えられる.


 しかし,現実世界からの格差からは逃れられない.非生産階級はベーシックインカムで生きながらえているが,そのほとんどはVRMMOと栄養タンク代に消える.映画「マトリックス」でも似たような描写があったが,そこまで酷くはないものの,VRMMOがなければいったいどこに生きる価値があるのだろう.


「自由権って訳すみたいだけど,どういう意味なんだろう?」


 僕はロビーでフレンドと会話していた.どこに住んでいるかまでは知らない.男なのか女なのか,それすらもわからない.外見上,女性に見える.姿かたちはその都度変わる.


「基本的人権の一つと言われてもピンと来ないな」


 パッケージのイラストを見たり,広告を見てもピンとこないゲームだった.肘をつきながら情報を集めてみたが,何も見つからない.


 ロビーはピア・ツー・ピアで接続できるVR空間サービスだ.高度に暗号化されているため,政府も介入できないと言われている.しかし,常識的に考えてスパイみたいな仮想空間で直接接触してくる人間がいれば別の話だ.


「まあ,とりあえず買ったわけだしインしてみるのが一番だと思う」と,僕は彼女に提案した.彼女は「またまた」と言いたげな大げさな仕草をする.


「シナリオを把握してから初プレイしたがるのにやけに珍しいね」


「自由権,というのがある意味そそられる」


 やれやれ,と彼女はログインボタンをタップしてロビーから消えた.僕もログインボタンを押してロビーから消えることにする.

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