第2話 小さな異能者
年が明け、一月から俺は臨採として、六年三組を受け持つことになった。
結局先輩は、子供たちの特殊能力の詳細は教えてくれなかった。
『本当に大した能力じゃないから大丈夫。それに太田クンの対応能力も見てみたいしね』
意地悪なことを言わないで下さいよ~。
そして最初の授業の国語での釜山千絵の発言。俺はいきなりの洗礼を受けたのだ。
「先生は、チンチンになりました」
俺は教科書を確かめる。
彼女に音読を頼んだ箇所には、こう書かれていた。
『先生は、プンプンになりました』
何度目をこすっても、『チンチン』には見えない。
初めて教えるクラスだ。釜山千絵がどんな子なのか、そしてどんな能力を持っているのかわからない。
が、とりあえず間違いを指摘しておこうと俺は口を開く。
「釜山さん、ここは『プン……」
すると突然、俺の言葉を遮るように一番前の席に座っていた子が手を上げた。
「先生!」
「えっと……」
この子は誰だろう?
俺は慌てて教卓に貼ってある座席表を確かめる。
猫山路美。学級委員長だった。
「なんでしょう? 猫山さん」
すると猫山路美は立ち上がり、うつむいたままの釜山千絵を横目で見ながら俺に訴える。
「千絵ちゃんはプチ変換なんです。仕方がないんです。スルーしなきゃダメなんです」
「プチ変換……?」
これが先輩の言っていたプチ変換か。
それは、どんな能力?
教科書の『プンプン』を『チンチン』と読んでしまうことに関係があるってこと?
この際だから、学級委員の彼女に聞いてみるのも手かもしれない。
「俺は今日が初めてだから、よく分からないんだ。ちょっと教えてくれないかな」
すると猫山路美は教室を見渡し、クラスに異論が無いことを確認してから俺を向いた。
「プチ変換っていうのは、文書の『プ』を『チ』って読んじゃう能力のことなんです。だから『プチ変換』って言うんです。千絵ちゃんはね、『プンプン』と読んでるつもりでも『チンチン』って言っちゃうんです」
ま、まさか、そんなことが……。
俺は思わず言葉を失った。
――釜山千絵(ぷさん ちえ)。プチ変換。
こうして俺の、波乱万丈の一日が始まった。
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