魔法技術力マウントを取り合う

「まず見ていただきたいのはこちらです」

 ミアはシスターに一つの植物を持ってこさせた。葉っぱの形が独特で村の畑で栽培されていたものだと分かった。

 地球で言うところの芋類に似たそれは地上には葉っぱだけでなくつるのようなものを生やし、おそらく地中と思われる部分には人間の頭ぐらいの大きさの褐色の芋のような根を生やす。

 じゃがいもやさつまいもの仲間のようなものだが、確かに書物をざっと見た私には見覚えがない。

 ちなみにこの世界の芋はもっと小さく、拳大ぐらいのじゃがいものような物ならあり、結構流通している。


「この芋結構大きいね」

「はい、私たちはこの冥界芋のおかげで荒れた土地でも飢えずにやっていけていると言っても過言ではありません」

 ん? 冥界芋? これ冥界に生えてるのか。私の中の冥界のイメージとはちょっと違うな。とはいえ実際目の前には私がこの世界で見たことのない芋があるのは事実である。


「次に、これは魔術研究の副産物なのですが、この宝石を見てください」

 そう言ってミアは胸元にぶら下げている宝石を示す。言われてみれば濃い魔力のオーラを感じる。何らかのマジックアイテムなのだろうか。


「これは魔術回路と私が名付けた技術を内包したものです。魔法というのは世界に存在する魔力を現象に変換する行為です。普通魔法は意志を持って手順を踏まないと行使出来ませんがこの石は半自律的に魔法を行使することが出来ます。ちょっとこれを持ってください」

「大事そうなものなのに悪いね」

 そう言ってミアは私に石を差し出す。私は石を手のひらの上に載せる。


「フリーズ」

 突然ミアが呪文を唱えると室内が凍てついた。とはいっても壁や床が凍っているだけで私たちに実害はないが。当然のことながら私は寒い、と感じる。

 すると、石から熱気が発された。熱気と言っても湯たんぽのような暖をとるのに適した温かさで、私の手をつたって体が温もっていくのを感じる。そして石の上には蜃気楼のようなものが発生していた。


「どういうこと?」

「おそらく今あなたは寒いと感じたのでしょう。その思考が石に伝わり熱を発生させる魔法が発動したのです。これが先ほど半自律的にと述べた意味です」

「確かにすごいな」

 私は石を返す。するとミアは部屋の凍結を解除した。一瞬にして部屋を覆っていた氷は消滅する。しかしこの石を私に預けた状態でここまで大がかりな魔術を使えるなんてこの娘、魔術師としてもただ者じゃないな。


「考えてみるとその石ってこの剣と似てるね」

 私はミアにアストラルブレードを見せる。しかし石にユキノダイトが使われている痕跡は認められていなかった。たまたまユキノダイトとは違う手段で彼女は似たような技術を作ったのだろう。

「ちょっと見せてもらってもいいですか」

「いいよ」

 石を見せてもらったお礼に私はアストラルブレードを鞘ごと手渡す。受け取ったミアは鞘から抜きながら刀身を観察した。ユキノダイトが初見なのか、表情は驚きに満ちていた。


「この金属……ではないか、宝石は何ですか?」

「ユキノダイト。最近採掘出来るようになった石」

「なるほど、魔法との親和性がすごいです」

 ミアの魔力に反応しているのか、刀身がきらきらと輝く。


「あと、それ完全に鞘から抜くと脳に負荷がいくから気を付けて」

「そう言われたら抜いてみたくなるじゃないですか」

 落ち着いた人物だと思っていたが、研究者だけあって好奇心は人一倍強いらしい。ちょっとだけ子供じみた、いやむしろ年相応の言葉を言って、ミアは半分ほど抜いていた刀身を一気に抜き放つ。刀身は抜き放たれた瞬間にまばゆいばかりに光った。


「うっ」

 するとミアは右手に剣を持ったまま左手でこめかみの辺りを押さえてその場にうずくまる。アストラルブレードの負荷が脳に行ったのだろう。

「これはなかなか……なるほど、全く違う技術ですが私たちの研究の先を行っているようですね」

 いい素材があっただけで研究が先を行っているのかは分からないけど、と思ったが口にはしない。

「むしろユキノダイトを使わずにここまでたどり着いたあなたがすごいって」

「いえ、そんなことは……うっ、ようやく」


 やがて剣を構えたまま深呼吸すると、ミアはようやく落ち着いた。この負荷に耐えられるということは私やアリーシャクラスの人物ではあるということである。しばらくミアは剣から光を出したり水を出したり地味な魔法をいくつか試しては感心していた。そして満足したのか一つ頷くと鞘に収めて私に返す。


「これはあなたが打ったのですか?」

「いや、打ったのは御用錬金術師だけど」

 私はあのアリーシャの主人なんだ、という謎の優越感に浸りながら答える。ミアは感心したまま小さな声で言った。

「そうですか。しかしここまで魔法の技術に触れている方でしたら見せない訳には行きません、冥界の門を」

 どうも私は彼女のお眼鏡にかなったようである。これでようやくミアがやろうとしていることの全貌が分かる。

「うん」


 私はごくりと唾を飲んだ。見せてくれるということは門はすでに完成しているということか。とはいえこのミアという少女は話してみると神官というよりは魔術師の印象が強まるな。それともこれは単に私の話題チョイスのせいなのだろうか。私はそんなことを思った。

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