第17話 VS沼地の王 Ⅱ

「とはいえこんなになってしまった沼を一体どうするんだ?」

「そりゃあ干上がらせるしかないでしょ」

「は?」

 ドン引きされた。確かに目の前に広がっている沼の広さは視界には収まりきらないほどだ。とはいえ、出来たばかりということはあまり深くない気がする。それに、魔物が原因ということはそいつを倒せばある程度の改善はするような気がする。それに、是非騎馬の民の方々にはこちらに戻っていただきたい。


 私は魔剣を抜くと沼に向かって構えた。さて、沼全部を干上がらせるには何の魔法が最適なんだろうか。私の脳内に魔剣の知識が流れ込み、負荷がかかる。慣れた魔法を使うときは脳内でフィルターをかけることが出来るようになってきたが、今回みたいに全検索をかけるときは相変わらず大変だ。少ししていくつかの組み合わせの候補が浮かび上がってくる。


「よし、これで行こうかな。オユンはちょっと下がっていて」

「あ、ああ」

 オユンとお供の者たちが私の元から数歩後退する。沼の湿った風が私の頬を撫でる。気持ち悪い。よし、行くか。


『バーストフレア』『ヒートフレイム』『トリプルマジック』『リインフォース』


 バーストフレアは炎を爆発的に展開させる魔法、ヒートフレイムは炎属性魔法の火力を上げる魔法らしい。今回は火力というよりは純粋な熱量を上げるためだけど。


 魔剣から飛び出した三つの炎の塊が沼の水面付近に漂う。おそらく沼の中央に近い箇所に三角形の位置どりになる。そしておもむろに炎の塊は轟音とともに爆発した。爆発自体の音と水を打つ音が鳴り響き、沼に三つの水柱が上がる。水柱といっても茶色と灰色に染まっており、とても汚いが。

 そして水柱と一緒に沼の中から人のような顔をした魚や魚人のような生き物が打ち上げられ、岸辺に流れ着く。他にも沼に引きずりこまれた生物の末路と思われる骨や紫色の蟹などよろしくなさそうなものが大量に出てくる。うん、この光景を見る限りこの沼はだめだな。干上がらせる作戦で正解だった。


 直後に沼全体から大量の水蒸気が立ち上る。そして沼の少し上に雲のようなものが形成された。さすがに一発で水分全蒸発とはいかなかったけど、岸に近い方は沼からただの湿気の多い泥にランクアップ(?)している。

「ふう、疲れた」

 多少慣れてきた今でも魔法四つはちょっと疲れるかな。五つだとこの後何か起こった時に困るので四つにしておいてよかった。ちなみに後ろではオユンたちがドン引きした様子でこちらを眺めている。さっきの私のオユンの馬術に対するリアクションのようだ。


 さて、私が様子を見ていると沼の中央から何者かがこちらへ向かってくるのが見えた。人の形をしているが、頭は怪魚のもので、体中は鱗に包まれている。魚人の大きい版とでも言えばいいだろうか。極めつけは口からはぬめぬめとした液のようなものをまき散らしている。正直かなり気持ち悪い。


 もしやこいつが沼地の王とやらで、この口から吐いたぬめぬめした液でこの辺の湿気を増やしているのだろうか。いや、しかしこいつだけでこんな広大な村を作ることが出来るだろうか? そんな私の疑問に答えるかのように沼のあちこちの水面が割れて似たような奴らが現れた。


「いいよ、まとめてかかって来いや」

 が、私の想像と違って魚人たちは円を描くように私たちの周りを包囲しようとする。相手が広範囲だと組み合わせる魔法の数を増やさないといけないから嫌なんだけどな。

「オユン、包囲は嫌だから後方は任せた」

「ああ」


 オユンは馬を操ると、剣を抜いて私の後方に回ろうとしていた魚人に斬りかかる。魚人がどう迎え撃つか気になったけど、なんとそのまま腕を振り上げ、びっしりと覆う鱗で受けている。それでもオユンの一撃は鋭く、魚人の鱗を斬り裂いていたが。


 さて、私を包囲してこいつらはどうするつもりなんだ? と思っていると。なんと私に向かってぬめぬめした液体を吐き出した。

 とはいえ、遠巻きの包囲なので液体は私に直撃する訳ではない。ぬめぬめした液体が散らばった地面もぬめぬめしていき、気が付くと私の周りに円を描くように沼地が形成されていった。何というか、土地をダメにされるのは恐ろしいけど戦って勝つことだけを考えるとだいぶ悠長な攻撃ではなかろうか。


『サンダーボルト』


 純粋な戦闘においては大した脅威ではないと判断した私は、多少時間はかけても一体一体倒していく方針に切り替えた。どの道さっきの大技をあと一、二回は沼に叩き込まないといけないし。

 魔剣から放たれた雷鳴が命中した魚人は、ぐがああああという微妙な悲鳴を上げてその場に倒れた。やはり大したことはないか。私がさらに二体ほどをサンダーボルトで倒すと、オユンもその間に二体ほどを斬り殺していた。

 その間に私の周りに出来た沼地はドーナツの穴を締め上げるようにじわじわとこちらに拡大していたが、実害はない。やっぱりこういう厄介技を持っている敵は戦闘能力は大したことないのか、と安堵していると。


 不意に目の前に新しく出来た沼地が盛り上がり、ねとねとした液体は何かの形を作るかのようにうごめいていく。


『サンダーボルト』


 まずいなと思った私は魔法を撃ちこむが、どろどろした体に吸収されていく。そしてどろどろから首が生まれ、腕が生まれ、足と尻尾が形作られ、羽が生えてあっという間に竜のような形をとった。

 なるほど、真の沼地の王はこいつということか。もしかしたらさっきの沼地は水自体に攻撃したからこいつは顕現(?)出来なかったのかもしれない。そういうことならこいつを倒して終わらせてくれよう。

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