もう恋なんてしない。〜今度こそ繰り返さない〜

黒澤

第1話


 何故だろう。


 何故私はいつもいつもこんな事になるのだろう。


 何故‘‘彼女’’は私の前に現れるのだろう。


 何故私は死ぬ時には決まってこ・こ・にいるのだろう。


 私が何をしたと言うのか。


 私が‘‘彼女’’に何かしたとでも言うのか。


 ‘‘彼女’’さえいなくなればいいのか。


 いや、こんな事を考えているからだろうか。


 どうして。


 どうして。


 どうして!


 そんな事を彼女、レティシアは誰に言うでもなく考え続けてきた。


 レティシアは何度も何度もこの場所、『ルミナーレ』という国の王宮にある牢獄で殺される。どんな場所で生まれても、どんな場所に住んでいても、どんな名前でもだ。

 レティシアは前世の記憶があった。

 以前は何処で生まれて、どのように過ごし、どうやって死んだのかも覚えている。

 その前も。

 それよりもずっと前もだ。


 レティシアは自分で覚えている限り幾度も、ある女性に関わることによって、この牢獄で亡くなってきた。

 彼女は、いつの人生でもレティシアの前に現れる。


 そして、レティシアがそれに気付くのはいつも全てが終わった後。


 何もできずに死んでいく。


 ‘‘彼女’’は何でも奪っていく。

 無邪気に、自然に、当然のように。居場所も、友人も、家族も、好きな人すらも。


 ‘‘彼女’’は、ある時は姉妹として、またある時は、友人として、いろんな関係で現れる。ただ、いつも容姿は変わらない。バラ色の頰。白いが、健康的な色をした肌。ぷっくりとしたサクランボのような唇。海に溶けてしまいそうな青のパッチリとした瞳。太陽の光を受けると煌めく黄金の髪。その美しさと全てを包み込むような優しさに、誰もが心を奪われる。


 対して、自分はどうだろうか。彼女と同じく、容姿が変わった事はない。血の気のない肌に、心の中の闇を表したかのような、真っ黒い髪に瞳。誰に対しても、素っ気なくなってしまう性格。どんな時も、どんな事も、彼女と比較され蔑まれてきた。


 どんな人生でも同じ事をしてしまう。彼女に自分の最愛の人が奪われ、嫉妬に狂い、殺そうとしてしまう。そして、その計画が失敗し、彼女の出した提案によって、牢獄の中に入れられてから、やっと気付くのだ。ああ、以前と同じだ、と。


 ‘‘彼女’’は誰に対しても慈悲深い。自分の事を殺そうとしたものなど、死刑にしてもおかしくないのに。‘‘彼女’’がすることはいつも『牢獄に入れるだけ』だ。こんな自分など殺してしまえばいいのに。‘‘彼女’’の優しさには、いつも泣いてしまう。


 レティシアはもうすぐ死ぬだろう。何度も死んできたので、死期が近いと分かるようになってきた。


 意識が遠のきながら、彼女は願う。誰に向けてなのかは分からない。


 もう二度とこんな事はしたくない。

 出来る事なら‘‘彼女’’と出会わないようにしてください。

 もし出会ってしまっても、関わらせないでください。もう彼女を傷付けたくないのです。

 もう恋なんてしません。

 お願いします。お願いします。


 そう願いながらレティシアは死んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る