廃惑星の勇者伝説 ~命と引き換えに剣と魔法の世界を救ったら、 次はSF世界に飛ばされた……~

琴猫

序章 世界を救った、ある勇者の最期

〇〇〇〇―――――〇〇〇〇


『――――――グウウウゥアアアアアアァァァァァァァァアアアアウウウァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!』


 それが、この世界〝パルキュイア〟を闇の勢力で支配しようとしていた、魔王ヴィズテリオの断末魔の叫びだった。

 醜く四方に突き出た肉塊の中核に―――俺が投擲した聖剣〝夜明けの牙〟が突き立てられている。魔王の手(だった肉塊)は必死にそれを引き抜こうと足掻いたが、触れようとする瞬間から聖剣から漏れだす光によって肉塊が蒸発していく。



『あ、あり得んッ! こ、この私ヴィズテリオがこんな形でェ………!? だ、だが………フハハフフフ。貴様も道連れだわ………』



 フハハフフフって………。

 だが奴の言う通り俺は―――――腹部を魔王の闇剣で貫かれており、もう動くこともままならなかった。最後の力を振り絞って聖剣を投擲した後は、そのまま両膝をつき、無様に倒れるしかない。


 もし他の奴が勇者をやったのならこんな結末にはならなかったかも知れないが………俺の実力では魔王をギリギリで打ち破るので精一杯だった。しかも仲間とは魔王の空間魔法で切り離されてしまい、実質一対一での決闘。


 我ながら、よく魔王を倒せたと思う………


 いつの間にか魔王は、聖剣から噴き出す光の奔流に飲み込まれ、絶叫を上げながら消滅してしまっていた。魔王を討伐するために女神によって生み出された聖剣と共に。




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【御堂也 玲人】

【Lv.:97】


【HP:0/258750】

【攻撃力:0/7598】

【防御力:451/6987】

【精神力:154/8744】

【俊敏力:0/4201】

【幸運:2587/3541】


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【装備一覧】


【武器:聖剣〝夜明けの牙〟(消失)】

【防具(上下):光の勇者の聖鎧 質の高い服】

【防具(足):レジェンドブーツ】

【防具(手):神聖騎士団の籠手】


【装飾品:テュイアのお守り】


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【スキル一覧】


「光の支配者」

光属性魔法を極めた者に与えられるスキル。光魔法や光に関わる事象を支配し、制御することができる。


「絶対剣技」

全ソードスキルを習得した者に与えられるスキル。世界で最も研ぎ澄まされた剣技を振るうことができる。


「竜騎士」

ドラゴンに騎乗することを許された実力と名誉を持つ者に与えられるスキル。

ドラゴンを操れるものはあらゆる乗り物を操ることができるとされる。



etc………


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 HPがゼロか………。ということは俺はもう死んだということか。

 ただ、これまでの経験で言わせてもらうと、HPがゼロになるのと完全に死ぬのとでは、若干のタイムラグが生じる。少なくともこの世界〝パルキュイア〟では。


 だから最後に、何かを言い残してからあの世へと旅立つ者が多かった。決戦を前にして倒れたアイツも。魔王の間に辿り着く以前に倒した魔族のあの男も………。



 だが、致命傷を負っている割にはやたらと意識ははっきりして、それに痛みが無い。そして―――――記憶が薄れていく。


 俺が、この世界に召喚されて最初に旅立った村は?

 最初に仲間にしたあの女の子の名前は?

 最初に辿り着いた街で何があった?

 聖剣は、どうやって手に入れた――――――?


「あぁ………」


 涙が出た。死ぬって、こういうことなんだな。

 大事なものが、命も、記憶もポロポロと手の間から零れ落ちるように、消えて無くなっていく。


 だから―――――俺は、いつの間にか俺を取り囲んでいた仲間たちの顔や名前をハッキリ思い出せなくなっていた。


「――――ト! ………イト! レイトッ!!」


 ああ、そうだ。

 俺の名前はレイト。

 でも、お前の名前は………?


 必死に手を伸ばして、倒れた俺を抱き起こしてくれた少女の頬に触れた。血まみれの手で。

 ゴメン。後で洗ってくれ。

 でも、その温かさに触れたおかげで、俺は思い出すことができた。俺の勇者としての旅に最初について来てくれた少女――――狩人の少女テュイアのことを。


「テュ………イア……」

「レイト! しっかりしてっ! お願いだから死なないで………!」

「ゆ……勇者はし……なない………い、言ったろ?」


 血反吐が溢れる。

 いつか言ったな。「勇者は死なない」って。

 実は、「RPGゲーム風異世界だから死んでもセーブポイントからやり直せるんじゃね?」などという今思えば信じがたいレベルで世の中を舐め切った考えから突いて出た言葉なのだが。(その数秒後にこの世界にセーブポイントなどないということを思い出した)。


 今では別の意味がある。


「俺を………覚えていて……そ……それで、俺はい、生きられる。ずっと………」

「忘れない! あんたのこと、絶対忘れないから! だからお願い………っ!」


 生きて。

 もう叶えることができないその言葉が耳を打つと同時に、俺はチラッと視界の端に映るステータス一覧を見た。



【精神力:41/8744】



 精神力だ。これのお陰でまだこの世界に魂が繋ぎ留められている。

 だけど、あと十数秒もすれば失われる。

 俺は、倒れ抱き起こされている状態で周囲をゆっくり見回した。


 銀色の甲冑に身を包んだ重騎士。

 紫のローブをまとう老魔法使い。

 大きな杖を持った神聖術士の少女。

 俺と同じ、片手剣を操る少年。



 だけど………もう何も思い出すことができなかった。

 精神力が減りすぎて、記憶を思い起こすことができないのだ。

 だけど、それでも、ここにいる全員が大切な「仲間」であることを俺は忘れていなかった。


 だから、最後に―――――。



「皆……ありがとな。こんな………俺について来て………」



【精神力:0/8744】



 もうお別れの時間だ。

 魔王は滅んだ。この世界を闇で閉ざそうという企みと共に。

 世界にはまた光が差し込むはずだ。最初はか細く、弱々しくても徐々にそれは強くなる。朝、陽が昇ることが当たり前になる日々が、また戻ってくる。


 事実、魔王の間のステンドグラスからは、眩い陽射しが差し込んでいた。それが、俺にも降り注がれる。

 じゃあな、テュイア。それに、皆。

 勇者レイトは死なない。誰かの記憶に残り続ける限り、俺は生き続ける。戦い続ける。




「―――――――――――!!」




 テュイアの悲痛な叫びが、もう遠くに聞こえる。

 俺は、そっと目を閉じ、暗闇の中に身を委ねた。


 暗闇なんて怖くない。

 俺はLv.97の勇者だぞ。この世界で最も暗い闇の代表格の魔王と戦い、勝ったんだ。暗いことぐらい、何てことない―――――。



 遠のく意識。

 全ての感覚が、消失する。


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【御堂也 玲人】

【Lv.:97】


【HP:0/258750】

【攻撃力:0/7598】

【防御力:451/6987】

【精神力:0/8744】

【俊敏力:0/4201】

【幸運:2587/3541】


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 その日、魔王は打ち破られ、世界には再び光が戻った。

 世界を支配しようとした魔族は滅び去り、光を愛する種族が再び平和と繁栄を謳歌する時代が来る。

 勇者レイトの命を引き換えに。





 その身体は光の粒子になって、差し込む陽の光に向かって消えていったという。



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