第9話 美味しいお茶の淹れ方

 食ってすぐ走ったから、腹が痛い……。

 いや、馬が苦手ってわけじゃないんだけど、最近運動不足だったから走ってみました。黒田隆鳳さまだよー。


 「本当にこの阿呆は……」

 「諦めろ。手遅れだ、官兵衛」


 ……お前らはまったくもって失礼な奴らだな、官兵衛。武兵衛。


 あと、小寺編入後に加わった新入りの諸君、そっと目を逸らすのをやめろよ。姫路城時代からの古株連中みたいに腹抱えて笑うのもどうかと思うけど。


 「ほう、諸君。そんなに楽しいか。ならば帰りはお前ら走れ。な?これもまた訓練だ。馬より遅かった奴はメシ抜きにすっからな?」

 「いやいやいやいや、大将!?」

 「武兵衛?」

 「……はい。了解デス」


 はっはっは、こう見えて俺は大将なのだよ?馬廻り筆頭の武兵衛が命令を受領した事で、馬廻りが黙りこむ。戦場で気のいい奴らが死ぬのは嫌だ。だからここは心を鬼にしよう。策謀渦巻くこの地方を寡兵で生き抜くには精鋭を抱えるしかないのだ。


 ……決して、余った馬に乗って帰ろうと思っている訳ではない。


 「お、来たか」

 「おう、来たぜ、クソハゲジジイ」

 「やかましいわ、小童!」


 そうこうしていると、城の奥の方から輝く頭の御仁が近づいてきた。歳の頃はまだ40半ばだったはずだ。だが、その頭は見事に照り返り、身体はかなりがっちりしている。印象としてはなんかこう……K―1とかに出ていそうな偉丈夫だ。


 官兵衛の叔父、黒田休夢。髷が結えないほど禿げてきたから、という理由で出家し、隠居していた変わり人だが、人から言われるのは嫌いらしい。昔は官兵衛と一緒に拳骨を喰らったものだ。あ、痛い痛い痛い!コメカミを拳で潰すのはヤメロォ!殿さまだぞー!


 「じゃれ合いはそこそこに。叔父上。詳細は現地にて、という話だが?」


 官兵衛が単刀直入に切り込むと、ようやくだが俺へのお仕置きの手が緩んだ。思わずグリグリやられた所をさするが、凹んでないよな?


 「なんだか緊迫した空気がどっか行っちまったな。まあ、なんだ。浦上から密使が来た」

 「おー、痛ぇ。で、浦上ってどっちの浦上?」

 「備前の浦上」

 「弟の方か」

 「くそ面倒な方だ」


 俺と官兵衛は揃って深くため息を付く。

 この辺りで浦上と言うと姫路から西、揖保川を超えて少し先にある室山城を中心に海に面した一帯を支配する浦上正宗と、その更に西、備前国を支配する浦上宗景の兄弟の事だ。兄弟喧嘩を起こして分裂しているが、浦上家は何と言っても守護赤松家没落の最大の要因と言っていい下剋上プチブレークを成した家だ。


 下剋上とは言っても中途半端に下剋上したから性質が悪い。なぜなら、調子に乗った浦上の先代は畿内の管領家――つまり細川家の内紛に手を貸して、挙句その戦の中で守護赤松家に討ち取られてしまっているからだ。その上で跡目争いを発端に兄弟喧嘩を起こしてるんだから……ったく。


 要するに、奴らはここら一帯が群雄割拠カオスになった戦犯。そのお誘いが嬉しいはずが無い。むしろ隣接していたら真っ先にブッ潰しに行きたいぐらいだ。


 だが、潰すにしても順序というモノを踏まなければならない。今俺たちは小寺家が支配していた播州中央部を基盤としている。順当に行けば次は西播――つまり龍野に居を構える赤松下野守か、あるいは北播――守護赤松家だ。

 どちらにしても、どこを向いても「赤松家のお家騒動」となる辺りが本当に面倒くさい。

 尚、悪名高い宇喜多直家は今回使者が来た浦上家の家老だ。そこの辺りの事情を鑑みると、奴が色々とやらかしてきているのも何となく納得できる。


 「あまりいい話では無さそうだな」

 「そうだな」


 正直面倒だと思いながら率直な感想を述べると、官兵衛も同じく頷いた。


 俺達の戦略に権力の利用という言葉は載っていない。この場所は俺達の天下獲りの地盤になる場所だ。古いしがらみを断ち切らなければ安息は得られない。


 これから近隣に毛利、尼子、三好といった大勢力。そして未来では織田と事を構え無ければならない。そんな時に、本拠地周辺でアレコレ起こされて勝てるか?と言ったら無理だ。うろ覚えだが、織田家がこっちに来るまでに15年ぐらいしか無かったはずだ。


 そうなったら、織田と毛利に挟まれる。


 権力闘争に首を突っ込み、古い勢力を取り込んでいる時間が無い。俺達の戦略はいつだってラン&ガンだ。どこかと引っ付いて、離れてなんて悠長にやってられねぇ。


 「とにかく、茶席を設けてある。話だけ聞いてやってくれ」

 「茶、な。気が乗らねぇな……特に筋肉ハゲ達磨の茶を飲まなきゃならねぇ所が」

 「我慢しろ、隆鳳。下手したら美味いかもしれないじゃないか」

 「……こんの糞餓鬼どもが、雑巾の絞り水でも飲ませたろか」


 ハゲ親父が何か言ってるけど、俺と官兵衛はわざと遠くに視線をやって知らんぷり。そうこうしていると根負けしたのか、トボトボとどこか力無く歩き始めたので、いつものように悪ガキの笑顔を見せあってその背中を追う事にした。



 「初にお目にかかります。宇喜多和泉守直家と申します」


 ハゲのクセに意匠深い落ち付いた茶室。そこに足を踏み入れるとイケメンがいた。目付きこそ鋭いが、きめ細やかな肌と、形のいい唇。髪は結っているが、前髪が少し垂れ、女性的にも見える。なんだろう……雰囲気をわかりやすく言えば初期の頃の西○貴○さんみたいな感じ。海の真ん中に星型のステージを設けて凄い格好で歌ったり、寒い中素肌ジャケットにネクタイ姿で熱唱しそう。この人いくつ?


 って、今なんか凄い事聞こえた!宇喜多!?噂をすれば影!この人が謀聖!?茶に毒混ぜんじゃねぇぞ、ハゲ。


 「……黒田隆鳳だ。そしてこっちが黒田祐隆(官兵衛の当時の名前)」

 「官兵衛とお呼び下さい」

 「宜しくお願いします」


 史実の悪名とは程遠い温和で柔らかい仕草。なんというか品がある。これは確かに騙されそうだ。偏見だけど、謀略家って外面は割とこんな感じだったりするけど。ほら、サイコパスとかシリアルキラーとかさ。けど、目の前の男は狂気を隠しているって感じがしない。

 ……怒ったら怖いタイプだと思う。


 「若き俊英と聞きましたが、確かに二人とも眩いほどにお若い。だが、風格がある」


 動揺を心の中で押さえつけ、平静を保って挨拶をすると、目の前の男は目を細めて軽くはにかんだ。

 初手褒め殺しとか中々余裕ある振る舞いをする。


 ちなみに、武兵衛は茶には参加せずに、馬廻りを率いて護衛の為にこの茶室の周りを固めている。ひいき目無しで背が高くて、爽やかなーな感じの外見の武兵衛が俺たち三馬鹿の中じゃ一番見栄えが良いんだけどね。官兵衛は今でいえばロッカーな感じ。俺は可愛い系。

 ……あくまでも傾向、外見の方向性だぞ?自分で自分の容姿を可愛いとは思わんよ?


 「本日は突然のお呼び出しに応じていただきありがとうございます」

 「構わん。だが、何故直接姫路に出向かずにここに?」

 「おっしゃる通り、本来ならば、姫路に赴くのが筋という物。ですが、今回は非公式な訪問なので、茶飲み友達に頼んだのです」


 茶飲み友達な。実に意味深だな。確かに休夢叔父は社交的な人間だ。そして割と新しモノ好きで風流人として名を馳せている。だが、単なる茶飲み友達ではないだろう。

 ……あと、この二人が穏やかに茶を呑む姿があまり思い浮かばないんだが。


 何気なしに茶をたてはじめた休夢に視線をくれると、黙って茶に集中する姿は中々様になっている。


 「密談、という事だな」

 「下交渉と思っていただければ」


 謀略家って基本的に外交の化物という印象だが、もう既にこの時点で優秀な感じがする。あくまでも主観だけど。


 「本題を伺おう」

 「一つは誼を通じたいという事。それと……偵察」

 「ほう、随分明け透けに言うのだな」

 「ええ、これは個人的に、ですが。黒田家は瞬く間に中播を制した昇り竜。それなのに当主はまったくと言ってもいいほど情報が出回らない御方。休夢殿すら言葉を濁す……是非この眼で見極めようかと思いまして」


 茶もたたない内からせっかちな官兵衛が口火を切ると、宇喜多直家は緩やかに言葉を紡ぎ、俺を見た。


 俺の情報が出回らない、というのは、おそらく昔のただの養子だった頃の事だ。別段情報封鎖をしていた訳ではないが、養子という立場と、元服前という事もあり公式な場になど出た事が無い。かと言って小姓勤めをするような性格でも無く、情報が出回らないというより、ほぼ無いのだろう。


 ハゲが言葉を濁す理由?そらぁ、察しろよ。


 「成程成程。で、どうだ?貴公の目で見た結果、俺は敵に値するか?」

 「ええ。とても。迂闊に手は出したくない相手だ、とあえて申し上げましょう」

 「ならいっそ消すか?」

 「……御冗談を」


 俺が真っ向から挑発すると、宇喜多直家は驚いた表情を隠すように目を眇めた。そういう表情をすると、謀聖という評価に相応しく思える。


 「敵対したくない。迂闊に手を出したくない。故に私が此処に参った次第ですよ」

 「それはよかった」


 白々しく笑いあいながら、俺は目の前に置かれた茶を無造作に掴んで呑む。そういえば、走って来てからなんも水分をとっていないから、やけに美味い。作法?知る訳ねぇじゃねぇか。


 「この山猿は……」

 「美味い物を窮屈に飲む趣味は無くてな」

 「そうなんだが……今度教えてやるから最低限覚えておけ。大将の嗜みだ」

 「うぃ」


 そんな時間があればいいんだが……なぁ。けど、茶道に興味があるのは確かだ。作法云々はともかく、抹茶は結構好きだからだ。このほろ苦さがいいんだよなぁ。茶器は別に興味無い。

 ハゲとそんなやり取りをしていると、宇喜多直家がクスクスと笑った。


 「仲がいいのですな」

 「こうもあけっぴろげに懐に飛び込まれたら、誰だって遠慮もなくなるわな。敵になれば恐ろしいかもしれないが、こうしてみると面白い小僧だろう?」

 「確かに面白い」


 宇喜多直家も自らの目の前に置かれた茶を満喫しながら、笑みをこちらに飛ばす。本当によく笑う奴だ。

 さて、インターバルもそこそこに第二ラウンド。仕掛けるぜ。


 「ここからは腹を割って率直にいこうか。浦上と手を組む気は無い」

 「隆鳳!?」


 空気が緩み始めた所を急襲する。この場にいる誰もが驚いて俺の方へ視線を寄越した。特に宇喜多、お前、雰囲気変わり過ぎだぜ。


 「……本当に面白い方だ。その真意を聞かせていただいても?」

 「俺は播州の権力争いにつけ込むつもりはない。赤松、浦上……面倒事には首を突っ込まず堂々と正面から叩き潰す」

 「豪気ですね」

 「この程度の段階でいちいちそんなのチマチマやってられねぇよ。延々と小競り合いをやった所で何も変わらねぇ」


 でも、と宇喜多直家を見据える。ここからが本題だ。


 「だが、宇喜多和泉守直家――アンタとなら手を組んでいい」

 「……裏切れ、と?」

 「逆に言うが、お前、浦上の家臣程度で終わる気か?違うだろう?お前にとって浦上は主君とは言え、仇でもある。そして、お前は俺と同類と言っていい人間だ」

 「………………………………………………」


 宇喜多の悪行のそのほとんどを俺は知らないが、大体の流れというか理由はこの時代で調べた情報から予想が付く。

 着目すべきは「何故、下剋上を企んだか」、という動機の部分。そして非情の謀略家の原点とも言うべき暗い部分だ。


 それは恨み。


 宇喜多直家は小さい頃に一族を殺され、城を奪われ、孤児となっている。そこから再び浦上家に返り咲いて、つい二年ほど前にようやく、仇敵であった島村盛実という浦上家の重臣を殺して城も取り返した。


 その為に自らの舅を殺し、自らの妻を自殺に追い込んでまで遂行した復讐だ。その執念の程がうかがい知れる。


 けど、仇はまだいる。


 主君、浦上宗景。島村を操って家中で勢力を増していた宇喜多家を没落させた男。


 これほどまでに苛烈な意志を持って復讐している人間が、奴を見逃すだろうか?答えは否だ。たとえば、俺が宇喜多直家ならば決して忘れないだろう。絶対に殺す。


 「俺もお前もどん底を知っている。その苦しさは忘れた事が無い。その中で誓った事や想った事も、だ」

 「だから、私も傘下に加われ、と?」

 「別にそうは言わない。他人任せな復讐などしたくないだろう?手伝ってくれと言えば俺達は手足となって殺しに行くが」


 俺が意味深に視線を向けると、宇喜多直家は微かに頷いた。


 「、ですね?」

 「なにせ、俺は今まだ小さい勢力だ。だが、間も無く俺たちは動く。少なくとも浦上の勢力圏と接する所まで奪い取る」

 「埋伏の毒となれ、という訳ですか」

 「違ぇな。言っただろう――だから俺はお前と手を組みたいと。お前の野望の為に俺を利用したけりゃ利用しろよ。その代わり俺も俺の野望の為にお前を利用する」


 宇喜多直家に力を貸したら何が起きるか――何が起こるかを期待している。少なくともこの辺り一帯に漂う閉塞感を吹き飛ばす爆弾になる。

 元々が取り扱い厳禁の劇薬みたいな奴だ。だから、取り繕った様な今の態度が気に入らねぇ。


 「押し殺してないで自らの欲望を肯定しろよ。解き放てよ。建前で喋ってねぇで言いたい事言えよ。満たされてもういいや、と思ったその時に、俺はお前を従えてやる」

 「従うとでも?」

 「その時に同盟を続けるか、従うか、あるいは殺しに来るか――お前が決めろ」

 「随分と甘い……」


 確かに甘い条件だと思う。正直俺に交渉事は無理だ。

 もっとも、堂々と配下になれというのも、交渉としてはどうかと思うが。


 「甘いんだ。これから先、国を統べる器量がある程度の優秀な人材が欲しいからな。だから宇喜多とならば誼を通じてもいい。お前は絶対にやるからだ」

 「見透かす様な事を言ってくれますね」

 「ああ。もし従うようなら、最低でも備前と美作二国はくれてやるよ。こちらが望むのは俺の天下獲りの手伝いだ」


  原動力が恨みならば満たしてしまえばいい。それと、何故宇喜多直家が復讐後も精力的に暗闘したかという理由も大体目星が付く。それを見越して勧誘しているつもりだ。 

 この案件が片付いた時、宇喜多直家は間違いなく力になる。まだ一国すら制していない癖に、と言われそうだが、目指す物を考えたら宇喜多直家に二国なんて安い方だ。

 だが、本人は流石にこのスケールの話だと予想していなかったらしく、少しだけ茫然とした表情を見せていた。


 「天下……」

 「ああ。この世界はどこまで行っても柵が多過ぎる。俺はそれを断ち切る。お前が復讐を遂げた後、金輪際同じような事をさせない為にも俺は立つ」

 「本気で出来るとでも?」

 「の話じゃねぇ。本気でからお前が欲しいんだよ。別に俺の野望が崇高だと自分じゃ言わないさ。ただ、これが俺の野望だ。誰にもくれてやらねぇし、誰かに笑われても俺は笑わねぇ。目指しているから欲している、考えておいてくれ」

 「……わかりました。ひとまず同盟の話、お受けしましょう」

 「よろしく頼む。官兵衛もそれでいいな?」


 俺が水を向けると、考え込んでいた官兵衛は一口自分の茶で喉を潤してから、口を開いた。


 「随分と高く評価しているのだな、と驚いたが、俺は一向に構わん。少なくとも浦上を内紛で釘づけにできる。問題視するとなると、浦上云々ではなくその周囲の情勢がどう転ぶか、だ」

 「尼子か毛利か、か」

 「浦上は一応は毛利方だ。だが、本心から手を組んでいるという訳ではない。尼子の動き次第ではどう転ぶかわからん。決着が付くまでに俺達が第三勢力になれるかどうかがこの地方の鍵だ」


 尼子はこれから斜陽に入る。問題は毛利、か。このまま本気で組み合って勝てるかと言われたら無理だな。少なくとも家中の統制は早めに行わないと足元からすくわれる。


 「多少の援軍の義務はできたとしても、宇喜多と誼を結んで、浦上を任せ、赤松と別所を討つのが最善だろうと思う。大方の展望は貴様と描いている物と同じはずだ」

 「確かにな。三好の扱いは?」

 「それこそ将軍家と、という話になる故に、深入りはしたくないが……お前がもくろむ瀬戸内の交易利権を考えると、ある程度は避けられん、といった所だな」

 「だろうな。俺もそう思う」


 堺に近いという地理を活かして海上交易―――この土地に居を構える者ならば誰でも考える事だが、実際に行う事は難しい。

 まず、周辺地域の治安が安定しない事。今、港を作ったとしても戦に巻き込まれてしまったらそれまでだ。特に今の黒田家にはそう何度も港を復興させるほど財力に余裕がある訳ではない。


 次に海上の治安の安定。つまり水上戦力の補強。これに関しては、降ってきた旧小寺家の人間を中心に編成を進めているが、その内毛利の小早川水軍と戦う事を考えると、足りないにも程がある。


 では、その為に何をすべきか。


 一つは周辺に存在する不安定要素の掃除。俺が姫路城下街の再編に本腰を入れないのも、赤松らがまだ襲ってくる可能性が高いからだ。周辺を掃討してからいずれ再編を行う。今、おやっさんたちには職人の手配や、産業の確立など、その為の下準備をしてもらっている所だ。


 次に軍港と交易港の整備。今の所、姫路を軍港。そして三木の別所を下した後に、今でいう神戸の辺りに交易港を、と考えている。神戸を交易港にするのはより堺に近く、毛利の勢力圏から遠く、海上の峠となる淡路との間にある明石海峡の向こうにあるからだ。英賀城を通じ、一向衆とはある程度の誼を通じているので、今の所は安定を望める。


 その内、銭をせびってきたら、潰すけどな。


 ちなみに軍港と交易港をわける理由は機密の関連だ。完全に機能を分ける訳ではないが、将来的に使い分けは必要になってくる。


 堺を狙ってもいいが、堺は町人衆が五月蠅い。ならば、俺による俺の為だけの交易都市を作った方が実入りがあるだろう。堺の古狸の権力を空洞化させてから、潰す。


 そして、以上の理由から三好とはいずれ当たらなければならない。


 「よく……私がいる前でそんな事を話せますね」

 「あん?逆にそれを知られた所で、なんの不利益が俺にあるってんだ?宇喜多」

 「……読まれる事前提の戦略ですか」


 ちょっと違うかな。今話していたのは長期的な戦略の筋ではあるが、短~中長期的な戦略、及び目標と手段、そしてその順序は考えなければならない。その程度なら余所に情報が流れた所でどうって事では無い。

 クラウゼヴィッツの戦争論で言う「戦争の目的」「戦争の目標」であって「戦争の手段」では無い。どちらかというと内政に属する話だ。


 「……ま、なにはともあれ、こんな所だな。改めてよろしく頼むぜ、宇喜多殿」

 「はぁ……とんだ藪蛇だった気がします。休夢殿が言葉を濁す理由もよくわかる」

 「……まあ、心中お察し致すよ。その内、慣れてくると楽だから、苦労は今だけだ」


 困ったように項垂れながら宇喜多直家が呟くと、休夢のハゲおやじが同情するように声を掛けた。


 ……俺の扱い酷くないっすか?


 それから、宇喜多直家は開き直ったかのように、一度顔を挙げて、俺に向けて頭を下げた。


 「とはいえ、私としても非常に実入りのある会談でした。ここまで器を見せつけられ、開けっ広げに信頼されては致し方ありません。どうぞ宜しくお願い致します」

 「そうか、宜しく頼む。だが、」

 「ええ。将来従属するかは改めて考えさせていただきます。全ては我が事が成ってから」

 「それでいい」


 多少は権力争いに首を突っ込む事になるが……まあいい。宇喜多が手に入るのならば、それに勝る戦果は無い。


 宇喜多を信頼するのかと言われたら、信頼していると答えよう。俺は自らの目を信じる。裏切られてた時はその時だ。


 「官兵衛。詳細について宇喜多殿と話を詰めてくれ」

 「ああ。それで宇喜多殿、詳細についてですが……」

 「ええ。少々詰めて行きましょう。とはいっても、我が腹心らと相談もする事になるかと思うので、骨子だけですが……」


 話がある程度纏まり、詳細は官兵衛に投げ、小用に行こうと俺が立ち上がった瞬間、宇喜多がにこやかに告げた。


 「――さしあたっては繋がりを明確にする為に、縁談ですな。丁度私の娘が年頃ですので、隆鳳殿と」



 ……………………えっ?

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