第5話 おまたせしましたスゴイ奴

 んー、と少し考える。

 姫路城は掌握している。そして旗上げをした。で、敵はまだ動きそうもない。官兵衛があちら側に潜り込んでる時点で確率は下がっているが、もし静観している敵状が欺瞞だったとしたら?


 ……実際斥候はきちんと放っているが、この筋書きで行こうか。


 「よし、出陣るか!武兵衛」

 「はえーよ。さっき話した感じだともう少し時間がかかりそうだったじゃねぇか」

 「大丈夫、大丈夫。偵察だけだから……あ、鉄砲持ってくぞ」

 「鉄砲抱えて偵察って何を見る気だ!?」

 「んー……官兵衛の顔?」

 「見なくても、驚いている事だけは予想が付くわ……」


 という訳で、出陣しました50名。

 この世には威力偵察という素晴らしい言葉があるのだよ、武兵衛君。まだこの時代にはそんな言葉がなかったとしたら、俺が世界初だな。


 「この辺りかな……」

 「なにがや?」


 姫路城と御着城の距離は多分一駅ぐらい。元々姫路に土地勘がある人間では無かったので、姫路と御着間に駅があったかはわからないけど、それぐらい。ハッキリ言って凄く近い。

 ……そして、城多い。


 大きなものだけでも、姫路城を中心に、少し東に行くと御着城。南にいくと英賀城。北に行くと守護の赤松家が持つ置塩城。西に行くと龍野赤松家の龍野城。その更に西にいくと大都会岡山。支城を勘定に入れたらそれこそ数え切れないほどにある。


 史実で黒田家が伸びなかった理由は、主君小寺家に義理を立てた以外にも、この群雄割拠の地勢も影響しているのではないかと思う。


 飛び抜けた勢力があれば、逆にある程度の戦略も立てやすいと思うのだが……と思いつつも、こまめに斥候しつつ、俺達は姫路城と御着城の間にある適当な森にて、進軍を止めていた。ここから更に東に進むと市川というこの辺りでは一番大きな川にぶち当たる。姫路城の、そして御着城の防衛の大きな要だ。少数とはいえ、軍を率いて超えると察知されやすくなる上に背水を敷く事になる。


 「武兵衛。正直に答えてくれ。俺達が出た事を御着城は気が付いていると思う?」

 「斥候からの報せでは別段動きは無いそうだが……」


 ホントのんきだよな。官兵衛め……苦労してるな。

 なにしろ、城と城の間は森ばかり、というわけでもなく、村もあれば町みたいなものもある。そしてほんの僅かで到着する距離。斥候すら出さないのは怠惰と言うしかない。


 そもそも、敵方の渦中にいる官兵衛と情報交換が出来ている時点で、警戒心ゼロだろ。

 舐めくさりおって……。

 まあ、都合が良いと言えばそれまでだが。


 「んじゃ、兵の大半を川の見える位置に伏せるか。ここから先進むのは、俺と武兵衛だけで見に行くか。10名ほど全方位に斥候出せ。鉄砲は置いて行くぞ」

 「おびき寄せるのか?」

 「おう、釣り野伏っつーんだ。挑発して引いて、おびき寄せて殲滅する。狙うは敵方が渡河してきた頃合いだ」


 鉄砲があるという前提だけど、寡兵で戦う上で最強戦術だと個人的には思う。いずれ島津家久さんに会ったら是非戦術談義をしてみたいものだ……多分、同い年ぐらいだし。


 「伏せる兵は20名づつ、2隊に分ける。鉄砲は各隊30。射手12名。残りの8名は弾薬の管理と弾込め。弾薬に糸目は付けねぇから、順序良くやれよ?斥候に選ばれた者は直ちに配置と別動隊の有無を探れ。各隊を率いるのは……」

 「どうした?」


 ……やべぇ。鉄砲隊率いる将を連れてくるの忘れた。見つかったらお小言喰らいそう、というか全力で引き留められるだろうからこっそり出て来たのが仇になったか。


 さて、どうしたものだろう―――。


 「隆鳳ーっ!」

 「若様ーっ!」


 「あ、親父と井出様だ」

 「……アイツらでいいか」


 声に振り返ると、俺達が来た方角から血相変えて2頭の馬が駆けてきた。先頭に、おやっさんの弟にして官兵衛の叔父―――とはいっても、俺たちとはそれほど歳の差もない兄貴分、井出友氏こと友にぃ。そしてもう一人、爽やか系の息子とは似ても似つかない、○暴面のヒゲ親父、武兵衛の親父、母里小兵衛。


 慌てて駆け寄ってくる二人のお目付け役に向かってナイスタイミング、と素敵な笑顔でサムズアップした。



 「戦う前から息切れしてるけど、大丈夫かよ?」

 「「誰の所為だと!?」」

 「うるさい、声がでかい」

 「理不尽!」「若様っ!?」


 合流してから早速色々と言われた気がするけど、結局の所、武装してやる気満々な姿で言われた所であまり心に響かない。要領を二人に全て伝え、押しつけた後、俺と武兵衛は進軍を開始した。


 あの二人ならば、安心して兵を任せられる。


 「早速苦労してんな……親父」

 「言ってやるな。間違いなくお前も小兵衛の心労の元凶だ」


 とはいっても、本当にいきなりの謀反に関わらず、相変わらずの態度で接してくれる事に心の底から感謝している。いずれ報いてやらにゃぁな……。


 「そうこうしている内に、御着城が見えてきたな……」

 「川もすんなり渡れるな……本当にどうなってやがんだよ。せめて川沿いに歩哨ぐらい立てろよ」

 「まあまあ。で、どうやって伏兵の場所まで引きこむ?」


 あまりにもすんなりといきすぎたからまだ配置は終わってないはず。今から戻っても……多分終わらない。定石ならばここで一度戻って、誘因隊を編成してもう一度攻め寄せる手筈だが……。


 勝利が欲しい。それも誰もがあっと思う様な鮮烈な勝利が。


 功名の為じゃない。武威を示して今後舐められない為にも。


 敵だけではなく、今後味方になるかもしれない奴らにも。絶対に勝てない、絶対に歯向かってはいけない――そう従順にさせる必要がある。他でも無く、俺が先駆けて、だ。


 「伏兵の位置的に正面から仕掛ける……が、武兵衛」

 「……すげーやな予感」

 「一度俺と共に斬り込んでみないか?」

 「……………………………」


 あ、固まった。そら固まるわな。


 「……おい、武兵衛?」

 「あー……いや、うん、成程な。二人で真正面から斬り込むか……お前バカじゃねぇの!?」

 「官兵衛が言うには鉄砲は無いらしいぞ。矢なら叩き落とせるだろ?」

 「何でそう限界に挑戦したいんだお前……大将だろ?」

 「確かに俺は大将だが……正しくはこれから大将になるから余計に必要なんだよ」

 「……俺にもわかるように説明してくれない?」


 母里武兵衛。俺に次いで腕は立つが正直頭の出来は宜しくない。

 ……まあ、頭の悪さは俺も似たようなもんだ。ちょっとベクトルが違うがな。


 「この先、人が増えたとして、そいつらは俺にちゃんと従えるのか?って話だよ」

 「……叩きのめせば従うだろ?」

 「だから一発叩きのめしに行こう、って話」

 「おー、成程な」

 

 な?頭の悪さのベクトルがちょっと違うだろ?だけど、動物的な勘は凄いし、負けず嫌いだ。そして、本人としては、より小柄な俺に負け越しているから自覚は無いだろうが、この世界の平均を考えると大概な腕をしている。少なくとも、俺が本格的に鍛え始めてから失神したのは、風呂でこけた時と、相撲の取り組みで武兵衛の放ったノーザンライトボムを喰らった時だけだ。


 ……戦国時代ですよー。


 「別に城を落とすぞとは言わねぇよ。一発ぶち込んで適当な所で引き返すさ」

 「そんな事したら警戒されるぞ?」

 「警戒されてちょうどいいぐらいじゃねぇか……?」


 いや、冗談ではなくて本気で奴ら無警戒だから。余程、混乱していると見える。だから勝率も高い。


 「ビビってんのか?武兵衛」

 「……んだと?」

 「忘れたのか?偵察だぜ?偵察ついでに挑発してやろうってだけなんだぜ?先駆けがこの程度でビビっていいのかよ?」

 「……上等じゃねぇか」


 よーし、釣れた釣れた。負けず嫌いだからな、ホント。俺と張り合おうと本気で狙いに来ているのは武兵衛ぐらいだ。だから最も信用しているし、仲が良いんだが。


 腹を括って槍を担いだ武兵衛の隣、俺は刃渡りが約120cmぐらいの野太刀を抜き払い、それを無造作に肩に担いで、ゆっくりと御着の城の前へと立った。流石に武装した二人ゆっくりと近寄ると、のんき極まりなかった大手門周辺がにわかに騒ぎ始め、中には早まったのかまだ微妙に届かない距離辺りから矢が飛んできた。


 「ちっとばっか矢が煩いな」

 「まあ、大丈夫だろう?」

 「そう言えるのはお前ぐらいだよ、隆鳳」


 俺達は徐々に増えてくる矢を、まるで小枝でも払うかのように、刀と槍で叩き落としながら進んでいく。

 それがまた混乱を呼ぶらしい。慌てる声が増えて行く。


 「外は堀と土塁。こっちも丘って言うか山を利用した平山城か。やっぱ、近くで見ると堅牢そうだな。市川あるから、逆に大軍だと落とすのは大変かもな」

 「力押しは難しいか?」

 「犠牲が多くなるが、現状、最適解かもな。大筒でもあれば話は別なんだが……」

 「成程……で、どうする?」

 「ちっと、門の内側も見てみたいな」

 「どうやって?」


 俺は武兵衛の言葉には答えず、矢の雨の中を駆け、そして門扉に向かって思いっきり一閃を浴びせた。


 門の中央、境目の隙間を精確に狙い、こじ開け、その奥にある太い閂を断ち切る。そして刀を振り下ろした勢いのまま1回転、飛びあがりながらソバットではね上げると、勢い余ったのか、がらんがらんと音を立てて扉が外れて飛んでいった。


 「おら、行くぞ。武兵衛」

 「無茶苦茶やわぁ……お前」


 言葉では呆れつつも、躊躇いもなく空いた門の中飛び込み、3、4人と槍で突き殺した武兵衛と背中合わせ。一瞬で正門が突破された事で、ようやく何人かの兵が俺達を囲み始めた。


 おっと、挨拶をしなくちゃな。


 「ごめんください、どなたですか!黒田隆鳳です!入りください、ありがとう!」

 「……酷い挨拶を見た」


 そこはずっこけるのがお約束って奴だぜ。俺の名前を聴いていきり立った男の首を正確に斬り飛ばし、横からの一撃を避けつつ蹴り飛ばし、再び武兵衛と背中合わせになる。


 「とりあえず官兵衛と会ったら帰ろう、武兵衛」

 「いつになる事やら」

 「なに、城が落ちるよりは早いだろ」

 「確かに」


 いざ、となったら死ぬ事なんてこれっぽっちも考えちゃいない。


 冗談で笑いあった後、俺と武兵衛は、腹の底から雄叫びを挙げ、敵の中へとそれぞれ突っ込んでいった。


オマケ 森の中にて


「儂らの出番ありますかな……」

「多分ないと思う」

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