Rainy Day

じゅりえっと

嵐①

「じゃあ、悪いけどそういうことで。」


感情など微塵も感じられない、冷たい顔をしたその男は、そう言い放つと椅子から立ち上がった。


……カチリ


私は、ほんの一瞬男をじっと見据えると、カバンから取り出していたライターで、ゆっくりと咥えていた煙草に火をつけた。


彼は、別れの言葉を言うでもなく、仮面のような冷たい顔のまま踵を返すと、足早に店から出ていき、あっという間に通りの雑踏に紛れて見えなくなった。


「はぁ……」


大きく煙を吸い込み、吐き出すと疲労がどっと押し寄せ、頭痛がした。


何気なく腕時計を見やると、時計の針は15時を示している。


「疲れた……」


意図せず出た呟きと共に、ここ最近の記憶をぼんやりと思い出す。


和哉……。


いつからあんなに冷たい顔をするようになったのだろう……。


和哉とは、友人の友梨の結婚式で知り合い、2年近く交際を続けていた。


住んでいる場所が驚くほど近く、趣味も合う彼とは、初対面とは思えないほど話が弾み、あっという間に仲良くなった。


出会って5日後には、仕事帰りにご飯を食べに行ったり、連れ立って飲みに行くほどの仲になった。


1週間が経つ頃には、恋人へと関係が発展。


およそ2年間、順調に交際していたつもりだった。


どこから、彼との関係がこんなに冷えきってしまったのだろうか……。


「お客様、追加で何かご注文はございますか?」


ぼんやりと考え込んでいた私は、ウエイトレスの女性の声でハッとした。


「当店、追加注文なしでの2時間以上の滞在はお断りさせていただいておりまして……。」


困惑気味な女性の声に促されるように、私はメニューを開き、一番最初のページにあったブレンド珈琲を注文した。


「かしこまりました!」


注文をささっと書いた彼女は、安心したようにそう言い、颯爽と去っていった。


その背中を見送り、ふと、視線を左側にある窓へ向ける。


さっきまでの晴れやかな青はどこへやら、空はどんよりと灰色に曇っている。


真っ赤な傘をさしたOLらしき女性や、黒い傘をさした会社員らしき男性が、どこかにむかって足早に歩いていくのが見えた。


雨……。


そういえば……、彼は傘持ってたかしら…。


そんなことを考えて、今しがた別れ話をしたことを思い出した。


「ははっ……」


自嘲気味な乾いた笑いが少しだけ漏れた。

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