第76話 報酬アイテムは……
テミスと別れた優斗は、全速力で自室へと戻ってきた。
装備を外し、床に座る。
テミスに言われたことを忘れないうちに、早速精神統一を行った。
「すーっ! ふぅ~…………」
瞼を閉じて、呼吸を正しく行いながら、一点に集中する。
しかし、初めのうちは頭の中に、様々な考えが浮上し続けた。
今日の出来事や、手の痛みや、テミスとの会話……。
消しても消しても、次から次へと浮かび上がってくる。
「……むぅ」
思考を消すのは、難しい。
だが優斗は諦めることなく、テミスから教わった精神統一を行い続けた。
するとある瞬間から、自分の思考が全く浮かばなくなった。
真っ暗な空間の中、自らの呼吸音だけが耳に響いてくる。
「……あっ」
しかし、それを意識した途端に、また思考が浮かんできてしまった。
「失敗失敗……」
気を取り直して、優斗は再び精神を統一する。
初めは僅かな時間だけ、真っ暗な空間が現われた。
それを持続するように集中力を高めていくと、次第に真っ暗な空間が長くなっていった。
集中する優斗の鞄から、みょんっとピノが顔を出す。
主が瞼を瞑ってなにかをやっているが、ピノにはわからない。
とりあえずピノは、主の体を登っていく。
登るのは、そこに主の体があるからだ。
頂上(あたま)に達したピノは満足し、体を丸めてうとうとするのだった。
かなり長時間精神統一を行った。
優斗は真っ暗な中から、意識を浮上させた。
「ふぅ……。さて、クエストはどうなったかなあ?」
優斗が確認すると、クエスト一覧から『精神統一』が消えていた。
テミスから教わった方法に、間違いはなかった。
優斗はどこにいるか判らないテミスに向けて、手を合せる。
「テミスさん、ありがとうございます。おかげでクエストがクリア出来ました!」
ひとしきり祈ると、優斗は画面を切り替えてステータスをチェックする。
>>レベル34→39
>>スキルポイント:20→35
>>特技:【集中】NEW
「おおー凄い!」
ステータスを見た優斗は、目を輝かせた。
優斗はレベル・スキルポイント共に大量に獲得していた。
また、新たなスキルも出現している。
「レベルとスキルは、精神統一クエストと、中級素振り……あっ、あとインスタαクエストもあるか」
優斗は精神統一と共に、ウォークリークエストの中級素振りをクリアしていた。
さらに、インスタンスダンジョンαの攻略クエストもクリアしていた。
今回大量ポイントを獲得していたのは、そのおかげである。
「それと合せて、ボス討伐クエストが出現してたのかもしれないなあ」
チェインクエストに表示されていたクエストは『インスタンスダンジョンαに挑戦せよ』だった。
これまでのクエストの傾向からいって、ボス討伐・ダンジョンクリアとクエストがさらに二度派生した可能性がある。
優斗はダンジョン内で、クエストのチェックを行わなかった。
そのため実際のところクエストが派生したかは不明だが、ここまで大量のポイントを獲得出来たのだ。派生していたと考えるのが妥当である。
「特技に出た集中は……短時間だけ能力底上げだったかな」
冒険者になってから長年蓄積してきた知識の中から、優斗は特技【集中】の情報を掘り起こす。
集中は、使用者の能力を短時間だけ増幅する特技だ。
10の力で3回攻撃出来るところを、力を集中することで1度に30の力で攻撃することが可能となる。
その反面、一度に強力な力を使うため、場合によってはしばらく身動きが取れなくなるというデメリットがある。
この他には、いくつか小さな恩恵があるとのことだったが、特技は他のスキル以上に情報の入手が難しい。
優斗が知っている情報は、これだけだった。
「デメリットは怖いけど、これがあると戦術の幅が広がるなあ」
どうしても通常より強力な一撃が必要になった場合などに、その真価を発揮するに違いない。
具体的にどう使用していくか、優斗はゆっくり考えて行くことにする。
ステータスを確認した優斗は、次にインベントリのチェックを行う。
すると、優斗はインベントリの中に見覚えのあるスクロールを発見した。
「おお!?」
興奮しながらも、優斗はインベントリをタップする。
インベントリ上に浮かび上がった文字は『就職書<魔術士>』と書かれていた。
「魔術士ィッ!?」
優斗の喉から、素っ頓狂な声が出た。
早くも二つ目の就職書が手に入ったことに驚いたが、その就職書が魔術士であることも驚きだった。
「まさか魔術士の就職書が手に入るとは……」
優斗は剣士である。剣士用の報酬は想定していたが、魔術士用の報酬を入手するとは考えもしなかった。
しかし、思い起こせばスキルボードを入手した頃から、クエスト攻略報酬は剣士用のものだけではなかった。
魔術スクロールを100枚使えというクエストで、優斗は呪文書を手に入れている。
『就職書<魔術士>』を手に入れたとしても、なんら不思議ではない。
「うーん。どうしようかなあ」
冷静さを取り戻した優斗は、顎に手を当てて考える。
就職書を使ったものは、その就職書に対応した職業に就く。
しかし、既に職業に就いているものが使うとどうなるのか?
新たに上書きされるのか、それとも就職出来ないのか……。
「場合によって選択出来るようになったら面白いけど……さすがにそこまで上手くはいかないかなあ?」
しばし悩んだ優斗は、就職書をインベントリに戻した。
刀を用いた戦闘を行う優斗にとって、剣士は理想的な職業だ。
それを、無理に魔術士に上書きする意味はない。
もし職業が上書きされなくても、使った就職書が消える可能性がある。
それは非常にもったいない。
いつかどこかで、自分ではない誰かに使う場面がやってくるかもしれない。
そう考え、優斗はこの就職書の使用を見送ることにした。
次に、優斗はインベントリに収納しておいた、インスタンスダンジョンαのボスドロップに触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます