第77話 ギルドからの指名依頼

「ん……アルセイスのブーツ。これも名前付きだ」


 ドロップのブーツには、『アルセイスのブーツ』という名前が付いていた。

 固有名詞が付いたアイテムの入手は、これが二度目である。


 初めに手に入れたのは、ネーレイデスの杖だ。

 その杖は、非常に強力な魔術師用の武器だった。


 今回のブーツにも、名前が付いている。


「皆が言ってた通り、すごい靴なのかもしれない!」


 嫌が応にも優斗の期待値が上がっていく。


 優斗はインベントリから取り出したブーツに履き替える。

 ブーツは優斗の足のサイズから、二回り以上大きい。

 靴紐をきつく閉めても、かなりブカブカだった。


 だが、靴を履いてしばらくすると、ブーツが縮小して、優斗の足にぴったりになった。


「よかった。サイズ変更の刻印があった」


 優斗はほっと胸をなで下ろす。

 靴の履き心地は、若干硬く感じられた。


 それは前の靴がくたびれて、柔らかくなりすぎていたためだ。

 これが本来あるべき、冒険者用の靴の硬さである。


 いつまでも頭の上に鎮座しているピノをベッドに避けて、優斗は軽くその場でステップを踏む。

 キュキュッ! と靴の裏が甲高く鳴いた。

 これまでの靴では聞こえない音である。


 靴の裏が、かなり強力に床板を掴んでいる。

 もし優斗が全力で床を踏み抜けば、床板がまるごと外れて水平に飛んでいきそうなほどだった。


 無理にグリップを効かせても、優斗の足への負担は一切ない。


「これまでと全然違う。すごく、良い靴だ……」


 明日ダナンとエリスに合ったら、早速お礼を言わなければ。

 優斗はそう、心に誓った。


 靴のチェックが終わったところで、優斗は再びステータス画面を表示した。

 現在、スキルポイントが35貯まった。


 これだけあるなら、少し使っても大丈夫だろうと、優斗は画面をタップする。


>>スキルポイント:35→15

>>全能力強化Lv4→5


「よしっ、これで基礎スキルもBランク相当だ!」


 優斗は拳を握りしめる。

 基礎スキルの全てが一度に上昇したため、安静にしていても判るほど体が軽くなった。


 スキルレベル5は、Bランク冒険者の平均値相当である。

 これで優斗は、メインスキルすべてがBランクを超えた。


 あとはレベルが若干足りない程度だが、現在優斗はレベル39にまで上がった。

 あと1つ上がるだけでBランクの水準に達するので、もはや時間の問題である。


 とはいえ、レベルやスキルが上昇すれば、自動的にランクが上がるわけではない。

 Bランクに昇格するためには、それ相応の功績と、ギルド貢献度が求められる。


 さらに――これはあくまで噂だが――Bランクに上がるためには、特殊な力が求められると言われている。


 その特殊な力がなにか、優斗は知らない。

 あくまで噂である。


 だがBランクの冒険者とCランクの冒険者では、CランクとDランクの差より、戦闘力に大きな違いが存在する。

 実際、優斗はBランクの魔物であるカオススライムやミスリルゴーレムと連続で戦えないが、Bランクの冒険者は、それらの魔物を連続で倒せる実力がある。


 Bランクに上がるためには、なにか特別な力が求められるのは間違いない。

 まだまだ優斗に足りないものが沢山ある。


「もっと、頑張らないと!」


 そう決意を新たにし、優斗は就寝するのだった。


          ○


 翌日、仲間と合流して神殿に向かった優斗らは、ギルド職員に呼び止められた。


「ギルドからの指名依頼、ですか?」

「はい。お話だけでも聞いて頂けますか?」


 指名依頼は、ギルドが選抜した冒険者に与えられる依頼だ。

 通常の依頼と比べて、かなり良い報酬が用意されていると噂されている。


 選抜されるだけあって、それ相応の実力者があり、かつ知名度が高くなければ指名されることがない。

 優斗たちにとって、縁遠い依頼である。


 それが今日、優斗らの元に舞い込んできた。


「なあユート。なんか間違ってるんじゃねぇか?」

「ですです。わたしたちが指名されるとは、思えないです」

「だよね。僕もそう思う」


 優斗らはCランクの冒険者だ。

 決して実力がないわけではないが、Cランクは冒険者ランクの中で丁度中間地点だ。

 実力があると言える程でもない。


「僕らには、ギルド指名を受けるような実力も知名度もないと思いますが……」

「なにをおっしゃっているんですか。ユートさんたちのパーティは、先日新たに出来たインスタンスダンジョンをクリアされたではありませんか。それを評価した結果、指名依頼を行うことになったんです」

「……そう、なんですね」


 未知のダンジョンは、既知のダンジョンに比べて柔軟な対応が求められる。

 新しいダンジョンを攻略したことで、優斗たちはギルドから『何が起こっても対処出来る〝実力がある〟』と思われたのだ。


「どうしよう?」

「話だけでも聞いてみようぜ。ダメそうなら断れば良い」

「ですです」


 エリスとダナンが了承したことで、ひとまず優斗はギルド職員から話しを聞くことにしたのだった。

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