第67話 宝箱とクエスト成功報酬
「……ん? なんだろう」
ダンジョンは総石造りだ。その中にぽつんと木製の箱が置かれている。
あまりに不自然である。
罠かな? と思ったが、優斗は好奇心に押されて箱に近づいていく。
箱は、一片が1メートルほどの、比較的大きなものだった。
「……もしかして、これが噂の宝箱!?」
優斗はこれまで一度も宝箱を目にしたことがない。
なので確証はないが、噂通りならこれが宝箱ということになる。
まさか超絶希少な宝箱に、こんなにも早くお目にかかれる日が来るとは、優斗は思ってもみなかった。
「きっと人が滅多に来ない階だから、ずっと放置されてたんだろうなあ」
これが他の階なら、誰かしらが宝箱を見つけている。
しかしここはダンジョンの16階。不人気モンスターが跋扈する層であるため、冒険者のほとんどがスルーしてしまう。
宝箱がポップしても、この近くまで冒険者がやってこなかったため、優斗に見付かるまで放置され続けたのだ。
さておき、優斗は興奮しながら箱の蓋に手を掛ける。
優斗が少し力を込めると、あっさり蓋が開いた。
箱の中には、一本の杖が収められていた。
先端に紫色の宝石が付いた杖だ。
その杖を見た途端に、優斗の肌がプツプツと粟だった。
ミスリルの刀を初めて見た時と、同じ感覚だ。
「すごい、強そうだ……」
恐る恐る、優斗は杖を手にしてみる。
杖を手にした途端に、木箱がずぶずぶとダンジョンの中に戻っていった。
「やっぱり、宝箱だったんだ……」
噂と違わぬ光景に、優斗は感動を新たにした。
優斗は性能を確かめるため、杖に魔力を込めた。
「うわっ、すごい」
魔力を込めた瞬間から、杖が優斗の魔力の増幅を始めた。
込めた1の魔力が、3にも4にも膨らんでいる。
魔力を込めると同時に、先端に取り付けられた紫色の宝石が輝き始めた。
「これで魔術を放ったら、とんでもない威力になりそうだ……」
ある程度まで魔力を込めると、優斗は杖に送る魔力を停止した。
これ以上魔力を込めるのが、少しだけ怖くなった。
魔力を停止すると、宝石から光がゆっくりと失われていった。
「この杖……すごいな……」
まだ使用してないが、この杖のポテンシャルは肌身で感じ取れた。
やはり、宝箱から排出されるアイテムは、特級のレアに違いないらしい。
「これ、エリスは使えるかな?」
回復術が増幅されれば、エリスに負担がかからない。
再びミスリルゴーレム戦のような状況になっても、あそこまでふらふらにはならないはずだ。
「明日、エリスに持たせてみよう」
そう決めて、優斗は杖をインベントリに収納した。
インベントリに収納すると、収納したアイテムの名称が確認出来る。
今回手にしたアイテムには、『ネーレイデスの杖』という名前が付いていた。
○
自室に戻った優斗は体の汚れを落とし、かなり遅めの夕食を取った。
「なんとか日を跨ぐ前に戻って来られてよかった」
これで明日、疲労のせいで寝過ごして、メンバーに怒られることもない。
内心安堵しながら、最後のパンの一欠片を口に放り込んだ。
「――っと、そういえば宝箱クエストクリアしてたんだ!」
16階で優斗は宝箱を発見した。
なので、ベースクエストにある『宝箱を発見せよ』がクリアされているはずだ。
「運がないとクリア出来ないクエストだったし、もしかしたら幸運なんてスキルが手に入るかも?」
胸を高鳴らせながら、優斗はスキルボードを確認する。
>>レベル33→34
>>スキルポイント:4→20
「おおーっ! ものっすごくポイントが増えてる」
メンバーと別れてから、優斗がクリアしたクエストは二つ。
イビルスパイダーを百匹討伐と、宝箱の発見だ。
これまでクリアしてきた百匹討伐クエストは、さほどスキルポイントを獲得するものではなかった。
なので今回上昇したポイントのほとんどは、宝箱クエストによるものだ。
「さすが……難易度が高いだけはある」
宝箱の発見は、その性質上最も難易度の高いクエストだった。
優斗の強さがクリアの可否に関わらないところが特に、だ。
クリア出来るかどうかは運任せ。
そのため、報酬のポイントもかなり高めに設定されていたのだ。
残念ながら、想像していたようなスキルは入手出来なかったが、これだけの大量ポイント獲得である。
優斗はポイントだけでも満足だった。
「どうしようかなあ~。どのスキルに振ろう?」
ポイントが大量に入ったことで、優斗はポイントを振るスキルに目移りする。
剣術にすべてを割り振れば、なんとSランクの冒険者と同じレベル7まで上げられる。
その未来を想像して、優斗はぽわぽわと閉まらない笑みを浮かべる。
「……でも、前みたいなことがあるかもしれない、か」
先日、クロノスの市街地に、Bランクの魔物であるカオススライムが出没した。
同じようなことが間髪置かずにまた発生するとは、優斗は考えていない。
しかし、完全に否定は出来ない。
万が一は必ずあるのだ。
「念のためにポイントを残しておくのも良いかもしれない……」
もし万が一が発生した場合に、ポイントがあるのとないのとでは、戦況に大きな差が生まれる。
前回は運良くスキルポイントが残っていた。
残ったスキルポイントを割り振ったことで魔剣術が覚醒し、優斗はカオススライムを討伐出来た。
もしあの時ポイントが無ければ、どうなっていたかはわからない。
上手く行けば、他の冒険者が助けに来てくれた。
だが助けが遅れれば、優斗らは全滅していたかもしれないのだ。
「……うん。ポイントの割り振りはしばらくお預けにしよう」
いますぐ強くなる事に執着したことで仲間を失えば、後悔しても仕切れない。
しばし悩んだ後、優斗はスキルのレベルアップを見送るのだった。
続いて優斗は、クエストのチェックを行う。
宝箱クエストをクリアしたことで、別のクエストが出現しているのではないかと考えた。
○チェインクエスト
・インスタンスダンジョンαに挑戦せよ NEW
「おっ、やっぱり出現してた……って、インスタα?」
優斗は首を傾げる。
このタイミングでのチェインクエスト発生は、宝箱クエストの完了がきっかけで間違いない。
だが、優斗は『インスタンスダンジョンα』なるものを耳にしたことがなかった。
「うーん? なんでこれがチェインクエストに出たんだろう……」
しばし頭を悩ませた優斗は、「もしや」とスキルボードの画面を切り替えた。
表示されたインベントリ画面を見て、優斗は納得する。
「そうか、これがきっかけだったんだ」
インベントリには、新たに『インスタンスダンジョンαの鍵』なるアイテムが出現していた。
鍵は宝箱クエスト完了の報酬だろうと優斗は考える。
ただやはり、この『α』というものがなにかはわからない。
「……そういえば、新しいインスタの扉が発見されたんだっけ」
先日、ダナンが『神殿の近くで新しい扉が発見された』と口にしていた。
となると、インスタンスダンジョンαは、その扉である可能性が非常に高い。
「新しいインスタの鍵……」
どんなダンジョンなのだろう?
そう考えると、優斗の体が興奮に震えた。
どんなダンジョンなのか。
どんな敵が出てくるのか。
どんなアイテムがドロップするのか。
「気になる! 行ってみたい!」
しかし、新しいダンジョンが優斗らにとって、適切なレベルであるかがわからない。
行きたい気持ちはあるが、まずは情報収集から始めるべきだ。
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