第57話 新たな一撃

 優斗は戦いながら、戦場を俯瞰していた。

 エリスのスタミナチャージのおかげで、いまのところ全員が満足に動けている。


 だがテミスとダナンの動きが、ほんの僅かに鈍化してきた。


 ダナンの場合は、攻撃による魔力欠乏が原因だ。

 彼が生み出した針から、優斗は薄ら魔力を感じた。

 その針による攻撃を何度も行っているため、魔術師でないテミスは魔力欠乏気味になっているのだ。


 テミスは初めの頃に比べれば、格段に回避が上達した。

 狼人族特有の長い尻尾を用いた回避術は、優斗には決して真似出来ない。


 しかし、攻撃を一撃でも受ければ致命的な戦闘は、精神をかなり摩耗する。

 そのためテミスは、動きに精彩を欠いてきたのだ。


(このままだと不味い……)


 優斗はカオススライムの攻撃を弾きながら、スキルボードを表示して手段を模索する。


(やっぱり、ダメ元でライトニングのレベルを上げるしか……)


 優斗がライトニングのレベルを上げようとしていた時だった。

 ふとツリーの切れ端が優斗の目に止まった。


『剣術Lv5┬』


 これがいままで、なんだかわからなかった。

 もしかすると、クエストで新しいスキルが出現するのだと考えていた。


(けど、もしかしたらそれは違うのかもしれない)


 優斗が基礎スキルを振ったとき、基礎スキル5つが『全能力強化』に統合された。

 これと同じように、スキルを上昇させると新たなスキルが出現するのではないか?


(だとするなら一体……)


 考えた優斗は、すぐにぴんときた。

〝ツリーの形状の意味〟に気がつくと、優斗はもうそうとしか思えなくなった。


 優斗はすぐにでもスキルを振り分けたかった。

 しかし、スキルを振り分けるには、手で触れて操作しなければならない。


 刀を持つ手が1本になってしまう。

 それでは、カオススライムの攻撃を防げない。


 まかりなりにも、相手はBランクの魔物だ。

 一瞬といえども、油断してはいけない。


 そこで優斗は、仲間を頼ることにした。


「ダナンさん、テミスさん。僕に10秒ください!」


 10秒あれば、確実にスキルポイントを振り分けられる。

 優斗が願い出ると、ダナンとテミスが口を開く。


「なんだユート。たった10秒でいいのか?」

「休みたいなら1分くらいは良いぜ?」


 二人とも、顔から滝のように汗を流しながら、軽口を叩いた。

 まだ闘志が折れてない。


 そんな二人を、優斗は心強く感じた。


「10秒でいいです」

「あいよ」

「了解だ!」


 二人が合図するのと同時に、優斗は刀から右手を離した。

 優斗が手を離すと、二人は一斉に攻撃の手を強めた。


 ダナンは連続で針を投擲し、テミスはフェイントを交えながら挑発する。


「うおおおおお!!」


 テミスの大声に、カオススライムが反応した。

 それと同時に、いままでべったり張り付いていたスライムの殺気が、優斗を離れた。


 二人がカオススライムを引きつけているのを俯瞰しながら、優斗は祈るようにスキルポイントを割り振った。


>>スキルポイント:15→3

>>魔術Lv2→5


 魔術をレベル5に引き上げると、

 優斗のツリーに、新たなスキルが出現した。


>>剣術Lv5┬魔剣術Lv0NEW

>>魔術Lv5┘


(……きたっ!!)


 優斗がさらに魔剣術にポイントを割り振ろうとした、その時だった。


「――エリス、避けろ!!」


 触手の一本が、尋常ならざる速度でエリスに向かった。


 その触手を邪魔出来る立ち位置には、誰もいない。

 優斗もダナンもテミスも動くが、もう遅い。


 来るべき衝撃に備えたエリスが、身を縮こまらせる。

 触手はエリスに接触し、


「「「「……えっ?」」」」


 ぽよん、と真上に弾かれた。

 触手を弾いたのは、エリスの頭上に居座っていた、ピノだ。

 ピノが間に割って入り、その体を用いて触手を真上に弾いたのだった。


 浮いた触手を、遅れて優斗が切り落とす。


「ピノ、よくやった!!」


 優斗が褒めると、ピノがみょんみょんと嬉しそうに体を揺らした。

 救ってもらったエリスがすぐにピノにヒールを施している。


 エリスにはまったくダメージはなかった。


 その姿を見て、優斗はほっと胸をなで下ろした。

 それと同時に、刀を両手で握り直す。


 準備は、整った。


>>スキルポイント:3→1

>>魔剣術Lv1


 スキルレベルを上げた瞬間から、優斗はその技術をどう使えば良いのかが、なんとなく理解出来た。

 呪文書を使ったときと同じ感覚だ。


 迫るカオススライムに向けて、優斗は切っ先を上げた。

 次の瞬間。

 カッと刀身が明滅した。


 優斗が掲げるミスリルの刀身に、ライトニングの閃光が迸る。


 その光に怯えたか。

 カオススライムが僅かに後退した。


 だが、それを逃す優斗ではない。

 カオススライム目がけて跳躍。

 10メートルの距離を、一瞬でゼロにする。


 カオススライムが、触手を伸ばす。

 だが、


「スッ込んでろ!!」

「おらぁ!!」


 その触手を、テミスとダナンが妨害した。


 優斗とカオススライムのあいだに、邪魔なものはなにもない。


「ライトニング――」


 優斗は刀を振るい、


「――スラッシュ!!」


 払い抜けた。


 瞬間。明滅。

 バチバチとスライムの体が音を立てた。


 優斗は即座に振り返り、反撃に備えた。


 しかし、カオススライムは体を何度も痙攣させたあと、まるで風船が萎むようにゆっくりと溶けていった。


 ――討伐、完了。


 カオススライムの絶命を確認し、優斗は刀を鞘に収めた。


 スライムが解け落ちたことで、ダナンとテミスが崩れ落ちた。

 二人とも、口では強がっていたけれど、とっくの昔に限界だったのだ。


「テミスさん」

「ああん?」


 肩で息をするテミスに近づき、優斗は拳を突き出した。

 その拳を見て、テミスは顔をそっぽに向けた。


 けれど尻尾をもじもじさせながら、テミスは拳を持ち上げる。

 その拳に、優斗はコツンと自らの拳をぶつけた。


「お疲れ様でした」

「……おう」



>>緊急クエストをクリアしました

>>報酬を配布しました

>>レベル30→32

>>スキルポイント:1→5






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




先日、Kラノベブックスより書き下ろし短編2編を収録した、小説「劣等人の魔剣使い1巻」が発売されました。

皆様どうぞ、宜しくお願いいたします。



また、7月16日に漫画版「劣等人の魔剣使い」が、マガポケにて更新されました。

エステル初登場回で作画に時間を掛けたいとのことで、来週の更新はお休みとなります。


次回は7月30日更新となります。

どうぞ、宜しくお願いいたします。

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