第34話 スキル統合

 優斗らが地上に戻った時、既に神殿では火が落とされようとしているところだった。

 神殿の入り口から、いままさに登り始めた太陽の、白い光が差し込んでいる。


 どうやら優斗らはベースダンジョンで、一晩を明かしてしまったようだ。


(さすがに、ちょっと時間がかかったなあ……)


 優斗は凝り固まった肩をほぐすように、軽く腕を回す。


 今回時間がかかったのは、クエストを攻略しながら各階を移動したためである。

 もしこれが魔物を倒すだけならば、ここまで時間は掛からなかった。


 また、エリスが途中途中、バテないように長めの休息を取ったことも理由として挙げられる。

 エリスは基本的に戦闘に参加しない。それでもバテそうになったのは、ダンジョンという環境のせいだ。


 ダンジョンでは常時、魔物からの襲撃に備えなければならない。


 優斗は剣士であるため、接近されても返り討ちに出来る。

 だが、エリスは後衛の、それも戦闘力が低い回復術師である。

 優斗よりも不意打ちをより強く警戒していたのだ。


 また彼女は体力スキルやレベルが低く、さらに優斗のように体力の腕輪を付けていない。

 優斗より早くバテてしまうのも無理はないのだ。


「わー、おそとは、あかるいですー」


 疲労で目が開かないのか、エリスの乾いた目はほとんどが瞼に隠れてしまっていた。

 優斗はエリスの歩幅に合わせ、ゆっくりとカウンターに向かった。


「ユートさん、おめでとうございます! 本日より、Cランクに昇格いたしました!」

「おー!!」

「ユートさん、おめでとうございます、です!」


 魔石を納品すると、優斗の昇格が決定した。

 一度で昇格出来たのは、それだけ魔石納品以来の貢献度が高かったためである。


 新しい銀色のプレートをもらい、優斗は光にかざした。

 これで優斗は、中堅冒険者になった。


 これまでと違い、Cランクからは冒険者としての義務が発生する。

 冒険者の義務は主に2つ。

 一つは、クロノスへの貢献だ。

 一年間で一定の貢献を行わなければ、冒険者ランクが降格してしまう。

 Cランク以上の冒険者は、定期的にギルドの依頼を受ける必要があるのだ。


 もう一つは、緊急時のギルド招集、あるいは命令に応じる義務だ。

 クロノスの外には魔物が生息しており、これが街に襲撃してくる可能性がある。


 またクロノスの中にも魔物はいる。ダンジョンの中だ。

 神殿が魔物を封じているとはいえ、人間なる身では、本当に魔物が溢れ出ないと確信出来ない。


 ギルドでは魔物の襲撃があった際に、冒険者に緊急招集をかける。

 Cランクの冒険者になると、その招集に応じる義務が発生するのだ。


 Cランクに格上げされたということは、いずれの義務にも応えられる実力があると、ギルドに認められたということなのだ。


 これまでなかった義務と信頼に、優斗は身が引き締まる思いだった。



 ギルドカードを受け取った後。

 エリスと別れた優斗はデイリークエストを消化して自分の部屋に戻ってきた。


「さてさて。ステータスはどうなってるかなぁ!」


 そう声を弾ませて、優斗はスキルボードを取り出した。


○優斗(18)

○レベル22→26

○スキルポイント:1→25

○スキル

・基礎

 ├筋力Lv4

 ├体力Lv3

 ├魔力Lv2

 ├抵抗力Lv0 NEW

 └敏捷Lv3

・技術

 ├剣術Lv5┬

 ├魔術Lv2

 └気配察知Lv2

・魔術

 <ライトニングLv2>

・特技

 【急所突き】【破甲】


「おおー! レベルとスキルポイントがかなり増えてるし、新しいスキルも追加された!」


 自らのステータスの変化に、優斗は歓喜した。


 ギルド依頼をクリアする傍ら、優斗は同時にクエストの消化も行って来た。

『各種モンスターを100匹倒せ』が十階分に、『魔術を100回使え』、『ベースダンジョン10階に向かえ』。


 ダンジョン10階に到達すると、5階の時と同じようにチェインクエスト『10階のボスを討伐せよ』が出現した。それも、クリアした。


 最後に、『魔術を100回受けろ』。

 合計で14のクエストをクリアしたことになる。


 これほど大幅にステータスが上昇したのは、そのためだ。


「新しいスキルは、きっと『魔術を100回受けろ』のクエスト報酬だよね」


 抵抗力は、魔術への耐性を底上げする基礎スキルだ。

 その効果を考えれば、優斗はどのクエストのクリア報酬かが一発で想像出来た。


「もしかして、この抵抗力を上げれば新しい防具も少し節約出来るかもしれないな……」


 今後、優斗がダンジョンの先へと進むのであれば、魔術を使う敵との戦闘は避けられない。

 先日戦った、ダークビットマジシャンのような敵が、普通に現れる。


 そのため防御力だけでなく、魔術抵抗力も高い防具を購入しなければと考えていた。

 しかし、両方を兼ね備えた防具は高級品である。


 もしスキルで抵抗力を底上げ出来るのなら、防御力の高さだけで防具を選べる。

 ――少しでも出費を抑えられる!


 優斗は以前よりも稼げるようになってきたが、節約癖は健在である。

 費用が節約出来るのなら、節約したい優斗だった。


 早速優斗は抵抗力にスキルポイントを振り分ける。


「ついでに、基礎を全体的に底上げしようかな」


 基礎はすべてにおける基本だ。

 これが高ければ高いほど、冒険者としての戦闘力が上昇する。

 技術スキルを、より効率的に運用出来るようにもなる。


 なので優斗は基礎全体を、一定まで上昇させた。


>>スキルポイント:25→0

>>体力Lv3→4

>>魔力Lv2→4

>>抵抗力Lv0→4

>>敏捷Lv3→4


 体力・抵抗力・敏捷は、近接戦闘になくてはならない。

 近接戦闘に無関係な魔力も一緒に上昇させたのは、魔術の発動回数を増やすためである。


 現在、優斗はライトニングを連続で3回発動するのが限界だ。

 だがこれが5回、6回と連続使用出来るようになると、近接戦闘時に魔術を気軽に織り交ぜられるようになる。

 優斗の戦闘の幅が広がるのだ。


「よしよし……。これで基礎はしばらく大丈夫そうか……ん?」


 スキルを振り終えた後、スキルボードにポップアップが表示された。


『基礎スキルの統合が可能です。統合しますか?』

・YES ・NO


「統合……?」


 優斗は首を傾げる。

 統合したらどうなるのかが、わからない。

 だが、スキルボードが薦めているのならと、優斗は深く考えずに『YES』に触れた。



・基礎      ・基礎

 ├筋力Lv4 → └全能力強化Lv4

 ├体力Lv4

 ├魔力Lv4

 ├抵抗力Lv4

 └敏捷Lv4


「あっ、そうか、全能力強化か!」


 統合されて出現した新しいスキルを見て、優斗は膝を拍った。

 全能力強化というスキルについて、優斗は小耳に挟んだことがある。


 曰く、冒険者の中で数万人に一人しか持たないといわれる、希少なスキルである。

 たった1つあるだけですべての身体能力を強化することから、基礎スキルにおける『上級スキル』と言われている。


 それを、まさか自分が入手してしまうとは……。


「どど、どうしよう……!」


 突然の出来事に、優斗は取り乱し震えた。


「……ひ、ひとまず次のレベルに必要なポイントを確認するかな」


 全能力強化は、基礎の上級スキルと言われている。

 いままでと同じポイントで成長するものかどうか、優斗は気になった。


 上級スキルなのだから、少しくらい高いだろうと考えていた優斗だったが――。


>>スキルポイントが20ポイント足りません。


「…………」


 あまりの要求スキルポイントの高さに、固まった。


「……うん、まあ……うまい話はないよね」


 全能力強化をレベル5にするために必要なポイントは20。

 統合する前のスキルの数は5つ。レベル4から5に上げるために必要なスキルポイントは、一つあたり5ポイントだったので、すべて上げようとするなら25ポイント必要となる。


 スキルを統合したことで、スキルレベル上昇に必要なポイントが少なくなった。

 しかし、多少である。


 スキルポイントを一度に20も要求するのは、さすがに重すぎる。


 統合する前であれば、個別にスキルを上昇させられた。

 それも、統合後よりも圧倒的に少ないポイントで、だ。


「これだったら、統合しなきゃ良かったかもしれないなあ……」


 優斗はがくっと肩を下げる。


「でも、ゆくゆくはこれが一番かもしれないし……」


 現時点では、メリットよりもデメリットの方が高く感じられる。

 だが、それは今だけだ。


 いまは恩恵が非常に少なく感じられても、スキルレベルが6・7になるに従って、要求ポイント減少の恩恵は大きくなる。


 数年後には、必ず明確な違いとなる。


 現在の優斗がやるべきことは、一つだ。

 少しでもクエストをクリアして、経験値とポイントを稼ぐこと。


「うん、クエスト攻略を頑張ろう!」


 優斗は気持ちを立て直すのだった。

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