インドアの僕を外へ連れ出してくれた子
早起ハヤネ
第1話 桜なのに梅
この日は久しぶりに星型に型取りしたバターの味を強くしたクッキーとカボチャを混ぜたクッキーの二種類を作ったので、ほしいという女子たちに順番に配って回った。初めてクッキーを配った時、男子の分もいくつか用意していたのだが、ドン引きされたので、男子はやめた。
「樫野くんって絶対女子力高いよね」
「なんでクッキー作ろうと思ったの?」
「他になにか得意なものはあるの?」
「ケーキケーキ! 今度ケーキ作ってよー」
「チョコチョコ、チョコがいい〜」
「将来はやっぱりパティシエをめざしてるの?」
パティシエをめざすかどうかはわからなかった。今は趣味の範囲で作っている。母親がお菓子作りが好きな人で、自然と樫野も教えてもらい作るようになった。
今度は、ガトーショコラにチャレンジしようと考えた。
先日の中間試験の世界史Bのテストで、偶然同じ点数を取り、偶然同じ箇所を間違えた女子がいた。間違えたのはイージーミス、メソポタミア文明とインダス文明を取り違えてしまった。
「うっそー」
「世界地図見たら、全然違う場所だよね」
最近よくしゃべるようになった桜なのに梅ちゃんの桜井小梅にもクッキーを配ろうとしたその時、彼女が読んでいる本が偶然目に入った。
『モテる男の趣味、登山』
樫野は吹き出した。
「桜井さん、そのタイトルなに? ウケるんだけど」
「あ、知らない? これ超有名な雑誌なんだよ」
「そうなの? でも、高一の女子が『モテる男の趣味、登山』って。ゲラだよゲラ。いいセンスしてるね〜」
「登山が好きなのは本当だよ」
「ヒグマとか怖くないの?」
「出たら怖いけど、実際、ほとんど遭遇することはないからね」
「どんなところが楽しいの?」
「日常では味わうことのできない刺激というかスリルを味わえるところかな」
山のことを話す桜井は生き生きと輝いていた。教室では見たことのなかった姿だ。
「確かに日常は退屈だよな〜」
「樫野くん、休日はどんなことしてるの?」
「お菓子作ったり、定額の動画サービスで映画見たり、ゲームやったり」
「外には出ないの?」
「あまり出ないかな。インドアだから」
「たまには外に出ておひさま浴びないとダメだよ」
「おひさまねぇ」
休日に浴びるのは、窓から降りそそぐ日差しくらいのものだった。
「今度、一緒に登山行かない?」
唐突だったが、聞いてみると、女子たちを誘っても誰も行かない、興味ない、と言われるらしい。日焼けするからイヤとか、メンドくさい、疲れる、虫がウザい、とか、そもそも興味すら持ってもらえないようだ。まぁわからんでもない、と樫野は思うのだった。
「日焼け? でも桜井さんは全然日焼けしていないよね。むしろこの教室のどの女子よりも白いと思う」
「私はちゃんと日焼け止めクリーム塗ってますから! 帽子でも紫外線対策は抜かりなくやっております」
彼女の話によると一人でも登山にはよく行くようだが、たまには登山の感動を分かち合える同行者が欲しくなるという。登山が好きだという女子もいないため、彼女たちの仲間に入ってもあまり楽しめないことも多いようだ。
「いいよ。行こう」
「やった!」
カラオケとかありきたりなものに誘われるよりは、ずっと楽しそうだった。
「ところで、登山ってなにを用意すればいいの? よくテレビで見かけるカマみたいなヤツいるの?」
「あれは、クライミングとか上級者が使うヤツだよ。樫野くんは初めてだし、危険な山には連れて行くつもりないから、登山シューズとリュックがあれば十分だと思うよ」
「リュックはあるけど、登山シューズはないなあ。スニーカーじゃダメなの?」
「底がすべらなければスニーカーでもいいと思う」
「でもせっかく行くからには、登山シューズ履いて登りたいね」
「そっか。そうだよね〜じゃあ、今日の帰り、登山専門店に行ってみない?」
「登山専門店か〜いいね〜やる気出てきた」
「樫野くんが興味持ってくれて良かった」
「映えスポットへ行くとか、そんな退屈なモンじゃなければ、大抵興味は持つよ」
「あ、そうだ! クッキーのお礼言ってなかったね。ありがとう。女子力高いね!」
普段見たことのないテンションの高い桜井の姿に樫野は押され気味だった。
放課後、行きつけだという登山専門店へ立ち寄ったものの、思っていたよりも高価だったので、買うものを決めてから、後日、樫野一人で買いに行くことになった。
今週の土曜日にバスを乗り継いで『
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