第17話 練馬の幼馴染み5

 場所は変わってファミレス。四人掛けのテーブルに片側は練馬、小南、そして反対に俺と吉田が座している。



「それじゃ、ささっと恋愛相談片づけよう!」

「ちょいちょい、せっかくドリンクバー頼んだんだから本題より先にまず飲み物だろ」



 早々に本題へと入ろうとする小南に練馬がそう言うと、小南は「それもそうだね」と頷き、吉田に顔を向ける。



「じゃあ眼鏡君とってきて。あたしオレンジジュース」

「めがね…………わかったちょっと取ってくる。花川と練馬は?」

「あ、俺も」



 吉田一人では大変だろうと次いで俺も立ち上がろうとするが、はす向かいに座る練馬が手で制してきた。



「いや俺が行ってくる。鋼理と美波は窓側の特権を満喫しててくれ」

「え、そ、そうか。なら俺はカフェオレを頼む」

「あいよ」



 たかが数分でも二人っきりは嫌ということだろうか。それとも窓側の使命か。

 吉田に続いて席を立つ練馬の背を見て俺はそんなことを思った。



「…………」

「…………」



 さてさて残された俺と小南はこの気まずい空気をどう満喫すればいいというのやら。


 ちらと小南を盗み見ればつまらなそうにスマホを弄っている。さっきまでの明るさは潮が引くように見る影もない。

 沈黙に息苦しさを感じてるのは俺だけってことか。


 それならばと、俺も窓の外に意識を向けた。何か話さなければと思うから沈黙が気になるのだ。はなから沈黙が普通の薄い関係と決めてかかれば苦ではない。



「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」

「あ、はい」



 が、気まぐれなのか話しかけられ、俺は居住まいを正し小南に向き直る。



「どうしてあたしとがっくんのデートを邪魔するの? あんた達、空気読めないの?」

「えっと、それに関してはですね、深い理由があるというか、やっぱり浅いというか……」



 言い淀む俺に、小南はスマホを置き真顔で口を開く。



「もしかして、あんたか眼鏡君のどっちかあたしのこと好きなんじゃないの? だからわざわざ来るんでしょ?」

「それは違いますね」


「そう考えるとあんたがあたしのことが好きって方がしっくりくるんだよね。恋の相談って実はあたしのことなんじゃないの?」

「だから違いますって」


「あたし的には結構キュンとくる想いの伝え方だったけど、見破られちゃうようじゃ甘いね。まあそれ以前にあたしには別に好きな人がいるから、いくらサプライズしようが気持ちには応えられないんだけど。ごめんね」



 吉田! 練馬! はやく戻ってきてくれッ! このお姫様、俺には手に負えん!


 否定しても小南の耳には届かず、彼女は勝手な解釈を流れるように垂れ流した。そして何故か俺が振られたみたいな感じになってる状況になり、心中で救いを求める叫びを上げる。



「ほい、持ってきたぜ」



 その声が届いたのか、練馬と吉田は両手にドリンクを持って戻ってきた。



「ありがとう。がっくん!」



 練馬から受け取った小南に恋する乙女の笑顔が戻る。



「んじゃ、改め直して恋の相談を受けるとすっか」

「それならもう解決したよ、がっくん。ね?」



 練馬が場を仕切ろうとした時、向かいに座る小南がそう言って俺に同意を求めてきた。



「え、そうなの?」

「ほんとか、花川」



 男二人から確認の声を向けられ、俺は引きつった笑みを浮かべる。



「駄目だよ二人とも。これはあたしと花川の秘密」



 ただ一人、良いお姉さんみたいな雰囲気を醸し出している小南だけが呑気だった。



「さて、相談も終わったし、これ飲み終わったら帰ろ? がっくん」

「え、お、おう」



 困惑する練馬と吉田、そして俺は何も言えずただ小南に従うしかなかった。というより反抗する気力がなかったというべきか。


 結局、終始甘ったるい小南に振り回されるだけ振り回され、最終的に俺が振られるという悲惨な一日となってしまった。

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