第16話

 次の日もその次の日も、次の週もその次の週も、次の月もその次の月も、今日みたいな日が続きなんだかんだで三ヶ月が経った。特に代わり映えのない三ヶ月だったが佳華や雨嶋と過ごしたこの三ヶ月は僕の学校生活の中で一番有意義な日々だったのかもしれない。途中夏休みを挟んだが化学部には顔を出したりして佳華ともちょくちょく会っていた。そして地球温暖化どうこうで異常に暑かった夏とその暑さが残り続けた秋前半が終わり十月に入った。そういえば佳華と三日後デートに行く約束をした。いやまだ恋人と呼べる関係ではないのでデート言えるかどうかは微妙だがとにかく出かける予定がある。まあ佳華プロデュースで僕はどこに行くか知らないのだがな。楽しみと言えば楽しみだ。だがこの日、そんな日々は終わりだと告げるかのようにある男が現れた。なんでもありの神様を名のるあの男が……。






 朝のホームルームが始まる前はクラスメイトどもがうるさい。僕に喋る人がいないという理由もあるだろうがというかそれがほとんどだが不愉快である。僕は嘘しか言わないが不愉快だと思った時は大体が本心だ。つまり今は彼らを本当に嫌悪している。まったくその私語を死語にしてやろうか。おっとこれは失言。近頃は人の心を読める奴とかいるからな。用心しないと。そんなことを警戒しているとガラガラと扉が開き見覚えのある人物が入ってきた。


「黙れ。教室の外まで聞こえてるぞ。私語を死後にしてやろうか」


 な。言っただろう。心を読める奴がいるから用心した方がいいと。いやそんなこと言っている場合ではない。あいつは……、あの男は……、


「俺の名は神ノ原神。今日からお前らの担任だ。せいぜい俺のために働け」


自称神だった。






「あいつのことどう思う?」


 休み時間になったので今朝、神ノ原が学校に来たことについて佳華の見解を訊いてみることにした。


「あら、心配しなくても私はあなたの方が好きよ。悠斗君」


 いきなりデレやがった。この時はほんの少し照れていたかもな。もちろん向こうの方が。


「そういうことじゃなくて何であいつがここに来たと思う?」


「それは十中八九私の力のことが関係しているでしょうね。それともあなたがつるんでいるあの女、確か雨嶋だったかしら。そいつのことじゃないの?」


 随分と雨嶋を敵視した言い方た。同時にあいつ死んだなとも思った。すると


「三年二組の佳華さん。職員室まで来てください」


と放送が鳴った。


「何かしたのか?」


「馬鹿なの。私のようなかわいくて善なる心を持つ人間が何かすると思う?刺すわよ」


「善なる心を持つ人間は人のことを刺さないと思うぞ」


「……。多分私の力のことで何か話があるから呼ばれたのでようね」


 こいつ。都合が悪くなったから話を逸らしたな、と思ったが何も言わないでやった。僕もよくやることだ。人のことは言えない。


「それじゃあ。行ってくるわ」


「おう。行って来い」


 佳華と言葉を交わしてからかれこれ放課後まで時間が経った。あいつはあの休み時間が終わる前には帰ってきたがその表情は暗かった。何かあったのだろうか?まあ一緒に帰るわけだしその時に聞いてやるとしよう。


 僕は校門へ向かう。佳華と知り合ってから三ヶ月待ち合わせの場所は変わっていない。別にどうでもいいことだが。校門に着くとやっぱり彼女は僕より先にそこにいて僕を待っている。佳華は僕に気づき僕を一瞥する。


「ねえ。鳴宮君。あなたは私の力のこととかで気を遣って今でも一緒に帰ってくれるのだと思うのだけれど正直邪魔なの。だから――」


「そうか。じゃあこれから一緒に帰るのはやめよう」


 邪魔だと思われたのなら仕方がない。こいつの意思を尊重すべきだろう。


「それともう私に関わらないで欲しいの。その迷惑だから」


「そうか」


「それじゃあ。さようなら」


 なんのことはない。元々勝手に首を突っ込んだことだ。拒絶されてしまえば手を引くのが道理だろう。別れ際が下手くそな男にはなりたくない。彼女は踵を返して僕のもとから去って行く。彼女の隣には誰もいないが不思議とそれが一番自然な感じがした。佳華は空を飛ぶわけではなく、パッとその場から消えるわけでもなく、地に足をつけ歩いている。これが一番正しいのだと、ずっとこうしていたかったと、誰かに訴えるように……。

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