第11話
今日は学校に早く着いた。というか一番乗りだった。流石に今日は猫がひかれるところを見ることはなかった。僕は教室に入り誰もいない教室というのを楽しみつつとある席に座る。僕の席だ。嘘だ。別の奴の席だ。僕の次に教室に入る奴の席だ。
教室の扉がガラガラと開く。
「よう。佳華」
僕はこの席の所有者に爽やかな挨拶する。いや爽やかではなかったな。
「あなた。なぜこんなところにいるの?」
佳華は怪訝な表情でこちらを見る。
「ここの学校の生徒だからだよ」
「そうだったの?」
「知らなかったか?」
佳華はたいそう驚いた表情でこちらを見ているが驚いているのはこっちだ。ん?なぜ佳華が次にここに来るかわかったかって。彼女はこの学校に来るのが一番早いからだ。有名な話だ。僕が特別彼女に詳しいわけではない。僕が一番手に来たならば次に来るのはいつも一番手の佳華になるというわけだ。
「あなた名前は?」
昨日言ったはずだが聞いてなかったのか?いちいち失礼な女だ。
「鳴宮悠斗」
「鳴宮?あなた自体はそれほどかっこよくないくせに名字だけは無駄にかっこいいのね」
「それほどかっこよくないは余計だ」
本当に余計だ。なんなら邪魔だ。
「じゃあとりあえずごみ宮君とでも呼びましょうか」
「無駄にかっこいいだけでごみ呼ばわりか?」
確かに僕はゴミみたいな奴だがわざわざそれを名前にするのは失礼極まりない。
「当たり前でしょう。それよりごみ宮君。わざわざ一番に教室に着いてまでなぜ私の席に座っているの?変態なの?」
佳華は酷く冷たい目でこちらを見る。こいつ口先の勝負で僕と戦うつもりか?いいだろう。クリークだ。
「お前は男に席を座られただけでそういうことを意識してしまうのか?意外とうぶなんだな」
「私はあなただから警戒しているのよ。ごみ山くん」
名前の唯一あっていた部分を間違えやがったがそのことはあえて無視だ。
「それは僕を意識しているともとれるがな」
「そうよ。意識しているわ。危険人物としてだけどね」
降参。敗北である。どうやら完璧美少女に唯一勝てそうな口先で負けたらしい。いや負けることにおいてはこの女に勝っているのではないか、と思ったがそれは負け惜しみだった。
「お前はあれだな。ポケモンで言うと毒タイプだな」
「あら、独タイプならあなたも同じでしょう?」
「ポケモンにそんなタイプはない」
佳華真音という女は昨日のことを省くと今日が初めて面と向かって話すのにも関わらず生き生きと毒を吐いてくる女だった。
「まあなんだ。ちょっと言いたいことがあってな。昨日のことなんだが僕にしてみればあんなこと興味にすらなりえないことだ。要するにどうでもいいことだ。そして僕はどうでもいいことはすぐに忘れる。良かったな。お前の秘密は守られるぞ」
そう言うと彼女は驚いていた。
「あなたってそんな目をしているのに割と気が利くのね」
彼女は笑った。その儚げながらも凛とした笑顔を見て自分の目のことを卑下されているというのに不覚にもかわいいと思ってしまった。嘘だ。いやそれが嘘かもしれない。
「いやー。青春ってやつだねー」
その声を発したのは僕でも佳華でもない。
「おっ、いい表情だ。お前はそんな表情でも絵になるな。佳華真音」
声の主は教卓の上に座っていた。スーツ姿の中年の男で偉そうに足を組んでいる。
「知り合いか?」
少なくとも学校の職員にこんな奴はいないだろう。だとしたら佳華の、不思議な力関連の、知り合いなのだろうというよみだが
「違うわ」
外れたらしい。こんな奴が将来探偵になっていいのか。
「あなた誰?」
佳華は男に問う。
「俺か?俺の名は神ノ原神。崇めよ、奉れ。俺様は神様だ」
は?こいつは何を言っているんだ。神だかごみだか知らないが通報した方がよさそうだ。
「ごみはお前だろ?ごみ宮悠斗」
ん?今の声に出てたか?
「俺は神だぜ。全知全能だ。人の心ぐらい読める。だが今の登場は無粋だったな。反省しよう。お前らは今だけしかできない初々しい会話を続けろ。あと小野坂圭吾(おのさかけいご)という男には気をつけろよ。じゃあな」
と、言い残して神を名のる謎の男は窓から飛び降りた。ん?おい何やってんだ。急いで窓の下を見るとそこには飛び降りたはずの男の姿はなかった。下ではなく上にいた。自称神様は空を飛んでいた。駄目だ。よく分からん。
「何だったんだ?」
「さあ、分からないわ」
彼女は少し不安そうに言った。
「なんだったら今日一緒に帰るか?」
「なにそれ気持ち悪い」
「それはないだろう」
「そうね。今日は特別に私と共に帰ることを許可するわ」
猫を生き返らせることができる毒舌女に、空を歩き人の心を読める自称神、か。ただでさえ噓っぽい僕の物語がさらに嘘っぽくなってしまうな。
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