第3話 どちらが味方?
「何者だ!」
「いや〜お嬢ちゃん、知らない人に付いて行っちゃダメでしょ?」
私達の目の前に立った男性がそう言う。そして、ハッとした。もしかして、この警察官らしき人はテロリストの仲間だったのか?
だが、間違いなく本物のテロリストの人が警察官を殺そうとしてた。それを考えると、演技でない限りありえない。
「私は部隊の人間だ。証拠を見せてもいいぞ?」
「いや、本物なのは分かるよ。けどさ……その子をどうするつもり?」
「保護をする。ただ、それだけだ」
「やっぱりね。それは見逃せないなあ」
ずっと口元が笑っている男性。話し方、表情からすればこの人の方が圧倒的に怪しい。しかもジリジリと距離を詰めている。
……ちょっと怖い。どっちが悪い人だ?
「君、光ちゃんだよね?」
「は、はい」
「さっきまで男女2人と一緒にいたでしょ? 俺は彼らの仲間だよ。1人の名前は渚だろ?」
渚さん達を知っているのか? だけど、私を捕まえる為に調べたことかもしれない。
というか、私を捕まえてメリットなどあるのだろうか? 顔にはニキビがあるし、美人とも可愛いとも言い難い顔。顔立ちが良いとは言われたことがあるが、見た目でモテることはまずない。巨乳でもない。ただの女子高生。
「も、もう1人の名前は……何ですか?」
「ごめんね、そっちは言えないんだ。おっと、電話だ。もしもしー」
ポケットからスマホと思われる携帯を取り出して電話をし始める。この世界と携帯は同じのようだ。
一方、警官と思われる人はこの隙に逃げようと考えているようだ。私の手を掴んで私に目配せしてくる。
「そっちはどうなっている?」
「今、目の前にいるけど捕まっちゃってるわ。どうする?」
周りにもはっきり聞こえる音量で電話の内容が聞こえる。わざとだ。
そして、その電話の相手の声は間違いなく渚さんだった。
「仕方ない。やっていいぞ」
「了解」
「光。今、隣にいるやつからは逃げろ。いいな?」
「えっ、あっ、はい」
思わず反射的に言ってしまったが、何故隣に人がいることが分かったのだろうか。周りを見渡しても渚さんの姿は見つからない。
いや、先程の会話で伝わるか。「捕まっちゃってる」と言ってたし。
それに、逃げろと言われても腕を掴まれたこの状況では、力の差がありすぎて無理だ。
「んじゃ、質問追加するね。どうして保護するの?」
「ここは危険だからだ。それに、お前のような奴もいる」
「俺が誘拐犯とか思ってる? それかテロリストの仲間とか?」
「両方に決まっている。さあ、行こう」
気付けば男性の右手には銃が握られていて、男性に銃を向けながら私の手を引いて走った。男性がもし動いたら、撃つぞという意味なのだろう。
「それなら『先に逃げろ』とか言った方が安全でしょ。腕も掴んでるし。狙いが分かりやすいよ」
そんなことを言いつつも、男性は両手を上げて、降参だといったような顔をしていた。
だが、その表情には不敵な笑みを浮かべていた。
「……その子、持ってるんでしょ?」
そう言った瞬間、男性の姿が消えた。警官と思われる人は驚き、慌てて銃を撃った。だが、適当に撃ったため、当然だが当たることはない。
「ぐあっ」
そんな声とともに、気付けば警官と思われる人は倒れていた。
その隣にはあの男性がいた。警官と思われる人は意識を失ったようでピクリとも動かない。
……え、何が起こったの。
「よし。怪我ない?」
「はい……えーと、これは?」
「詳しい説明は後にするね。セバスさんがもうすぐ来るから」
やはり信頼すべきなのはこの人なのだろうか。だったらこの警官と思われる人は一体何なのだろうか。誰も信頼できない。
疑心暗鬼が止まらないが、もうどうしようもない。この状況でこの男性から逃げることはできないだろう。
さっきの話からこの世界に超能力があると仮定すれば、瞬間移動か時止めの超能力とか、との辺りを持っているだろう。まず逃げられない。
「お待たせしました。少々手こずりまして……」
私たちの横にリムジンが止まり、あの時のセバスさんがリムジンの中から出てきた。
セバスさんの体には傷がついていてところどころ服に血がついている。セバスさんの方も何かあったのだろうか。
「いや、丁度いいですよ。とりあえずここから逃げましょう」
さっきのチャラいタメ口で話していたのが嘘のように一気に敬語になる。声も顔も真面目で真剣になった。歳上だからだろうか。
「ほらほら、乗って乗って」
急かされるようにリムジンに乗せられる。イスに座るとすぐに疲労が押し寄せた。
とても長い時間に感じられたのに、振り返ってみるとあっという間の出来事に感じる。
この数十分間の内容が濃すぎたのだ。時計を見ると分かるが、まだ1時間も経っていないのだ。
「今から行くところは、まあ分かりやすく言えば小日向財閥の所だよ」
「財閥!?」
この世界には財閥が存在するようだ。それに小日向といえば、沙月さんの苗字では?
「あれ、もしかして気付いてなかった? 小日向沙月と言えば、あの有名な小日向財閥の社長だよ? セバスさんの社章、それが証拠だよ」
そう言うとセバスさんは胸元に付けていた社章をわざわざ外してくれて見せてくれたけど、私にはさっぱり分からない。
というか、沙月さんが社長!? 社長令嬢かなとは思っていたけど、まさか社長だったとは……ごめんなさ。全く見えないです。
「超有名人を知らないとはねえ……田舎から来た?」
「はい、田舎です。それも結構な田舎です」
「今時珍しいね。どこ?」
「それは……」
異世界の地名を言っても実際に存在するかも分からない。異世界から来た、と言って信じてもらえるだろうか。
小説とか見ていると何故自分が異世界から来たことを言わないんだとか思ってしまうが、いざ自分がそうなると言えない。今なら理由がよく分かる。
居場所が無くなる、相手にされない。そうすれば元から異世界で居場所も戸籍すらも、何もない私は死ぬ。そんな恐怖がある。
「おっ、2人ともお疲れ〜」
「死ぬかと思った! 何あの建物、脆すぎない!?」
そんなことを考え込んでいたらいつの間にかリムジンは止まっていて、沙月さんと渚さんが乗ってきた。服は汚れてしまっているが、2人とも無事だったようだ。大きな怪我もなさそうだ。
「対策していない建物だ。無理もない。あいつら相手じゃあんな建物は一瞬だ」
「対策の義務化しろよ、って思うわ! いくらなんでも酷すぎでしょ!?」
「義務化できても費用が高すぎて無理じゃない? そもそも義務化できるかも怪しいし」
言っていることは何となく理解できるが、全く話に入れない。完全に置いてけぼりである。
そういえば、1つ確かめておきたいことがあった。
「あの、沙月さんたちこれに乗って大丈夫なんですか? 誘拐犯として警察に捕まったりとかしませんか?」
親の許可なしに未成年を連れ出せば、誘拐罪だ。異世界だから保護者もいないし、戸籍も何もないから、許可とかはどうなのかはあれだけど。
法律については詳しくないので断言はできないが、罪に問われる可能性もあるかもしれない。
「大丈夫、大丈夫! さっきのテロでこの辺一帯の防犯カメラ全部死んでるから!」
「あいつらも顔見られたくないからねー。全部壊されてるかハッキングでやられてる、ってこと」
沙月さんの説明に補足するように男性がそう続ける。それなら確かにバレないだろう。
「さて、説明することが多すぎて大変だなあ……」
「そもそも入るかも決まってないだろ」
私の話のようだ。何に入るのだろうか。孤児院か?
「っていうか、この子相当な田舎出身みたいだよ? 小日向財閥の名前出しても知らないみたいだし」
「やっぱりか。私の名前出しても反応しないし、超能力のこと話してもピンときてなかったみたいだから変だとは思ってたよ」
「えっ、超能力までも知らないの?」
「一応、知ってますけど……」
超能力が何かと聞かれれば分かる。そういうアニメや漫画、小説は色々見てきている。
だけど、全員の表情からして、そういうことを求めているわけではなさそうだ。何か別の理由があるようだ。
「お嬢様、まもなく到着致します」
目の前には大きなビルがーーという訳ではなく、低い建物。駐車場らしい。
ただ普通の駐車場というわけではなく、機械が動いているので、地下に伸びているのだろう。料金表があるところを見ると、有料らしい。
「一応、ここも私の所有地だからね」
「そうなんですか?」
「そう。目的はこの先だから」
そう言って沙月さんが何やら意味ありげにスマホを操作すると床が動き、リムジンごと地下に降りていく。まるでエレベーターのようだ。
最深部と思われる場所で私たちは降ろされた。辺りを見渡しても何も無い。
強いて言うならば、いつの間にか天井ができていたということくらいだ。5mくらいの高さがあるだろうか。
「開けて」
沙月さんはスマホでどこかに電話をかけているようだ。そう言うと空中にパネルが現れ、暗証番号を打っているようだ。私が元いた世界ではこんな技術はない。未来の技術だ。
「はい、入ってね」
気付けば、何もなかった壁に扉ができている。
沙月さんがその扉を開けると、まるで高級マンションのように広くて綺麗だった。派手ではないが、高価そうな物もある。
扉の外側から見ただけでは壁が全く見えない。どのくらい広いのだろうか。
「ようこそ、群青隊へ!」
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