16話 人の想いが詰まったレコード

『渓谷・B地点』



「反乱軍共め!」


最初に発砲したのは、装甲騎兵の方だった。

それを合図に、装甲騎兵の機体に銃撃が降り注いだ。


渓谷には、硝煙の匂いと銃撃の乾いた音、そして、装甲騎兵が砕け散って行く音が響き渡った。


装甲騎兵たちは、雨の様に降り注ぐ弾丸を避ける術を思考した。


さっきまで自分の機体だった物が、壊れた機械に変って行った。

スイッチをオフにするように意識が消えるのは、理解している。

バックアップしてある記憶に戻るだけだ。


ただ一機の装甲騎兵の記憶装置が吹き飛ぶ寸前に、気に掛かったのは裏コードの存在だ。裏コードを使って何者かによって、記憶が改ざんされていると言う噂だ。


全く違う記憶を信じて生きて行く可能性がある。

一機の装甲騎兵は、破壊されていく自分を感じながらも、偽りの記憶に対する憤りを感じた。




『ソフィーと参謀の思考内』


ソフィーは、参謀兵を通して、その様子を見つめた。

数の差と地の利の差から、アローン兵の格好の標的となった装甲騎兵は次々と砕け散っていった。


5000年前、人類だった頃の記憶が入った記憶装置と伴に、装甲騎兵は砕け散って言った。


>私は考えます。

>人類は5000年前、自らの肉体が滅びると同時に、

>記憶も滅び去ってしまうべきだったのではないかと。


参謀の言葉が、ソフィーの思考回路を巡った。

5000年も時間があれば、そんな事を何度も考えた事はある。


しかし、惑星最強のアローン兵の参謀に言われると、心がざわつき、自分の記憶の危険すら感じた。


>この硝煙と銃撃と騎兵が砕け散る様子は、

>古びたレコードが砕け散って行くのと、何も変わりはありません。


ソフィーは、古いレコードが砕けて様子を思い浮かべた。

古い名曲が収録された黒いレコード。

それが砕けていくのは、それはそれで物哀しい光景だった。

参謀はまだ、音楽の良さが理解するようには出来ていないのだろう。

まだ兵器だから。


>人の想いが詰まったレコードには、なんの価値が無いと思う?


>過去の情報としての価値は理解できます。

>しかし、個体としての私にその価値はわかりません。

>生きてる者達に取っては、貴重な資源となるでしょう。

>ゆえに、それを伝えて行きたいと思うのも、私の意思です。


>意思?!機械のあなたに意思?


>私の意思は、あなたの意思の一部です。


1時間後、ハミルとハミル率いる装甲騎兵2000機は、アローン兵の攻撃によって、セラミックとカーボンの破片へと変わっていた。


>そっか、私の意思でもあるんだ。


ソフィーは自身がアンドロイドであることを、思い出した。




『サマルカンドへ至る道』



「ソフィーちゃん、起きなさい。

朝だよ!そうですか、目覚めのキスが欲しいんですね?」


参謀との会話に集中し人形の様に動きを止めたソフィーに向かって、デューカは言ってみた。


「この状況でふざけてる場合ではないぞ。

そろそろ動かないと、怪しまれる」


コーリーは、デューカとは気が合わないらしく、無表情のまま正論を言った。


「そうだな」


デューカも、コーリーとは気が合わないのが解っているらしく、無表情のまま返答した。


サマルカンドへ向かう車道には、動きを止めたアローン兵が乗る車両400台も、アローン兵同様動きを止めていた。




つづく




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