神ですが引きこもってたら異世界転生させられました、泣きたい

文屋旅人

Prologue 異世界転生させられました、泣きたい

 初めまして、私の名前はツクヨミです。

 えっと、日本神話の月の神です。

 姉にアマテラスという喪女、弟にスサノオというDQNを持つ真ん中です。世知辛いポジですね。

 はい、気が付いたら……

「その……申し訳ありません……私の手違いであなたを巻き込んでしまいました」

 目の前にすごく礼儀正しい七つの首を持った似十本の手を持ち下半身がナメクジの美女がいました。

 いや、顔は美女だけどええー、ってなるわ。

「えっと、手違いとはどういうことでしょうか?」

 とりあえず、この人も私と同じ多神教の神だと思われるので、礼儀は払わないと。異文化交流大事。

「本来ならば……文化的に柔軟性が高い日本人を私が管理する世界に送ろうと思ってたんです」

 なるほど、確かに日本人は全体的に異文化に対する嫌悪感が薄い。

 それで日本人に目を付けたのでしょう。

「手違いで……貴方が引きこもっていた場所ごと転位させられてしまったのです」

「ファック」

 なんてことでしょう。

 こいつ、目の付け所は褒めてやらないことはないですがそれで私を巻き込むとはなんというひどさ。

「しかも、貴方と同格の方々まで巻き込んで転生させてしまったんです……どうしましょう」

 何てことでしょう、今日は厄日だ。

 まさか神という存在が来てるのですか? こっちに?

「で……ほぼ確実にあなたでないと抑えきれません……」

「……仏陀shit!」

 ついつい出来の悪い、引きこもり中に見た映画のセリフを吐いてしまいます。

 くそっ、厄日だ。厄日にもほどがある。

 大体私の役目はいつもそうだ。責任を考えず勝手に引きこもる姉に責任なんて素知らぬ顔で無視する弟のしりぬぐい。

 おかげで私自身は後世の日本人によくわからない存在といわれているそうじゃないですか。

 そりゃそうですよ!

 姉が引きこもれば姉がやってた管轄を全部私が引き受けて、栄養ドリンク飲みながら徹夜! 弟がばかやって追放されたらその分の管轄は全部私に襲い掛かる! そんなもん自分の独自性なんて出している暇なんてないんです!

「……えっと、とりあえずどうやったら戻ります?」

 まぁいい、とりあえず聞いてみましょう。

「はい、魔王を殺したら戻ります」

 よし殺そう。

 姉がはまっていたニヤニヤ動画にあった、RTAというものを実際にやってやろうと思いました。

 心の底からそう思いました。

「では、さっさと魔王とやらをぶち殺すんで現場に送ってください。こう見えても弟が化け物退治しているのを見ているのでコツはわかります」

 あれですよね、とりあえず魔王とか八岐大蛇とかは酒で酔わせて首を斬ればいいんですよね。

 ええ、やってやります。

「えっと……武器などは……」

「大丈夫です、今姉の部屋から草薙剣をかっぱらってきました」

 元々弟の持ち物から姉の持ち物になって、今では姉の子孫の天皇家の所有物だが、ちょっと大叔父が使うくらい彼らも許してくれるでしょう。

「うわ、すごい剣ですね……」

「並大抵の化け物なら殺せるんで早く行かせてください。私ものんびり引きこもり生活をしたいんです」

 正直、他にも神がいるのならめんどくさいことこの上ないので早く終わらせたいのです。というか、さっさと帰りたい。

「はぁ……」

 目の前の神はあきらめたように扉を開きます。

 ふむ、この向こうが異世界ですか。

「ならば、行きましょう」

 あの理想の引きこもり部屋に戻るために、ちょっくら魔王をぶったおします。



          続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る