第9話 ジャヴェル村編 訓練所で試験

見た目は簡単な料理に見えるが、豆のスープ美味い。うますぎる。なにこれ?肉も何か香辛料がまぶしてあるようでうまい。パンみたいな奴によく合う。


「気に入ったみたいだね!!ここの料理はどれも美味しいよ!私もエルフの村から出て来て、始めて食べた時は驚いたもん!!」


キリリも幸せそうに食べていた。


「あらゆる種族の調理師たちが教え合い学び共に作っておるからのう。味は格別じゃ。因みに昼食は一食、ここで食べられる。避難中は三食食べられるが、家を持ったら朝と夜は自炊じゃ。」


「了解。でも食材はどうすんだ?」  


「仕事によって変わるのじゃが、狩組なら獲ったものの2割はもらえるんじゃ。その場で別の食材や日曜雑貨と交換もできるようになっておる。」


「なるほど。出来高制か。」


「そういうことじゃな。妾なんかは先生として教えたりして、ラゴルドからみなが納めてくれたものを報酬としてもらっておる。」


「はい。はーい。私は結界師だよ。非番の時は狩組にいれてもらったりしてるから一緒に行くこともあるかもね。だから報酬のもらい方も日によって違うんだよね。」


手を上げながらニコニコでキリリが話してくれる。


「そうじゃな。人によっては報酬のもらい方が複数ある者もおるのう。お前も仕事を複数任せられればそうなる。単発の仕事もあるしのう。2つ以上仕事をした者は報酬も多めにもらえるから大変じゃが貰いはいいぞ。妾なんかは何個かあるからだいぶ優遇されてるしのう。」


「なるほど。わかりやすくていいな。」


「そうなの!私なんかはお母さんが体弱いから、2人で生活をおくる為に2つはしてないと大変なの。まあ、今は2つは必ずできるから楽になったんだけどね。」


「大変だったんだな。」


「そうだね。最初はキツかったかな〜。」


「心配せんでも、男なら問題はあるまい。キリリの所みたいな男手がないとこが厳しいのは致し方ないとこなんじゃ。それでも別の人達より割増で報酬は出ておる。」


「そういうもんか?」


「確かに貰いは良かったよ。うちはお母さんがたまに数日寝込んじゃうことがあるから、キツかったのはその間だけだったよ。」

 

「それ以外じゃと、だいたいは学校で必要なものはそろうからのう。その都度担当者にでも聞いてくれ。飯も食い終えたんじゃから寮長のとこでもいくか。その後、妾は抜けるから2人とも後の案内任せたぞ。」  


「ああ。」


「はーい!」


食堂を後にして寮長との顔合わせと、部屋の案内をされた。


「ほれ、これがここの鍵じゃ。相部屋じゃから今はいないみたいじゃが挨拶はしておけよ。」


メグがお母さんみたいな注意を言ってくる。見た目はどうみても子供なんだが。


「ああ。大丈夫だよ。」


「そうか。なら妾はこれで行くるからの。夕食時にでも会いにくいから後でな。」 


そう言って寮長と共にメグは行ってしまった。正直、これからマリカのところにバルフと行くのが憂鬱でならない。3人で訓練所に向かう。


「そういえば気になってたんだけど、レイはマリカと仲良いよね。一目惚れ的な!!」


キリリが目を輝させながらとんでもないことを言い出した。バルフも咳き込んで慌てているが、ジッと俺を見つめてくる。


「え!?いや、違うよ。多分。俺がマリカと会った時に警戒されてたから迷子だから助けて欲しいみたいなこと言ったからか面白がってんだよ。まあ、俺はなんか懐かしい感じがしたからかな。知り合いではないはずだけど。」


「あっはははは!レイ、すごいね!!それ面白い!初めて聞いたよ。そんなの!」


キリリは腹を抱えながら笑い出した。バルフまで口を押さえながら顔を背けている。が、肩が小刻みに震えている。笑ってる。笑ってやがる。


「な、なるほどな。確かにそれならマリカが警戒心なくなったのも戦いを優先にしなかったのも納得できる。プッ!」


「おい。バルフ。笑い堪えるのをやめろ。俺のこと、どうみてもバカにしてるの丸わかりだ!仕方ないだろう。気付いたら森にいて何も思い出せない、自分が誰もわからないまま数日森を彷徨ってたんだから。やっと会えた人に敵対されたくなかったんだよ。」


「あはははは。確かに。確かに。それはそう思うんだけど、他に言い方あったでしょ!ある意味正解な気はするけど。」


俺の背中をたたきながらいまだに笑うキリリと隠すのをやめたバルフ。さすがにムカッときた。小声でステイルと唱える。姿を消し、気配を殺し2人の後ろに周り2人の脇をくすぐる。


「え!?何?チョッ!やめて。あはははは、笑い疲れてるのにくすぐんないで!あっははは!」


「や、やめろ。マジで!!ってかいつのまに後ろに?クッ。」


2人とも体を崩しながら逃げようとする。


「お前らがふざけすぎたからだ!!」


「ごめん。ごめん。もう笑わないから!や、やめてー!!」


「わ、悪かった。悪かったから。」


2人とも謝ったのでやめてあげる。  


「仕方ないな。」

 

悶えていた2人が後ろを向くと、驚いた顔をしてきた。


「おい!おまえどこにいるんだ?何をした!?」


「え!?なんで声だけするの?」


「あ、これは魔法だ。姿消すぐらいできる奴いるだろう?俺の場合は気配も消せるんだけどな。」   


「いねーよ。そんなの!とりあえず気持ちわりーいから姿見せろ。」


言われて魔法を解く。


「うわっ!!」


「わっ!!」


2人とも急に目の前に俺が現れ後ずさる。


「なんだよ。そんなに驚かなくても。」


「いや、お前おかしいぞ。そんなの聞いたことも見たこともねーよ。」


「そうなのか?まあ、魔法じたいの事がよくわからんからな。」


「なんだよ!それ!!わからないのに使えんのかよ!」


「えっ!?私もわかってないよ!!」


「は!?」


キリリも意外な感じでバルフを見つめる。バルフは俺たちをありえんと言わんばかりの驚愕の顔で見てくる。


「だって、小さい頃から遊んでたから理屈なんかわからないよ!レイもそうなんじゃない?」


「まあ、確かにそうかも。思い描いて魔力を流すだけだからな。」


「そうそう!私もそんな感じ!!」


「マジなのか!?お前ら。俺の努力って。あの姉貴の地獄の特訓を乗り切ってやっと使えたのに…」


なんか肩を落として落ち込み始めた。


「ほら!もう着いたよ。これからマリカに会うのに落ち込んでる場合じゃないでしょ!!」


「痛ぇ!!」


バシッとキリリがバルフの背中を音よく叩き、

そのまま放置して扉を開け中へと入っていく。俺たちも後を追う。

中ではバギとマリカが戦闘訓練をしている。マリカは普通の木刀。バギは木で作られたでかい大刀を構えている。マリカは額から2本の青いツノがでて輝かせている。


2人は木刀をマジ合わせながら一定の距離を保っていた。マリカが後ろに距離を取りながらバギの周りを旋回し始めた。そして再びバギとの距離を縮めながら走ってる勢いのままバギに向かい飛びながら上段から刀を振り下ろす。バギは刀で真正面から受けるが、マリカが受けた瞬間に反動で下斜め後ろに移動して横払いを仕掛ける。


「ほう!なかなか。」


平然と横にして持っていた大刀を持ち替えて地面に剣先を刺しながら自分とマリカの斬撃の間に大刀をいれ受け止める。


「クッ!」


マリカはそのまま大刀を軸として右に木刀を滑らせながら体ごと右に飛びながらバギの後ろをとろうと動く。すぐ様、バギも大刀を軸に右に体をマリカに向けたままになるように周り、後ろに飛びながら大刀を構え直す。


「チッ!」


マリカも木刀を構い直す。すると、しゃがみ込み踏ん張り始める。


女の子だよ。マリカ!あなたは女の子なんだよ!


どうみても女の子がしていい体制ではない。心の中でツッコミをいれる。2人の真剣さから声に出せなかった。

 

次の瞬間、ドッと音と共にマリカは天井スレスレまでジャンプをしていた。とんでもない跳躍力だ。そこから上段で思いっきり振り下ろす。


「ヌルイ!!」


今度はマリカの落下してくるスピードに合わせ大刀をマリカに向けて横払いで吹き飛ばす。どうやらなんとか防御の形に直していたようで、飛ばされながら、体を反転しながら壁に足をつけ払いの衝撃を受け止め、更にそこからさっきと同じように壁にドッと音がした瞬間、バギに向かい空中から突進で突きを繰り出す。

バギは正面から受け、軽く弾き飛ばす。


「マリカ。なかなかいいが、今のは避けられたら自滅だぞ。使い方を考えろ!」


「そうかな?いいと思ったんだけど。ほら大刀に軋み入れたし!」


「あっ!?これ!マリカ!!またワシが怒られるんだぞ!練習なんだから、相手に当てる事を考えろと、いつも言っとるだろう。力技だけじゃ強くなれんぞ!太刀筋はいいんだから考えて動け。」  

 

「んー。考えた結果がアレなんだけど…」


「だから考え方を変えろ!」


「んー」


納得いってないみたいだ。しばらくして2人が俺たちに気付いた。


「おー!!来たか!待っていたぞ!!」


「レイ!ヤッホー!!2人は見学?」


バギとマリカが手お振りながら近づいてくる。


「よ、よう。マリカ。」


「やっほー!!そうだよー。案内中だからね。」


「よう、マリカ。バギ。俺もキリリと同じだ。」


「さっき凄かったね!マリカ。アレが鬼の力なの?」


「うん、そうだよ。褒められるほどまで扱えてはないんだけどね。ありがとう。」


「バギさん。こんにちは。これから試験、よろしくお願いします。」


一礼をしでバギに挨拶をした。先ほどからニコニコしている。


「ああ。こちらこそよろしく頼むぞ。実力を見るためだ。全力で来いよ!木刀を壊さない程度にな!ユリカもバルフもキリリも見学しながら良い点悪い点を見てやれ。」


「「はーい!!」」


「わかった。」


「は、はい。わかりました。因みに魔法は使用可能ですか?」 


「あ?ああ。構わんぞ。」


「わかりました。」


「では、刀は抜いた状態で置き場に置いて、すぐ近くにいろんな形の木刀があるから選んでこい。マリカ、案内してやれ。」


「はーい。レイ!!こっち来て!」


マリカが両手で俺の手を取り引っ張りながら置き場に案内された。剣を抜き、また口に牙が伸びるのを感じ力が溢れてくる。今更だが、他に変化ないよな?角もない。龍神族ってないのかな?  


「どれ使う?」


近くに置いてあるたくさんの木刀の種類の多さに驚かされた。長さから形、太さ様々だ。一先ず、近そうな長さのもの選ぶ。


「これでいいかな。」


「そっだね。いい感じ。」  


マリカがニコ顔で見つめてくる。さっきから手を繋いできたりなんか恥ずかしい。


「じゃあ、行こっか!」


「あ、ああ。」


2人でバギさん達のもとに戻る。そして、俺とバギさんは訓練場の中心まで来る。


「さて、魔法も使うんだったな。なら、少し本気で行くぞ。」


ニカッと牛の顔が楽しそうに笑いかけてくる。


「お手柔らかにお願いします。」


「ああ、大丈夫だ。どこからでもきな!!」


バギさんが大刀を構える。俺は距離を保ちながらバギさんの周りをゆっくり回る。


バギさんは最低限の動きだけで向き直していく。


「気配遮断」


小声で唱え、歩いていた方向と逆に回り込み旋回しながら急速にバギさんへの距離を縮め両手で木刀を上段から繰り出す。バギさんは、右手に持っていたのがいつの間にか左手に大刀を持っていた。だから簡単に防げられた。


「なるほど。面白い魔法を使うのは確かなようだな。見えるのに気配を感じないとはなんと気持ち悪いが、実に面白い。その後、ちゃんと視覚からも見えない様に動いたのもなかなか。消えたように感じた。だが、残念ながら殺気を消さんと意味がないぞ。それに剣筋が素直すぎる。」


早くもダメ出しを食らった。でもまだこれからだ。


「そうですか。でもまだこれからですよ。」


今度は剣先を下に向け下段に構える。バギさんはニヤリと口元をゆるめた。

俺は右眼の眼帯をずらし、一歩目の足に力を込めて、同時に右眼を開眼し、一気にスピードを上げてバギさんとの距離を縮める。バギさんの動きがスローに動いて見える。俺の動きに合わせて横から払い除けるように大刀を振りかざす動作に入っている。俺はバックステップでギリギリのラインでなんなく大刀を避けた。


「な!?」


そのまま横を通り下段から脇下に軽く当てて去った。


「わっはははははは!!こりゃあ一本取られたな。…ふむ、それが龍眼か。あの速度から後ろに避けるとは。それにワシの斬撃の速度でギリギリのところで避けるとは思わんかった!!子供なのに上手く龍眼を使いこなしておるな。文句なしの合格だ。」


「ありがとうございます。」


俺は一礼して、その場に座り込んだ。やはり、龍眼を使いながらの身体強化は疲れる。


「なるほど。まだ使えるだけで体力は足りてないようだな。だが、ようわからんが、最初に見せた気配が消える魔法は狩に最適だ。他に面白いのはあるか!?」


「はい!はいはーい!さっきね。レイ君、透明になって見えなくなってたよ!!」


近づいてきたキリリが俺より先に言った。


「何?透明に?今やれるか?」


「はい。少しだけなら。…ステルス。」


言葉と共に俺の姿が見えなくなる。


「こりゃあ、たまげたな。なるほど最初の攻撃は本来それも組み込見たいんだな!!体力的に今は無理なようだが。」


「はい。それに龍眼も使えばなお良いんですが、まだ厳しいです。魔法の同時使用も相手の力がわからないと、体力的には実績向きではないですね。」


「いや、なかなか賢いな!わかってるなら良い。まずは体力作りからだな。ただ狩にはおそらく使って大丈夫だろ。この辺でお前が倒せないのは数種類しかおらんだろ。それに狩はチームで狩るからな。基本使ってもカバー出来るようにすれば問題ないはずだ。」


「そうですか。役に立てそうで何よりです。」


「そういえば、そいつ血抜きが得意って言ってたな。」


うん。確かに。俺が得意なの言わんでも2人が言ってくれた。


「そりゃあ助かるな。なんかコツでもしってるのか?」


「いえ。俺の剣が魔剣なんですけど、血を吸うんです。」


「「「「え!?」」」」


みなが俺を引いた目で見てくる。


え?何?なんで?俺が困惑しながら皆を見る。


「それはまた、気持ち悪いな。」


「うん。それはちょっとやな感じだね。」


「そうなの?」


「レイ。それはあまり言わない方がいいかも。やる時も見られないようにしてね。」


マリカまで気まずそうに言ってきた。


「そこまで!!?でもそれを魔力に転換させたり体力回復させたり、強化に使えたり万能なんだよ!!」

  

3人はさらに怪訝な顔をで見てきた。なんで?単に便利としか思えないんだけど…。


「ま、まあ歓迎するぞ!!魔剣のことはあまり言わない方が正解だ。魔剣の力だけを見たら相当期待できそうだしな。言わなくて良いことは黙っておけ!では、早速、ワシはラゴルドんとこ行ってしまおう。速いに越したことはないからな。お前らはどうする?チームの再編成もあるからな。今日はここまでだ。マリカ、悪いな。」


「いいよ、別に。レイが早く狩組に入るためだし。」


「そうか。ならいいんだが。…バルフ!!頑張れよ!!では行ってくる。じゃあな。」


バギさんバルフの背中にバシンと叩きながらみなに挨拶して訓練所を出て行った。


「な、なんで今日はみんな俺の背中叩いて頑張れって言うんだ?いってー!!」


バルフが背中をさすりながら嘆いてる。それをキリリが面白そうに眺めてるのを見て寒気がした。…なんかこの4人で残されたの不味くないか?と。

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