聖職者たち

「元はといえば貴様が!」

「いいやお前のせいだ! こちらに一切の非はない!」

「やめてください! もういいでしょう! いつまで続けるつもりです!」


 朽ち果てた聖堂に三人の怒号が響き渡る。砂礫を集めて中央に棒を立て、いかに棒を倒さずに砂を取り除けるかという遊びを考案し、それを三十回ほど繰り返してもまだ口喧嘩が続いているとは。よく飽きないものだと傍観しつつ、今回の目的を思い出すことにした。


 私達国家所属の聖職者一行は確か――ここに住み着き夜な夜な歩き回っているという生ける屍を浄化するためにやって来たのだ。来たのだったか? 確かそうだったはずだ。どうにも気乗りがしなかったので記憶の端に埋もれてしまっていたようだ。


 まったく、こんな依頼をするならばそこら中に溢れている戦後その多くが賊と化した元勇者の一味にでも頼めば安く請け負ってくれただろうに。まあ、それ以上に私達のほうが遥かに安く済むのだからどうしようもないのだが。国に仕えるといえば聞こえは良いが、薄給で雑務を任されるのが常なのだ。


「あなたも何か言ったらどうなんですか!?」


 そう言われても困ってしまうが、ちょうど名案を思いついた。腹が減ったから食事にでもしないか……と言ったら怒られるだろうか。場を和ますための私なりの冗談なのだが、止めておくべきか。止めておこう。駄目だ。恐ろしい。この若い司祭はどうにも頭が固くて融通が利かないところがあるのだ。平時であっても、少しでもふざけようものなら睨めつけてくるのだから。ああ、怖い。神よ、こいつに裁きを。いや、神などこの世にいるのだろうか? 私は未だに拝見したことがないのだが。


 ……そりゃあ、金目のものが入っていないか確認するため古びた宝箱を開けてしまったのは私だ。しかしそれが実は罠であるとは思いもよらなかったし、私達が閉じ込められてしまった原因であるかもしれないと今更白状し謝罪したところで彼らの怒りは収まるのだろうか。


 答えは簡単、不可能だ。無駄に使命感を持ち、自尊心がやたらと高い彼らが快く受け入れるはずがない。そもそも彼らは聞く耳を持たない。私は行きたくないと言ったのに。そうだ段々と思い出してきた。言ったのだよ、私は! しかし誰も聞かなかったのだ! 私は悪くないだろう!


 ほんの百年と五十年前の話である。罠に掛かった私達はまたたく間に生ける屍と化し、聖堂の出入り口は崩落し今に至るというわけだ。


 いつになったら彼らの醜い争いは終わるのだろうか。誰でもいいから早く私達を見つけ出して永遠に眠らせてほしい。

 その時は、古い宝箱を決して開けないでくれたまえよ。

 まだ見ぬ汝らに祝福あれ。[了]

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