怪物狩り
「この世界には無数の怪物がいます。それらの存在と同等に戦うことのできる騎士の皆様や怪物狩りを生業としている方々のおかげで私たちは平和に暮らせているのです」
ふらりと訪れた教会で勧められた茶を飲んでいると、修道女がふと語り始めた。私の職業は怪物狩りであり、普段世話になっているからと彼女が誘ってきたときもまた、今と同じような柔和な微笑みを浮かべていた。
「しかし、彼らでも苦戦する相手がいます」
死んでも死にきれずこの世に留まり夜な夜なさまよう亡者のことだろう。彼らの姿は目に見えても、その身を傷つけることは基本的には不可能である。実体がないのだから仕方がない。眉唾ものの迷信や根拠のない言い伝えにより、ほんの僅かに干渉することはできないことはないのだが、完全に消し去ることまでは敵わない。
それではどう対処するのかというと、彼女たちのような聖職者の集団に『救済』を依頼するのだ。
「さて……怪物狩りさん。あなたはもう、生きてはいないのですよ。つい先日、近隣の街で大規模な戦闘があったと聞きました。おそらくですが、あなたはその時に」
――ああ、気づいていた。死んだときの記憶だってある。私は倍ほどもある怪物に叩き潰されたのだ。死んだ後でもこうやって意思を持ち動き回れるものだとは知らなかったが、だからこそ、私が私であるときに、救済してほしかったからここに来たのだ。私は願いを達成した。この後はどういう形で救われるのだろう。祈りだろうか。それとも――
「それでは皆さん。銃を構えてください」
いや……いや、待ってくれ。私は亡者であるが怪物ではない。修道女たちに銃を向けられているこの状況は思っていたものとは違う。こんな怪物に対するような扱いをされると聞いていたらこんなところにやっては来ない。噂に聞いた話では、聖職者は死者を柔らかく暖かな光で包み込み、全てを浄化するという話では――
「怪物狩りさん。あなたに、救いと祝福を」
私を囲んだ修道女たちが銃を突きつけ、そして、私を撃ち続けた。痛みを感じることはなかった。やがて修道女が近づいてきて、私のために祈りを捧げた。そうして、私の意識は遠のいていった。[了]
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