第28.5話 一目で分かるような確かな関係が、私は欲しかった。(前編)
◇◇◇
誕生日に男子がもらって嬉しいものは何か。
そんな話題が、クラスの女子の間では話題になることがたまにあった。
彼氏への誕生日プレゼントだとか、好きな男子への贈り物だとか、そういったことをする際に、何を贈ろうと皆悩んで、友達に相談するからだ。私はそんな話を振られるたびに適当なものを答えて、そして毎回のように思った。
そんなもの知るか、と。
あんたたちが想っている相手に贈り物をしたいのに、そのアドバイスを他人ができるわけがないだろう、と。
相手のことが好きなら、一緒にいる時間があるのなら、その中で相手が欲しがりそうなものだったりだとか、これがあったら喜ぶだろうなぁってものがひとつくらいは思い浮かぶものじゃないのか。そういうものじゃないのか。
私には生まれたときから、二つ上の兄貴がいた。そして血が繋がってはいないけれど、琴姉という心を許せる姉同然の存在もいた。
兄貴たちは何をするにも一緒で、ずっと仲良しで、いつだってお互いのことを想っているのが伝わってきた。私はずっと間近で、そんな二人を見て育ってきた。
これまで、兄貴からの贈り物だったら琴姉はなんだって大喜びしていたし、逆に琴姉が選んだものだったら兄貴は心から喜んでいた。それが当たり前のことで、恋人だとかカップルだとかそういうものは、そうあるべきなんだと思っていた。
けれど私が憧れていた二人のような関係は一般的ではなくて、私の周りの人たちは皆、二人のようにはなれないようだった。
それは別に悪いことってわけじゃあないと思う。私だって琴姉みたいに甘えたりなんてできないし、兄貴みたいになんでも肯定して支え続けるなんてこともできない。
ただ、例え二人のようにはなれなくたって、自分でも憧れるような理想の関係になってみたいと思うことはやめたくない。少なくとも好きな相手に贈るものくらいは、自分で悩んで、考えて、迷って、私だけで選びたい。
それだけははっきりと言えることだった。
『今、何してんの?』
『部屋で漫画読んでる』
『じゃあちょっと外に出てきて』
六月の十七日。
他のクラスメイトにとっては昨日と変わらないなんでもない日なんだろうけど、私にとっては少し特別な一日。
今日は、幼馴染の和葉の誕生日だ。
いつものようにすぐに返ってきたメッセージに、私は更に返信してスマホをポケットにしまう。前もって買ってしまっておいた、綺麗に包装されたプレゼントを引き出しから取り出したら、こっそりと階段を下りて玄関を開け、家を抜け出した。
「な、なんだよ。急に呼び出して」
家を出てすぐ、和葉は私と落ち合うなり、視線を少し下に動かして言った。
「わざわざしらばっくれくれなくてもいいわよ。見てるこっちが恥ずかしくなるから」
「……」
ついいつものように尖った口調で、少しきつく当たってしまう。私ときたらいつもこうだ。
兄貴や琴姉みたいな関係に憧れているのに、そうなりたいと思っているのに、どうしたって私は私のままで、和葉にも素直になれない。
今日は毒を吐きに来たわけじゃない。和葉の誕生日を祝うために来たんでしょ、私!
大きく息を吸って、吐いて、自分に言い聞かせて口を開く。
「誕生日、おめでとう。これ、プレゼント」
「お、おぅ……」
おぅ、って何よ。おぅ、って!
「ありがとう」だとか「今日も可愛いな」とか、「好きだ」とか、他にもいくらでも言うことはあるでしょうが!
いや、あとの二つはないか。だいたいヘタレな和葉に、そんなことが言えるはずもない。
「用はそれだけだから。また明日」
「お、おやすみ」
本当ならこのまま近くの公園あたりまで散歩して、星でも見ながらなんでもない話なんかもしたいのに。きっと兄貴たちなら、自然にそんなことをしてしまうんだろうに。
私は素っ気なく言葉を放って、またこっそりと自分の部屋まで戻る。ベッドに体を投げ出して、流れるようにため息をひとつ、ふたつ。
「このままじゃ、嫌だなぁ……」
自然と、そんな言葉が身から零れた。
兄貴と琴姉は、付き合っていない。
驚愕の事実を知ったのは、つい先月のことだった。これまでずっと私が理想のカップルとして羨んでいた二人が、誰よりもお似合いのカップルでどんな夫婦よりもおしどり夫婦のようなあの二人が、付き合っていなかった。
きっと、あの二人は特別なんだと思う。
関係についてくる名前なんてどうでもよくて、親友でも、恋人でも、幼馴染でも、何も変わらない確固たる信頼があるんだろうと、そう思う。
でも私は、私たちは二人とは違う。二人にはなれないんだ。
幼馴染なんていう不安定な関係じゃあ、呼び方じゃあ、どうしたって不安になってしまうんだ。
私はなかなか琴姉みたいに素直にはなれないし、どうしたってつんけんしてしまう。和葉だって涙もろくて、平気でデリカシーのないことを言ってきて、兄貴とは似ても似つかない。
だから――。
だから、私は確かな関係が欲しいんだ。
幼馴染なんていう中途半端なものではなくて、この人だけが唯一で特別だと胸を張って言えるような、そんな関係が欲しい。
私はそう思うくらいには、和葉のことを想っているみたいだった。
※作者より※
お久しぶりです。今回は唯と和葉の番外編(前編)をお届けしました。文字数がかなり増えてしまったので二つに分けて、後編は 10/23(金) に投稿する予定です。
さて、私事ではございますが近況を報告させて頂きますと、就職活動も無事終わり、現在は卒業研究に追われながら二章を執筆している最中です。今後の予定としましてはなんとか十二月に始まるカクヨムコンテストに合わせて二章を公開できたらと考えております。金曜日にこの番外編の後編を投稿してからそれまで、また一月と少しばかり期間が空いてしまうことにはなりますが、是非ともお待ち頂ければ幸いです。
また、二章の執筆に伴って一章も所々細かな修正を行っている箇所があります。ご承知おきください。
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