第30話 テスト前日に課題に追われると、翌朝になってから後悔する事がままあったりする。(1)
◇◇◇
「ゆーくん、明日提出の課題って終わってる?」
「うん。もう提出がある課題は全部片付けてあるよ。もしかして琴葉、やってないの?」
「いやぁ、すっかり忘れててさー。夕方咲ちゃんに教えてもらって思い出したんだよ」
あっという間に試験前夜。
もうテストは明日だというのに、俺の部屋で頭を掻きながら笑う琴葉を見て、ため息が零れる。
部屋に掛けられた時計に目をやると、短針が八と九のちょうど真ん中。今から課題に手を付け始めるとすると、最悪徹夜になりそうだ。
「琴葉、写させてはあげないからね?」
「もっ、もちろんだよ! だけどもし分からないところがあったら、教えてほしいなって……」
「まあそれならいいけどさ」
俺はクローゼットから折り畳み式の机を引っぱりだして部屋の中心に置き、その上に勉強道具を出してベットに腰を下ろした。
いつも琴葉とこの部屋で勉強するときには、こうやって二人してベットに並んで座り、二人で勉強するには少し小さい机の上で筆を動かす、というのが習慣なのだ。
「そういえば唯ちゃん、うちに来てたよ」
「ん? そうなの? まあ二人が仲良くしてる分には大いに結構って感じだけど」
勉強を開始してから十分ほどだろうか。とにかくたいして時間が経っていないのに、琴葉は話し始める。
「それよりも琴葉、人って睡眠中に記憶が定着するって知ってる?」
「え? 急にどうしたの?」
俺がかなり有名な豆知識を自慢げに披露しようとするが、琴葉は意図が汲み取れなかったらしく、不思議な顔をした。
そんな彼女に俺は言葉を続ける。
「つまり、徹夜ほど効率の悪い勉強はないんだ」
「え? うん」
「だから、ちゃっちゃと終わらせてしっかり寝れるようにしないとねってことだよ。おしゃべりしてる場合じゃないってことだよ、琴葉」
我ながら、ねちねちと説教臭いことを言ってしまった。
俺は学校用のかばんからノートを取りだし、机の上に置く。
「琴葉。本当は写すのは良くないんだけど、ちゃんと内容を理解しながら手を動かすって言うんならこれ見ていいよ」
「え? 本当に?」
「仕方ないからね。ただし、ちゃんとなんでそうなっているのかを考えながら写すんだよ。ポイントも書いてあるから」
「うん! ありがとう、ゆーくん!」
お礼を言って満面の笑みを浮かべた琴葉に、思わず頬が緩んでしまう。
この間は和葉に偉そうなことを言ってしまったけれど、俺は琴葉をちょっと甘やかしすぎないようにしないといけないのかもしれない。
そんなことを思う俺をよそに、夜はだんだんと更けていった。
◇◇◇
「やっと終わったぁ……」
「ふぅ、もう一時半か。でもまあ、なんとかちゃんと寝れそうだね」
明日提出の課題をやり終えた琴葉が立ち上がって大きく伸びをする。
時計を見るともうこんな時間。それでもなんとかこの時間に終わったのは、琴葉の頑張りあってのものだろう。
これが三時台に入ったりなんかしてしまうと、さっきまであった眠気がどこへ行ってしまったのかさっぱりなくなってしまい、眠ろうとしても眠れなくなってしまう。
「琴葉、クローゼットから布団を出してもらえる?」
「えぇー、もう眠いよぉ」
勉強に使った机を部屋の隅へと寄せる俺に、琴葉は目をこすりながら答える。
「だから、寝るために布団を出すんだろ」
「別に、二人でベッドに寝ればいいじゃん」
「そういうわけにもいかないでしょうが」
琴葉はベッドで横になってしまったので、仕方なく自分で布団をベッドの隣に敷いた。
「電気消すよ?」
「うん」
部屋の照明を落として、布団に入る。瞼は早く下りたかったようで、横になるとすぐに今まで我慢していた眠気が襲ってきた。
「ねぇ、ゆーくん」
「……ん?」
「最近、唯ちゃんよく和葉の部屋に来るよね」
「……そうだね」
頭がなかなか回らない。
琴葉の言葉がなかなか耳に入ってこない。
「ねぇ、ゆーくん」
「……ん」
「唯ちゃんと和葉さ、――」
琴葉がなにかを言ったようだったが、もうほとんど夢の世界にいた俺には、その声は届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます