色彩の妙夢
身体を包む不可解な感覚に、私は今どこを向いているのか、立っているのか座っているのかさえ分からなくなっていました。いつの間にか握りしめていた手は、内側からもぞもぞと得体の知れないものが湧くような違和感を覚えました。恐るおそるひらいた手からは、鮮やかな色をしたいくつもの翅が溢れてきました。形も色も異なるそれらは、蝶々が持っている四枚の翅ととてもよく似ておりました。私の手から溢れた翅は、私の足元に広がっておりました。それらはとてもたくさんで、両の手を使っても一度ではすくいきれないほどの量でした。光を反射させて光る翅は、きれいで美しく、私はそれを手に取って間近で見てみたいと思いました。そっと屈んで、落ちている翅へと手を伸ばしてみました。するとどうしたことでしょう。驚くことに、それらはすべて、私の指先が触れる直前に消えてしまったのです。バチ、と反撥するような衝撃を伴って消えたものですから、私は指先まで消えてしまったように思いました。思わず逸らしてしまった目線を指先に戻すと、失ったと思った指は間違いなくそこにありました。いいえ、そこかしこにありました。そして、それらは私を注意深く見ていたのです。花畑に咲く花の代わりとして一面に敷かれた指先は、その全てがまっすぐに私を見つめていました。ひゅうと気まぐれに吹いた風が、ごうごうと音を立てて私に迫りました。辺りは暗いやみ色に落ち、敷き詰められた指だけが、てらてらと怪しい色を携えて、光っているのです。怖くなって膝を抱えても、目を閉じて耳を塞いでも、何一つなくなってはくれません。バチバチと不快な音が耳元ではじけます。音がはじけると、ちぎれた翅が姿を現し、糸でつられているかのごとく、不自然につんつんと舞うのです。すべての音は頭の中で響いていきます。それらはやがて、くすくす、ぎゃあぎゃあ、といった醜く笑う声に変わり、うずくまったままでいる私の周りを、何度も駆けまわっていきました。
調色板と瞳 鈴居 凛大 @5_lz
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