調色板と瞳
鈴居 凛大
調色板と瞳
神様に祈りを捧ぐ君の後ろ姿を、僕はただずっと網膜に焼き付けていた。焼き付いて離れなくなった色がいつしか醜い焦げになるまで、僕はずっと君を見ていた。君は僕を知らないけれど、僕は君をよく知っている。後ろからでもわかるのだ。亜麻色の髪は光を透かして、翡翠の瞳は暗くふせる。綺麗に組まれた華奢な指先。触れてしまえば、春解けの氷柱よりも簡単に折れてしまいそうだ。君の手はあの日差しのように温かいのだろうか、それともこの風のように冷たいのだろうか。もし誰かにその手を差し出す時が来たとしても、その誰かは僕ではない。僕はその誰かになることはできないのだ。
君が僕を知った日。明け方、誰にも気づかれないように君は、そっとこの教会をあとにするだろう。今日から先、君がこのオルガンを奏で、その音色に胸を弾ませることは二度とない。ステンドグラスを通った陽が祈りを捧げる君の顔を照らすこともない。君はもうここに居られない、帰ることもない。君はそれを知っている。君は僕を知ってしまった。
振り向かずに走る。逃げるように、遠く、遠くへ。焼け付くほど焦がれた、よく知ったあの後ろ姿で。
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