第3話
次世代に怨恨を残さないための大きな理由、もう傷つく人たちを減らしたいという村全体の考え。命を大事に、戦争なんかで血を流し悲しむようなことがないように、その願いを込めてこの村にいるたくさんの戦争を経験した世代の人たちは、怒りを飲み込んだ。
未だに王国に対して怒りを抱えている人たちは多いけれど、それでもそのことを言う人は誰もいない。次世代の私たちが、同じ過ちを繰り返さないために。
「ソフィア、戦争では恐ろしい武器が用いられた。私たちの使う魔法とは違う、魔術が組み込まれたものだ。魔法と魔術の違いはわかるね?」
「はい、シスター。魔法は自然の力と身体の中にある魔力、両方を合わせて行使する力、魔術は身体の中にある魔力を使う、魔法の劣化版です」
「ええ、簡単に言えば、魔術は魔法の劣化版。さて、ソフィア。ここで問題よ、なぜこの村は狙われたのか。いいえ、なぜ私たち一族が狙われたのか、わかる? まあ、これはアタシの想像に過ぎないから本当の理由は知らないけどね」
「まさ、か……」
魔法から比べると魔術は威力なども含めてすべてが魔法に劣る。アクロイド男爵とは王国に与えられた名前。本当は私の家が長である、一つの一族なのが、この村。
まさか、魔法が欲しかったから?
「そうよ、私たちは多少の違いはあるけれど、みんな銀髪に紫色の瞳。それはね自然の力を借りることのできる、精霊師と呼ばれる一族だから。精霊師は残念ながら滅びたと言われているけど、実際には身を隠したというのが正しいわ。権力争いに巻き込まれるから」
シスターの話は想像以上に胸に重くのしかかる。身を隠したのに、見つかって、従わないから蹂躙された。これ以上の悲しい死を増やさないために従ったけれど、抵抗したという理由でこんな土地に放り出された。
古来より、精霊師の扱いは国によって異なる。この王国は軍事利用を試みたようだけど、抵抗が激しかったために、私たちをゆっくりと殺すためにこの地へ閉じ込めた。
「もう一度言っておくけど、この話はアタシの予測にすぎない。それにこの村にいる誰もが本当の理由は知らないんだ。だって、もう。もう、それを知っている人たちはあの戦争でみんないなくなったからね……」
戦争なんて、何一ついいことはない、その先にあるのは悲しみや憎しみ、怒りだけさ。
そう言ったシスターの声は、酷く重い。シスターも、幼いころに戦争で家族を亡くしたと聞いている。それでも一族のために自分だけでも助けるんだと、言っていたのも覚えている。
「アタシの父親も、そうだったさ。みんなを守るって言って、帰ってこなかった」
悔しそうに歪む表情、時間が経つだけで何一つ問題は解決には至っていない。心に大きな傷を抱えて、帰ってくることのない大切な人たちの面影を探して、淋しく、傷をなめ合って生きている。
「シスター……」
「そりゃね、復讐できるんならしてやりたいさ。だけど、精霊師に必要なのは人を傷つける心じゃない。誰かを大切に思う心なんだ。そうじゃなければ、精霊は力を貸してくれない」
「それって……」
「そうさ、アタシたちは負けても復讐を誓わなかった。それは精霊師としての人材を失わないため」
一族は、精霊師としての血筋を残すことを優先した、とシスターが目を伏せて言った。そうすることが、先の戦争で私たちを守って死んでいった一族の人たちへの、恩返しだとも。
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