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「これが『銃』、というわけか」

「ええ、あなたが知りたがっているもの。ライ君が使う力の一種ですよ」

 酒場のテーブル席に向かい合う二人がいた。

 一人はフランソワーズ・ハイヒール。黒い長髪と黒よりの肌着の上に蒼い鎧を身に纏っている。彼女は差し出された銃という武器を、両手で掲げて眺めはじめた。

「最も、それはライ君の養母、エルザさんの故郷で使われている廻転銃リボルバーの短銃で、彼が使っている単発銃の後継に当たりますね」

「成程、これは彼の使っている銃と違って複数の弾丸を込められる。しかも廻転することにより次の弾丸を銃身に移動させることで、連続での使用を可能にしたのか」

 その通りだと、フランソワーズの向かいに座る赤毛の少女は頷いた。

 彼、いや彼女の名前はセッタ。この町の情報屋であり、常に外見を変えているため、誰も本来の姿を知らない。性別すらも分からず、共通しているのはライと同じ身長と情報屋としての腕だけである。

 セッタは今日、仕事帰りの前にフランソワーズに頼まれ、今回『銃』についての説明を請け負ったため、この席を設けたのだ。

「しかし、私がいた王都ではこの手の武器を見たことがないのだが、何故普及していないのだ?」

「単純に威力不足なんですよ。その辺りにいる魔物でも急所に当たらない限り、複数発撃ち込まないと倒れません。それに弓矢の方が安価、というよりもコストが高すぎるので、かえって人気が低いんです。……まあ、人間相手なら簡単に殺せてしまうので、急な普及は困るという国の判断もありますが」

「確かに、同族ひと殺しには十分な威力だから……ちょっと待て」

 ふと何かに気付いたのか、フランソワーズは受け取っていた廻転銃リボルバーをテーブルの上に置いた。

「だとしたらおかしくないか? 彼が使っていた銃の威力は、生物兵器すら簡単に駆逐してのけたぞ」

「そこが、彼が単発銃を使い続ける理由の一つなんですよ」

 セッタは廻転銃リボルバーを受け取り、黒のフリルとレースをふんだんにあしらったドレスに合わせて用意したポーチに仕舞った。

「彼の使う弾丸は魔法を用いて作成されたもので、構造が単純な単発銃の方が、その衝撃に耐えられるんですよ。おまけに事前に込められない分、状況に応じて最適な弾丸を選んですぐに撃てるというメリットもあります。だからこそ、数で勝る人間相手ならまだしも、単体でも強力な生物兵器や魔物に対してのみしか、使ってないんですよ」

「そうだな。確かに、この町で銃を見せびらかしたなどという話は、調べた限り聞いたことがない」

 人間相手に武器を振るうのは立派な犯罪行為だが、攻撃された側が武器を抜く限りは自己防衛の範疇なので許される。にも拘らず、ライはこの町で攻撃される時は大抵剣を抜くか、異能を用いて逃げている方が多い。

 あの蜘蛛の生物兵器と戦う時でも、ライは最初に剣を抜いていた。銃に弾丸を込めていなかったということもあるだろうが、それこそ一緒にいた奴隷のミルズに牽制してもらえば済む話だ。

「まあ、本人曰く弾丸一つ作るのにものすごい手間が掛かるようですので、普段から節約を心がけている可能性も否めないのですがね」

「……むしろ、それが一番あり得そうだな」

 しかし、威力に関してだけ言えば、出回っている武器を上回るものがある。おまけに撃ち方さえ覚えてしまえば、剣と違って煩わしい訓練をせずとも、十分に戦えてしまう。

 ただ、問題なのは……

「後は仲間との連携、か」

 仲間との連携で、ライは戦闘のバリエーションを増やすことができる。仲間を作ることで彼自身が格段に強くなる筈なのだが、それでも彼は仲間を増やそうとしない。

 何故ライは、奴隷ミルズ以外と組まないのだろうか?

 疑問を胸中に浮かべていると、件の人物が店の中に入ってきた。

 当の人物、ライはフランソワーズ達に気づくことなく、後ろに誰かを連れて奥のカウンター席に並んで腰掛けた。

「……後ろにいるのは誰だ?」

「メレディス・モカシン。昔、別の町でライ君と組んでいた冒険者ですよ。確か、冒険者になる前からの昔馴染みだったと記憶していますが」

 フランソワーズから渡された追加料金を数えつつ、セッタは答えた。

「ただ、こちらで仕事をしているという話は聞いていませんから、護衛か何かでこの町に寄ったか、新規の仕事を受けに来たかまではわかりませんが」

「つまり仕事のついでに顔を見せに来たということか」

 ならば水入らずの方がいいだろうと、フランソワーズは勘定を置いて立ち上がろうとした。




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